お巡りさんの装備をリアルに描いていて遅くなりました。
今回は『相棒』Season 7 最終回「特命」で登場する交番のお巡りさん、真鍋さんが登場します。
あの人、村の人達の事よく知っていて優秀なんだけど、あんなことあったら村にいられなくなっちゃうだろうな・・・。と、いうことで。
▽ ▽
境界に流れるもの
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東京都にも温泉郷と言う場所があるのをご存知だろうか?
奥多摩温泉と言う場所はあるが、そこではない。
それはまさに埼玉県の境界すれすれの場所にある、山あいの谷の中に存在する。
青梅街道を西へ進み、八高線を過ぎて最初の交差点を北に曲がり、分かれ道に惑わされずまっすぐ進む。
岩蔵街道と呼ばれるその道は都道44号線。想像よりも大きな道だ。
青梅インターチェンジの手前で圏央道の高架をくぐり、とにかくまっすぐに進んでいくと、徐々に山あいの様相を帯びてくる。
青梅や八王子は、東京の中心から遠いからと言って、昔から寂しい土地だったわけではない。織物や生糸の取引、山から運び出される木材、そして人や荷物の行き交う街道によって栄えてきた土地なのである。
この道もきっと、その時代の賑やかさをどこかに残しているのだろう。
さて 、警察官である以上おかしなものを乗せて走ることは多々ある。
愛車のGT-Rではなく他の車で走る事も多々ある。
ましてや自分は何でも屋の特命係なのだからなおさらである。
今回、持ち主に返す盗難品は、美少女アニメフィギュアを石像にしたものである。
意味が分からないかもしれないが、アニメのキャラクターを彫刻感覚で石や木で作ろう。と、考える人は多いので、要は石材屋で販売されているアンパンマンやドラえもんやポケモンのキャラクターの石像のようなもの。と考えてもらえばいい。
この石像は盗難被害に遭ってからネットオークションに出されていたのを発見され、あえなくその犯人は御用となったので、いつものように特命係が返還と言う事になった。
が、石像と言うものは太い釘のような形の"石ノミ"を打って作られる。石像は頑丈そうに見えて、細く彫り出された髪や指先は案外脆い。車の揺れで欠けでもしたら、盗難品を返しに行った意味がなくなる。
そのため丁重に扱えと言うことでプチプチで慎重に巻かれ、底面をしっかりと固定した形でミニバンに乗せられての移動となった。
とはいえ東京は田舎であってもどこか垢抜けている。
埼玉県や神奈川県とは少し違う里山の中を走っていくと、懐かしい火の見櫓に大きく「ようこそ岩蔵温泉へ」の文字が見えた。
そこから一気に道は、車幅がある場合すれ違うのも難しそうな細い道へと変わるのだ。
そこには、まるで昔ばなしから出てきたような、長閑な里山の風景が広がっていた。
その細い道をまっすぐ進むとまるで、ロールケーキのような、変わった形の建物が目に入る。
目的地の小曽木駐在所である。
ここは通っていると道幅が狭いものの案外車の通りが多いため、ミニパトの停まるガレージに寄せる形で停車させてもらう。
ミニバンが停まったのを見て、駐在所からひとりの警察官が出てくる。
「お疲れ様です。ここ、案外車通りが多いんで、すぐ先の消防団の車庫脇に停めてください。出入口を空けて、端に寄せてもらえれば」
「え?いいの?」
「駐在所に用事のある方は、そこを使わせてもらってるんです」
そういわれるがまま、消防団の消防車置き場の前に車を停めさせてもらう。
すぐ横の斜面には小道があり、その入り口には大きなヤマザクラの木がそびえている。春になればここもきっとお花見客でにぎわうのだろう。
リアのドアを開けようと車から降りたところで、ついてきた警察官の顔に見覚えがあることに気づいた。
「お疲れ様です。神戸警部」
「あれ?確か君って馬頭刈村(まずかりむら)の・・・」
馬頭刈村の単語に、連絡を受けた巡査長は敬礼をして答えた。
「はい。馬頭刈村にいました、真鍋です。お久しぶりです」
