朝、チャートを開く前には決めていたはずです。9時半を過ぎてから入る。それより前は見送る。
なのに気がつくと、9時2分にロングを持っています。
夜に記録を見返して、また同じことをしたなと思う。ノートには先週も同じ反省が書いてありました。
私も何度も経験あるのですが、これは意志が弱いから起きることではありません。ルールの書き方の問題です。
1.ルールを守れないのは、意志の問題ではありません
行動の研究には、意図と行動のギャップという言葉があります。「守る」と決めた人と、実際に守れた人は別の集団だ、という話です。
イギリスの心理学研究者シーラン氏らが、400本を超える研究、8万人分のデータを整理しました。ギャップのほとんどを作っていたのは「やると決めたのに、やらなかった人」でした。
つまり、決意の量ではなく、決意から行動に渡す部分が壊れている、ということになります。
2.私の記録を数えたら、13回中0回でした
では、実際の数字で説明していきます。
私は朝9時台のドル円だけを取引していて、7月20日から8月10日までの14営業日ぶんの記録があります。1人ぶんなので母数は小さいです。それでも自分のルールを検査するには十分でした。
書いていたルールは「9:30から9:40の間にロングで入る」でした。
この14営業日でロングが成立したのは13回。そのうち窓に入っていたのは0回です。遵守率0%でした。
たちが悪いのは、平均を取ると9:23になることです。ぱっと見は守れているように見えます。
中身を割ると、こうなっていました。
1. 9:00から9:08に入ったのが6回
2. 9:23から9:24に入ったのが3回
3. 9:45から9:57に入ったのが4回
窓の前と後ろに割れていて、真ん中が空いています。平均はその空いた真ん中を指していただけでした。
つまり、平均を見ていると「守れている」と誤解する、ということです。遵守率は1回ずつ数えないと出てきません。
ちなみに決済は13回中8回が窓の中でした。壊れていたのは入口です。
3.「決めた」だけでは、行動の28%しか決まりません
ここからは一般則の話です。
さきほどのシーラン氏の整理では、「やろうと思っている度合い」で説明できる行動のばらつきは28%でした。残りの72%は別の要因です。決意を強めさせる実験でも、行動はその半分しか動きませんでした。
同じ整理には、経験と「決めた通りに動けるか」の関係が逆U字を描くという報告もあります。最初は経験を積むほど守れますが、ある地点から行動が自動化し、その日の判断を通さずに手が動くようになる。
つまり、慣れてきた頃がいちばん危ない、ということです。私の0/13も、手法を覚えたあとに起きています。
もう一つ足します。ドイツとイギリスの研究チーム、ゴルヴィツァー氏とシーラン氏らは、自分の理想像に関わる目標を人に見てもらうと、かえって実行量が減ることを示しました。宣言した時点で、そういう人になれた気がしてしまうからです。
SNSで「今日からルールを徹底します」と書いたあと、なぜか続かない。あれには理屈があります。
4.ルールの形を変えると、達成率が変わります
では、どう直すか。研究で最も検証されている形が一つあります。
if-then、つまり「もし◯◯になったら、そのとき△△する」という書き方です。
94本の研究をまとめた解析では、この形にするだけで達成率が上がっていました。「2人を選んで比べたとき、この形で書いた側が上回る確率が68%」くらいの差です。2024年に642件まで広げた解析でも効果は残っていました。
なぜ効くのか。目標ではなく「引き金」を先に決めているからです。
「損切りを徹底する」は目標で、引き金がありません。「もし直近安値を1pipsでも割ったら、そのとき成行で決済する」は引き金付きです。pipsは値動きの最小単位で、ドル円なら0.01円になります。
紙1枚にする効果も大きいです。医療の分野には、手術前の確認項目をリスト化しただけで術後の死亡率が1.5%から0.8%に下がった検証があります。
ただし増やしすぎると逆効果です。覚える数字を7桁にした群と2桁にした群で、目先の快楽を選んだ割合が63%と41%に分かれた実験があります。10項目を思い出しながらチャートを見た時点で、判断は感情側に倒れます。
項目は3つまでがおすすめです。
5.実際にルールを書き直していきます
では、以下の順番で組み直していきます。
まず、既存のルールで遵守率を数えます。直近20回で「守れた回数 ÷ 実行した回数」を出すだけでOKです。
次に、守れていない項目を1つだけ選びます。全部直そうとすると、さっきの上限にぶつかるからです。
そして、その項目をif-then型に書き換えます。大事なのは、時刻や価格のような「外から確認できるもの」を引き金にすることです。「調子がいいと感じたら」は、あとから守れたか判定できません。
最後に、記録用紙に◯と×の欄を作ります。損益ではなく、遵守できたかだけを書きます。
野球で例えるなら、フォームを直す前にスイングを動画で撮る作業になります。どこが悪い?って考えても分からないのであって、撮ったら一発で分かる。
あと、外から縛られる形も有効です。海外の研究者ヘイマー氏とイマス氏の分析では、レバレッジの上限規制が入った後、個人トレーダーの成績と損切りの判断が改善していました。
6.私の負けパターン
ここでは最後に、私がやってしまったルール外の負けパターンをお伝えします。
1. ルールを増やした直後の崩壊 条件を5つに増やした週は、3日目で全部見なくなりました。
2. 「今日は例外」を作る 指標発表の翌日だけ、と決めた例外が、翌月には週2回に増えていました。
3. 損益だけを記録する 勝った日は守れたことにしていました。
4. 宣言して満足する ルールを人に見せた週ほど、記録が薄くなっていました。
ルールを守る。これが大事だと改めて気付きました。
7.まとめ
覚えて帰っていただきたいのは、次の3行です。
1. ルールが守れないのは意志ではなく、書き方と測り方の問題です
2. 遵守率は1回ずつ数える。平均は「守れているつもり」を作ります
3. 「もし◯◯なら、そのとき△△する」の形にして、項目は3つまでにします
今日やることは一つだけでOKです。
直近20回の記録で、いちばん自信のあるルール1つの遵守率を数えてください。数字が出た時点で、直す場所が決まります。
以上が、トレードルールの作り方になります。ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。
note について
ここに書いたことは、すべて無料で学べる範囲です。遵守率を数えるのに道具はいりません。
ただ、実際にやると次の壁が出てきます。if-then型の引き金になる条件は、結局「相場がどっちを向いているか」から出てきます。ルールの入口は環境認識です。
1. 時間足を切り替えているうちに、狙っていた場面が終わっている
2. 疲れた日は日足を飛ばし、含み損があると都合のいい時間足だけ見る
3. 昨日レンジと判断したチャートを、今日は上昇トレンドと見てしまう
これも意志の問題ではありません。毎回同じ基準で確認し続けること自体が重いからです。
その確認作業を引き受ける道具を、noteにまとめています。
note:環境認識に、毎日何分使っていますか
有料のツールなので期待値は先に下げておきます。判断を任せるものではありません。使っても負けるときは負けます。
急いで見る必要はありません。まずは遵守率を数えるところからで大丈夫です。