青の教室 蒼真の15 最終章 第10章 15歳の空
記事
学び
最終章 第10章 15歳の空
二月の終わり。
冬の冷たさはまだ残っているのに、
風の中にはほんの少しだけ春の匂いが混ざっていた。
蒼真は、青の教室へ向かう坂道をゆっくり歩いていた。
(もうすぐ……卒業か)
胸の奥が、
少しだけきゅっと締めつけられる。
蓮は関学に合格し、
蒼真はサッカー名門校に合格した。
道は違う。
でも、
どちらも“自分の道”だった。
(俺……ここまで来れたんだな)
そんな実感が、
胸の奥に静かに灯っていた。
***
青の教室のドアを開けると、
いつもの暖かい空気が迎えてくれた。
「こんにちは、蒼真」
友彦が、
静かに微笑んだ。
その笑顔を見ると、
胸の奥がふっと軽くなる。
「こんにちは」
席に座ると、
紗月がノートを閉じてこちらを見た。
「蒼真くん。
今日、なんか……顔が大人っぽいね」
「そうか?」
「うん。
“影を越えた人の顔”って感じ」
蒼真は、
少し照れくさくなって視線をそらした。
(影を……越えた?)
そんな大げさなものじゃない。
でも、
確かに“影の形”は変わった気がした。
***
その日の授業は、
いつもより静かだった。
蓮は、
関学の課題を黙々と解いている。
紗月は、
中2の復習プリントに向かっている。
蒼真は、
英語の長文を読んでいた。
(読める……)
以前のような“ざわつき”はなかった。
怖さはまだある。
でも、
その怖さは“進める怖さ”だった。
(俺……変わったんだな)
胸の奥が、
じんわり温かくなる。
***
休憩時間。
蓮が蒼真のところへ来た。
「蒼真。
お前、最近めっちゃ落ち着いてるやん」
「そうか?」
「うん。
なんか……“自分の速さ”で走ってる感じするわ」
蒼真は、
胸の奥がふっと揺れるのを感じた。
(自分の速さ……)
蓮は続けた。
「俺な、
蒼真が専願に決めたとき……
ちょっと羨ましかったんやで」
「え?」
「だって、
“自分の道”をちゃんと選んだやん。
俺は……
周りの期待に押されてたとこもあったから」
蒼真は、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
(蓮……そんなふうに思ってたのか)
蓮は完璧じゃない。
怖さも、揺れもある。
ただ、それを隠すのが上手いだけだった。
(俺たち……同じなんだ)
その気づきが、
胸の奥の影をさらに薄くした。
***
夕方。
授業が終わり、
青の教室に静かな時間が流れた。
蒼真は、
友彦の机の前に立った。
「先生……
俺、ここに来てよかったです」
友彦は、
静かにうなずいた。
「蒼真。
君はね、
“影を抱えたまま進む力”を持っている」
「影を……抱えたまま?」
「うん。
影を消そうとする人は、
どこかで苦しくなる。
でも蒼真は、
影を見つめて、
影と一緒に走った」
蒼真は、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
(影と……一緒に)
友彦は続けた。
「影があるから、
空がひらくんだよ」
その言葉は、
胸の奥に静かに落ちた。
(影があるから……空がひらく)
蒼真は、
自分の15歳を思い返した。
英語の怖さ。
蓮への悔しさ。
母との衝突。
走れない日。
紗月の言葉。
友彦の導き。
全部が、
影だった。
でも――
その影があったから、
今日の空がひらいた。
***
帰り道。
夕暮れの空は、
淡い金色から薄い青へと変わりつつあった。
紗月が、
少し後ろを歩いていた。
「蒼真くん」
呼ばれて振り返ると、
紗月は静かに微笑んだ。
「今日の空……
すごくきれいだよ」
「そうか?」
「うん。
“15歳の空”って感じ」
蒼真は、
胸の奥がふっと温かくなるのを感じた。
「紗月。
ありがとうな」
「え?」
「いろいろ……
助けてもらった」
紗月は、
少しだけ頬を赤くした。
「ううん。
わたしは……
ただ、蒼真くんの“空”が好きだっただけだよ」
その言葉は、
春の風のように胸に落ちた。
(俺の空……)
蒼真は、
ゆっくりと空を見上げた。
影がある。
光もある。
でも、
そのどちらも“自分の空”だった。
(俺は……これからも走れる)
未来はまだ見えない。
でも、
走り出す準備はできていた。
風が頬を撫でた。
(15歳の空……
ひらいてる)
蒼真は、
静かに歩き出した。
その背中には、
影と光が並んでいた。