馬頭刈村の真鍋哲朗巡査長と言えば。
5年前、サヴァン症候群の山口毅一が、突然殺人現場の絵を描いた事に驚いた姉の直弓が、証拠写真にならないかと駐在所に駆け込んだ際、窓際部署の噂になめてかかり、杉下右京を呼んでしまった張本人であり、それが後の悲劇にもつながる事になるのだが。
あの時、真鍋は右京に向かい、あなたのせいだとは言わなかったが、内心はらわたが煮えくり返っていただろう。
そして右京に関わった警察官は良心の呵責を執拗に攻撃され、退職する者も多いのだが、彼は退職しなかった。
それだけでも珍しい。
「懐かしい。あの時は特命係の配属初日でね・・・」
「はあ。そうだったのですか・・・」
これ以上、杉下右京の事は口にするのは憚られる。
そんな空気が真鍋からは感じ取られた。
確かにそうだ。尊もこれ以上は口にしたくない。
あのあと、事業に失敗し借金まみれのわが子を助けるため、病死と誤魔化し死を受け入れた母と、妻を殺めた父親の罪を知った小池福助はどうなったのだろう?父親とその仲間たちが現場の証拠を隠蔽したため、道に迷った弟を放置した直弓は?そこは気になるが。
少なくとも今の尊には、あれは良心の暴走だったとしか見えなかった。同時に右京が来なければ起こりえなかった悲劇だった。
あの頃も「事件を作る事」に心底驚いた上に、もっと追求すべき犯罪は他にあるだろう。と、思ったし、福助が右京の言葉に毒されるのを目の当たりにし、心底恐ろしいと感じた。
そしてかく言う自分も汚染されていった訳だが。
「でもまた山奥でしょう?大変じゃない?」
「足腰で選ばれていますね。足腰には自信がありますし、何より山の集落が好きなんです」
そう言って真鍋は面長の顔をほころばせた。
おそらくは馬頭刈村を追い出される形であっただろうが、山の集落が好きなのは本当らしい。それがせめてもの救いだ。実際こうして今も警察官を続けているのだから。
「しかし神戸警部。特命係は刑事部の正式な部署だったんですね。官報に正式な部署として昇格すると書かれていて驚きました」
「ずっと刑事部の臨時付だったからね」
「でも相変わらず組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課内って長ったらしいんですね。ある意味現代的です」
「何?現代的って」
特命係の正式名称は『警視庁刑事部特命係組織犯罪対策部組織犯罪対策第五課内』である。
いくら正式の部署に昇格しても、組織犯罪対策第五課内に部屋がある以上、どうしても名前が長くなってしまうのは致し方がない。
そしてミニバンのリアから二人がかりでクッション付きの台座の上に載せた石像は、石という素材を考えて腕を太ももの下にまわし、スカートを抱き込んで体育座りをするアニメ調の少女の姿だ。
中身が詰まっているだけに相当重いため、盗むやつも盗むやつだと思う。
「この作家さんの作風は、石なのにスカートがちゃんとスカートに見えるのが特徴らしいです」
「へえ。つまり、大理石じゃないのに重なりとか柔らかさのような布らしく再現できる。って言う事かな?」
美術品に造詣の深い尊であるので、まあ言いたいことは分かる。
17世紀から18世紀のイタリアで、大理石でやたらと薄いベールを再現することに執念を向けた、アントニオ・コッラディーニという彫刻家がいたくらいなので、石で布を再現するというのは、彫刻家にとって永遠のこだわりであるのだろう。
考えてみれば石で布を再現するというこだわりは、紀元前190年頃の彫刻サモトラケのニケや、紀元前2世紀ごろのミロのビーナスもそうであるし、日本の仏像でさえそうだ。
考えてみたらきりがなくなってくる。
しかしその言葉に真鍋はとたんに目を輝かせる。
「そうなんです!そうなんですよ。この彫刻家の先生がこの場所にアトリエを置いたのも、ここは成木石灰(なりきせっかい)と呼ばれる、江戸城や日光東照宮の修築にも漆喰の原料として使用されたという石が産出される場所だからなんです」
