青の教室 「色が見つかる場所」 第5章 ひなたの揺れ──「私って何がしたいの?」
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第5章 ひなたの揺れ──「私って何がしたいの?」
その日の放課後、
ひなたはランドセルを机に置いたまま、
ぼんやりと窓の外を眺めていた。
校庭ではサッカー部が練習している。
りくが走っているのが見えた。
「りく、今日も速いなぁ……」
ひなたはつぶやいた。
りくには“得意なもの”がある。
そらには“静けさという強さ”がある。
じゃあ、自分は?
「……私って、何がしたいんだろう」
胸の奥が、
ふっと冷たくなるような感覚がした。
■ ひなたの“揺れ”が始まる
青の教室に着くと、
友彦がいつものように微笑んだ。
「ひなたちゃん、こんにちは」
「こんにちは!」
元気よく返事をした。
でも、その声の奥にある揺れを
友彦はすぐに感じ取った。
「今日は、なんだか考えごとをしてるね」
ひなたは驚いた。
「えっ、わかります?」
「うん。
ひなたちゃんの“風”が、
いつもより少し静かだからね」
ひなたは、
胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。
「先生……
私、何がしたいのかわからないんです」
その言葉は、
ひなたが初めて自分の“影”を
言葉にした瞬間だった。
■ ひなたの“影”の正体
友彦は、
ひなたの隣に静かに座った。
「ひなたちゃんは、
なんでも“そこそこ”できるよね」
「……はい」
「それってね、
実はすごく珍しいことなんだよ」
「珍しい……?」
「うん。
ひなたちゃんは“広さ”を持ってる。
どの方向にも伸びられる広さ」
ひなたは、
その言葉をゆっくり飲み込んだ。
「でも……
“これが得意!”って言えるものがないんです」
「それはね、
まだ“決めてない”だけなんだよ」
ひなたは顔を上げた。
「決まってないんじゃなくて、
“決めてない”?」
「そう。
ひなたちゃんは、
まだどの色にもなれる途中なんだ」
ひなたの胸の奥で、
何かがふっと軽くなった。
■ ひなたの“初めての選択”
その日のプリントは、
いつもより少し難しかった。
ひなたは迷った。
どこから手をつければいいのかわからない。
「先生、これ……どうすればいいですか?」
友彦は言った。
「ひなたちゃん、
今日は“自分で選んで”みよう」
「選ぶ……?」
「うん。
どの問題から始めてもいい。
ひなたちゃんが“やってみたい”と思うところから」
ひなたは、
プリントをじっと見つめた。
(やってみたい……?
そんなふうに考えたことなかったな)
しばらくして、
ひなたは一つの問題に指を置いた。
「……これ、やってみます」
「いいね」
ひなたは、
ゆっくり鉛筆を動かし始めた。
その瞬間、
ひなたの中で“初めての選択”が芽生えた。
■ 小さな揺れが、色になる
帰り際、
ひなたはドアの前で立ち止まった。
「先生……
私、まだ自分の色がわからないけど……」
友彦は静かにうなずいた。
「うん」
「でも、
“選んでみる”って楽しいかもしれないです」
友彦は微笑んだ。
「それが、ひなたちゃんの色の始まりだよ」
ひなたは、
胸の奥がふわっと温かくなるのを感じた。
――私、
何か見つけられるかもしれない。
その小さな揺れが、
ひなたの色をそっと動かし始めた。