青の教室/陽子 第15話(3月30日) ――ひらく手、ひらく心――

青の教室/陽子 第15話(3月30日) ――ひらく手、ひらく心――

記事
学び
第15話(3月30日)
――ひらく手、ひらく心――

青の教室のまわりの桜は、昨日よりもさらに開いていた。
 淡い花びらが、青い光の中でそっと揺れている。

でも、陽子はあの重さの中にいた。
 陽子は、美咲の作った課題表を見つめていた。
 「英検4級準備」

(ん~んんん……)

自分でやれることが増えてきたのはわかっている。
 さとるを案内しながら、
 自分の足で歩けるようになってきている。
 それでも、どうしたらいいか、
 暗やみの中で押しつぶされてしまいそう。

陽子は、思い切って声をかけた。

「友彦先生……英検の準備って、
 どうすればいいですか」

友彦は、
 窓際で静かに勉強している安藤すみれに目を向けた。

「すみれ、
 あの英語のイラストのプリント、
 持ってる?」

すみれは顔を上げ、
 ファイルからホチキスで綴じられたプリントを取り出した。
 ページをめくると、カラフルなイラストが目に入る。

陽子は、あっと声を挙げそうになった。

自分の部屋で机に向かう女の子。
 スマホを横に置きながら、でも見ずに集中している。
 その下には短い英文。

 Emma decided to reduce her screen time…

 さらに、やさしい英英辞典の説明。

 concentration:
   You do not look at other things or think about other things.

友彦が言った。
「これは、すみれの準2級のために作ったプリントなんだ」

陽子は思わず聞いていた。

「4級でも……こういうの、
 あるんですか?」

「作るんだよ。陽子用にね。
 1、2枚ならすぐできるさ」

陽子の目がぱっと輝いた。

そのとき、そばで聞いていたさとるが言う。

「おれ、5月に3級受けるんだ」

友彦は笑ってうなずいた。

「じゃあ、さとるの分も陽子のも、
 明日には10枚ずつ用意しておいてあげる」

陽子の胸の重さが、少しだけほどけた。

友彦はすぐにパソコンに向かい、
 静かにキーボードを打ち始めた。

陽子は、しばらくその背中を見つめていた。


***

10分ほどして、プリンターが小さく音を立てた。
 友彦は一枚の紙を取り出し、陽子に手渡しながら言った。

「この英文を、白い紙に見ないで書けるように練習する」

001.png

***
そのとき、陽斗とひかりが近づいてきた。

「陽子、それ何?」
 ひかりがのぞき込む。

陽子は少し照れながらプリントを見せた。

「英検4級の……
 友彦先生が作ってくれた、英語のプリント」

陽斗が絵を見て言う。

「なんか、カードみたいでいいな。
 これなら覚えられそう」

ひかりも笑った。

「かわいい。
 ……陽子、がんばれるね」

陽子は、
 胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
 自分だけじゃない。
 一緒にがんばる仲間がいる。

陽子は
 さっそくルーズリーフを1枚取り出し、
 練習を始めた。
 Aki bought …

あっという間に書けるようになった。
 胸の奥がざらつかなかったことが
 陽子にはなんか不思議な気がしていた。


***

帰り際、陽子はもう一度プリントを見つめた。

(10枚か……できるかもしれない)

陽子の心の底には
 熱いものが沸き上がってくる。
 なんだか
 自分が強くなったんじゃないか
 そんな気もする。

桜の花びらが、青い光の中で静かに揺れていた。

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