「そういえば。ここに来るまでにも石を積んだトラックを何台も見たけど、それ?」
「そうです。そうです。そして東京の街中に何故かセメント工場がある場所があるでしょ? それもここから運ばれた石灰岩を加工している工場なんですよ」
「そうだったんだ!」
言われてみれば、かつて甲州街道を走っていた際、東府中駅のすぐ目の前に大きなセメント工場がそびえ立っていたのを思い出す。
当時はなぜこんな駅前の一等地に無骨なプラントがあるのか不思議に思ったものだが、成木で産出された石灰と、多摩川の砂利を合わせた生コンクリートの製造拠点だったと考えれば辻褄が合う。
都会の真ん中に唐突に現れる工場の風景も、元を辿ればこの成木石灰の繁栄と、東京の近代化を支えた名残というわけだ。
「あと、大理石って石灰岩が地中でマグマの熱や圧力を受けて再結晶化した変成岩だから、これを作った作家さんもここの石では作らなくても、そうした敬意があるんだと思うよ」
「なるほど。同じカルシウムから作られるから、だから大理石には時々化石が入っているんですね」
「そうそう。日本橋の三越本店の壁とか。建物に使う石は、石灰岩でも大理石と呼ぶことがあるんだよ。化石が見えるのは、そういう石が多いね」
そうして真鍋と尊はゆっくりと石像を移動させて駐在所に着くと、電話で作家のところへ連絡をする。
なにぶん大きなものであるので、アトリエの方に持っていくよりも、勝手の知っている作者本人に取りに来てもらうのが安全だと考えた訳だ。
ほどなくして駐在所の前にその作者である彫刻家のワゴン車がやって来て、三人がかりで慎重に石像を乗せ、主のアトリエへと戻って行った。
皆顔見知りのためにこうしたおおらかな事が出来るのも、山の中の集落ならではと言えるだろう。
車を見送った後「じゃあ僕はこれで」と、帰ろうとする尊に、真鍋は「ちょっと待ってください」と引き留めた。
「ここからすぐ先は埼玉県なのはご存知ですよね?」
「そうだけど。どうしたの?」
「その埼玉県と東京都の境に面白い場所があるんです。是非見て行ってください」
▽
そうして真鍋に言われるがまま、巡回に出る真鍋に同行して案内されたのは、岩井堂観音と言う幟が連なる場所である。
駐在所から歩いて1キロ半ほどの場所で、郊外によくあるような森の中を進む道で、鼻と呼ばれる短いでっぱりの尾根部分が切り通しになった先に「岩井堂観音」の大きな看板と、その赤い幟がはためいている。
そして切り通しとなった尾根の頂上には赤い鳥居が見えた。
「神戸警部、ここからはもう埼玉県なんです」
「え?!じゃあこの観音堂って本当に県と都の境にあるの?」
「そうなんですよ」
そういって真鍋は頭上を指さす。
確かにそこには「埼玉県 飯能市」の看板が掲げられている。
しかも「岩井堂観音」看板には不思議な文言が書かれている。
「ん?浅草・浅草寺観音発祥の地って何?浅草寺って東京では最も古いお寺のはずだけど」
「そうなんです。浅草寺って飛鳥時代に漁師の兄弟が川から流れてきた観音様を、隅田川で引き上げた事から始まっていますが。そうなると、ここにあった観音様はそれより以前から存在したことになるんです」
「ん?え?年代もそうだけど、じゃあここの下に流れている川って?」
「この下を流れる成木川が合流するのは入間川なんです」
「あ!そうか。入間川が合流するのは荒川だし、江戸の町が出来る前は、大きな川全てが合流するのが隅田川だったんだしね」
(ジオ・フロント株式会社より)
「昔は今と川筋が違いますからね。1400年前に旅の僧侶が置いて行った観音像が洪水で流れてしまい、川を伝って浅草まで流れた、という言い伝えなんですよ」
「なるほど。今の地図だけ見ていたら、思いつかない話だね・・・」
日本に仏教が伝来したのが西暦538年ごろという話であるから、確かに西暦600年頃であれば奈良から遠く離れたこの場所でも、仏教の僧侶がいてもおかしくはない。
が、果たしてその時代に特定の寺院に身を置かず、行脚しながら仏教の布教や修行を行う遊行僧がいたのだろうか?
