青の教室/俊雄 第3話(3月21日) ――小さな花の色――

青の教室/俊雄 第3話(3月21日) ――小さな花の色――

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学び
青の教室/俊雄 第3話(3月21日)
――小さな花の色――

窓から差し込む光は、
 朝のものとも、夕方のものとも違っていた。

青かった。

空の青ではない。
 海の青でもない。
 もっと静かで、もっと深くて、
 触れれば指先がすっと冷たくなるような、
 そんな青。

その青の中で、
 俊雄はゆっくりと席に座った。


***

今日は、友彦が
 積み木と一枚の風景画を用意していた。

積み木は、前回より少しだけ数が多い。
 風景画は、A4の紙に印刷されたもの。
 上半分に絵、下半分は真っ白な余白。

俊雄は、積み木には触れず、
 そっと風景画のプリントを手に取った。

そこには――

草の丘をめぐるように遠くまで続く道。
 丘の反対側には静かな水辺。
 さらにその奥には、
 かすんで見える峻厳な山並み。

全体として穏やかで、
 でもどこか胸の奥を静かに揺らすような風景だった。

友彦は、俊雄の横顔を見ながら思った。

――この子は、この絵に
  どんな“色”を感じるんだろう。

静寂。
安らぎ。
前途。
畏敬。

きっと、いろんな色が胸の奥で揺れている。

俊雄は、絵に見入っていた。
 まるで、絵の中の道を
 ゆっくり歩いているかのように。

友彦は、そっと声をかけた。

「俊雄。
  この余白にね、何か書いてみてほしいんだ」

俊雄は、ゆっくり顔を上げた。

「……何を?」

「言葉でも、絵でも、図形でも。
  思ったことを、なんでもいいよ」

俊雄は、少し戸惑ったように
 プリントと鉛筆を見比べた。

鉛筆を手に取る。
 置く。
 また手に取る。

そのたびに、
 胸の奥の“歴史”が
 かすかに震えているようだった。

友彦は、急かさなかった。
 ただ、そばにいた。

風景画の中の水辺のように、
 静かに、揺れずに。


***

長い時間が流れた。

時計の針の音が、
 青の教室に小さく響く。

俊雄は、ようやく鉛筆を動かした。

余白の真ん中ではなく、
 端でもなく、
 隅の隅。

そこに――

とても小さな花を、ひとつだけ描いた。

たったひとつ。
 色もつけず、
 線も細く、
 声を潜めるように。

でも、その花は
 確かに“俊雄の色”だった。

友彦は、その花を見て
 胸の奥が静かに温かくなるのを感じた。

――今日の風は、
  俊雄の心に、そっと小さな波を立てられたんだな。

俊雄は、
 自分の“歴史”に震えながら、
 それでも花を描いた。

その小さな花は、
 風景画のどこよりも静かで、
 どこよりも深い色をしていた。

俊雄は、描き終えた花を
 しばらく見つめていた。

その横顔は、
 昨日よりほんの少しだけ、
 影が薄かった。


***

青の教室の窓から差し込む青い光は、
 俊雄の描いた小さな花の上に
 そっと落ちていた。

その光は、
 まるで花の色を
 ゆっくりと照らし出すようだった。

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