青の教室/陽子 第16話(3月31日) ――ゆれる光、ゆれる影――

青の教室/陽子 第16話(3月31日) ――ゆれる光、ゆれる影――

記事
学び
第16話(3月31日)
――ゆれる光、ゆれる影――

友彦は、朝食を終えてパソコンを開いた。
 昨夜の遅い時間に、美咲からメッセージが届いていた。

**********
 遅い時間に恐縮ですが。
 驚きました。
 今日、陽子がとても明るい顔をして帰ってきたんです。
 何か、英検のプリントを作っていただいたようで。
 見せてはくれなかったんですが、
 かわいいプリントをもらったと言って、とても喜んでいました。
 ありがとうございました。
**********

友彦は、すぐに返した。

 ご連絡いただきありがとうございます。
 子どもって
 「できる」と感じるとものすごい力を発揮するんです。
 陽子さんのこと、
 楽しみにしていてください。

送信すると、すぐに既読がついた。
 しばらくして、美咲からまたメッセージが届く。

**********
 ありがとうございます。
 親がしてやれることには限界があるようですが、
 このまま、お勉強が楽しくなってくれたらいいな。
 心底そう思います。
 ありがとうございます。
**********

「はい。ありがとうございます」

そう返して、友彦は静かに思った。
 がんばっていない子どもはいない。
 がんばっていない親もいない。
 整えるのが先だ。
 整えるためにプリントを作るのだ。

そして、こうも思った。
 それを知らない人が多いよな。
 みんな知らないんだよな。

美咲の課題表は、
 友彦のプリントと同じ方向を向いている。
 そのことが、友彦には嬉しかった。

そして、友彦は
 陽子と美咲のこれからの道のりに、
 そっと思いをはせた。


***

昼過ぎ、陽子とさとるが明るい顔で教室に入ってきた。

「先生、10枚できてる?」
 陽子は胸の前でファイルを抱えている。

受け取ったさとるは、少し誇らしげだ。

陽斗とひかりも近づいてきて、
 「見せて見せて」とのぞき込む。

陽子は照れながらも、
 昨日より少しだけ胸を張っていた。

青の教室に、
 “できるかもしれない” という光が広がっていく。


***

窓際では、安藤すみれが準2級のプリントを進めていた。

イラストを見て英文を声に出し、
 英英の説明を読みながら、
 「なるほど」と小さくつぶやく。

ページをめくる手が軽い。
 すみれの学びは、
 “自分で進む楽しさ” そのものだった。

その様子を見ていた高梨ほのかが、
 そっと友彦に近づく。

「先生……わたしも3級プリント!」

友彦はうなずき、
 ほのかにも3級のイラストプリントを印刷し始める。

青の教室全体に、
 それぞれのレベルで進む風 が満ちていく。


***

 陽子は、机に向かったまま言った。

「4枚できました!」

友彦は目を細める。

「陽子、がんばったね」

陽子は満面の笑みでうなずき、
 課題表を手に取った。

「次は……地理かあ」

その瞬間、
 胸の奥に、ほんの少しだけざらつきがよぎる。

地理は苦手だった。
 4級のプリントのようにはいかない。

ワークを開き、
 一つずつ問いに向かっていく。

すらすらとは進まない。
 でも、陽子は手を止めなかった。

(……一つずつ)

その姿を見て、友彦は静かにうなずいた。


***

帰り際、陽子はまた
 イラストのプリントを見つめた。

(10枚か……できそうだ)

胸の奥に、
 小さな熱が灯っている。
 その気持ちは
 昨日と同じくらいに輝いていた。

桜色の花びらも
 昨日より少し大きく輝いていた。

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