ただ、浅草寺の秘仏である本尊は高さは約5.5センチの金色の像といわれており、6世紀の古墳には仏教の儀式として使って形跡はないが、仏具らしき副葬品や仏像らしきものが彫られた鏡もあるそうなので、仏像としてだけでなく、土地の神を祀る信仰とも重なりながら、大切にされてきたのかもしれない。
「あ!やっぱりなんか納得いかないですよね」
「うん。その時代にはたして遊行僧なんていたのかな?って。それにあそこに鳥居があるでしょ?観音様というよりも神様と考えたほうが自然じゃない?」
と、尊は頂上にある鳥居を指さした。
が、その答えは非常に意外なものだった。
「ああ。あれは観音堂じゃなくて祠なんですよ。ただあそこには尖った大きな岩があってお岩場というのですが、そこから階段とロープと鎖場を伝って降りていった岩のところに観音堂があるんです」
「ええ?!!」
「まあ、普通は山の上にあると思いますよね。幟の並ぶ階段からも行けますが、途中木が川に向かって横に生えていて道を塞いでいるので、そこは気を付けないといけないです。せっかくなんで行ってみますか?アドベンチャーな気分になりますよ」
「やめときます・・・。でも確かにお堂が下の方にあるなら、流れ出してもおかしくないね」
まあ、正直なところ、杉下右京がいた時代は散々革靴で登山などさせられてきたので、行こうと思えば行けない事もないのだが、とりあえずこうした理由で越境した場合、職務中に観光だと思われるのも嫌なので今日はやめておく。
「そうですね。お堂の建っている場所柄、警部のおっしゃる通り、元々は神社だった可能性もあると思います」
「それにここって岩蔵温泉って名前だよね?それって岩場に祀られる自然信仰、いわゆる磐座(いわくら)の事じゃないかな?それが時代を経て観音信仰と結びついた。岩蔵温泉の『岩蔵』という地名も、元を辿ればそのあたりから来ているのかもしれないね」
「たしかに!そう考えると面白いですね。確かにこの岩蔵温泉という場所は、1200年も歴史があると言われているんですよ」
「本当に?!だったら案外単なる想像でもないかも。じゃあ、地名の由来も調べてみたくなるね」
そうして二人で「うふふ」と笑いあう。
しかし埼玉県と東京都の境にいることで、ふとこんな事が妙に気になり始める。
「でもさあ。だとしたらだよ。この観音堂って境界から数十メートルくらいしか埼玉県側に離れていない訳じゃない?もし1400年前と同じ事があったら、流れつくのは隅田川でも、管轄は埼玉県警になっちゃうよね?こっちはこんなに近いのに」
「そうなんですよ!こちらはここから1.5キロメートルのところに駐在所がありますが、飯能市はここから最も近い交番まで飯能駅前の約3キロメートル離れているという話です」
なるほど。なんとなく埼玉県は警察官一人の負担が大きいようなイメージがあるのだが、そうした理由もあるのかもしれない。と、思った尊の脳裏に岩蔵温泉までの道のりを確かめるために見た地図で、気になったところがあったのを思い出した。
「あ!そういえばここに来るまでに地図で見たけど、美杉台ってなんか高級住宅地っぽい住宅地見つけたけど、という事はそこにも交番がないって事?」
「そういう事になりますね・・・」
「ええ。それってかなり物騒だなあ。じゃあやっぱり隅田川まで見つけてもらえなくて、結局警視庁の管轄になるのかな・・・」
「あはは、笑えない冗談ですね」
「昔の人にとってはひとつの自然な川の流れでも、行政や法律で線を引いた現代人にとっては、境界線を跨ぐたびに山のような書類と管轄協議が発生するんだから、今はかなり面倒だよね」
そう言って真鍋と顔を見合わせ、苦笑いを漏らす。
山あいの涼やかな風が吹き抜け、赤い幟を小さく揺らしている。
古代の神話や信仰の時代には存在しなかった「都県境」という目に見えない線が、現代の自分たちの職務を縛り、時にややこしく彩っている。
「そうそう。もうひとつとっておきの風景が見られる場所があるんですよ。こちらはここからすぐに行けますのでご案内しますよ」
「へえ。ここにはおすすめの場所たくさんあるんだね」
そう尊が感心すると、真鍋は嬉しそうに尊をその「とっておきの場所」に案内する。
そこは畑の中に、細い参道の通った山の中腹にある小さな神社『金比羅神社』だった。
現在は鬱蒼とした杉林の中にあるが、神社の裏の山は近年東京の木がまた見直されてきたため、ゆくゆくは建材として伐り出されるだろうという話だ。
確かに裏山の杉林はよくある放置されたものとは違う明るさがある。
真鍋は鳥居の前で帽子を脱いで一礼をすると、尊もそれに続いて鳥居の前で一礼をする。
階段の横の杉並木も丁寧に整えられており、この神社がこの集落から愛されていることがよく分かる。そうした神社は小さな神社で森が深くなくとも境内の空気が清冽に感じるものだが、まさにこの神社はその表現にふさわしい。
二人で柏手を打ち、神様に挨拶をすると、真鍋は境内から周囲を見渡せる場所を指さした。
「あの場所がわたしのとっておきの場所です」
「わあ!すごい。真鍋君!」
その場所に立ち、町の方を見てみると思わず声が出る。
高台というのは少し登っただけで見える風景ががらりと変わる。まさにここもそうだった。
この神社は神社の中では珍しく集落を見渡せるように北向きに建てられている。そのため、ここから見えるのは秩父山地の方角だ。
そのため、低い山から高山へと深く山が連なっていく壮大な景色が延々と見えるのだ。都会に住んでいるとそんな当たり前の事でさえうっかり忘れてしまう。そんなことを思い出させてくれる。
「すごいでしょう?これが一番好きなんです」
「確かに!これは離れたくなくなるね!」
風景というものは人が思いを寄せるものの一つである。実際尊にとってもお気に入りは特命係の部屋から見える皇居の森だ。
つまり真鍋にとっての皇居の森は、この秩父山地へと続く山なのだろう。
そうして尊は思わず肺の中に思い切りこの清らかな空気を吸い込んだ。
そして神様の御利益か、その時車の中で見た地図で、あるスポットをチェックしていた事を思い出した。
この集落に入る橋の埼玉側のすぐそばに、ストリートビューでチェックすると可愛らしいレストランがあるのだが、例の美杉台も気になっていた事なので、この場所が気に入ったら今度出不精でエア旅行が趣味の、年上の友人を連れてこようと思っていたのだった。
どうやら美杉台は街の街路樹のモミジバフウで紅葉と新緑の名所らしい。
そんな尊の様子を見て、真鍋はまた嬉しそうに思いがけない事を口にする。
「深呼吸したくなるでしょう?ここに来ると、なんだか頭も冴えてくるんですよ」
「え?!!本当?僕もそう」
「すごい!」そう言いながらまた二人でうふふと笑いあう。
どうやらこの「東京の奥座敷」と呼ばれる場所は、忘れていた何かを思い出す場所のようだ。
これは絶対に大河内を連れて来なければなるまい。と、笑いながら心に誓ったのだった。
Sting All This Time
おしまい
『神戸尊の事件簿』とは。
『相棒』の二代目相棒・神戸尊を主人公とした、パラレル設定の二次創作刑事ミステリーシリーズです。
本シリーズでは、ロンドンへ渡った杉下右京が、中国返還後の香港へ無断で渡航。在香港日本国総領事館で起きた事件を、現地で捜査権限を持たないまま独断で捜査した結果、国家公務員としての重大な規律違反と外交上の問題を引き起こし、日本へ帰国できなくなっています。
これは、公式エピソードから派生させ、右京の行動がもたらす法的・外交的影響を、より重く扱ったパラレル世界です。
右京に代わって特命係を守ったのが神戸尊です。
神戸のもとで違法捜査を行わなくなった特命係は、廃止する理由を失い、のちに警視庁刑事部の正式な部署となりました。神戸自身も警部へ昇任し、特命係長に就任しています。
二次創作ではありますが、ドラマ版と同様、事件捜査と人物心理を中心とした本格刑事ミステリーとして執筆しています。
また、ストーリーの都合上、甲斐享のいる中根署は目黒区ではなく中野区になっています。
また、作中のキャラクターイラストは、すべて自作(マウス画)です。
執筆だけでなく、挿絵やバナーイラストもマウス描画で自作して掲載しています。
神戸尊(かんべ・たける)
このシリーズの主人公。
普段は細身のダークスーツにカラーシャツが特徴の美男子。
日本へ帰国できなくなった杉下右京に代わり、当初は特命係長代理を務めていた。2014年に特命係が警視庁刑事部の正式な部署となったことに伴い、警部へ昇任して係長に就任。
感受性が強く、死体を苦手としている一方、捜査では適正手続きを重視する。違法捜査を避けながら、グレーゾーンぎりぎりを攻める正攻法を得意とする。
普段は明るく人懐っこい性格で、優しく泣き虫な「白神戸」だが、犯人と対峙すると、冷静に逃げ道を塞ぐ「黒神戸」へ変わる。どちらも演技ではなく、本人がもともと持っている一面である。剣道と射撃にも長ける。
ライブドアブログ『新:神戸尊の事件簿@mixiページ』では、本作のような短編のほか、長編ミステリーや他作品とのクロスオーバーなど、さまざまな作品を掲載しています。
ご興味がありましたら、併せてご覧ください。