『午後の光、春の手前で』

『午後の光、春の手前で』

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午後の光、春の手前で

土曜日の午後、リバティの教室には冬の日差しが斜めに差し込んでいた。
静かな空気の中で、ページをめくる音と鉛筆の走る音だけが続いている。

「うーん~~~。つかれたあ。」

みゆきが、机に突っ伏すようにして声を漏らした。
その声は、甘えでも弱音でもなく、ただ“本気で向き合っている人間の息継ぎ”だった。

「散歩行ってくるか?」

はるおが、少し笑いながら言う。
けれど、みゆきは首を横に振った。

「んんー……たぶんまだ」

その返事には、疲れと同じくらいの“意地”があった。

ふたりはもう2時間半、黙々と机に向かっている。
昨日、学年末テストが終わったばかりなのに、休む気配はない。

あと2週間と少しで私立高校入試。
そして3月中旬には、本命の府立高校が待っている。

成績は良い。
でも、良いからこそ怖い。
落ちる可能性を知っているからこそ、逃げられない。



みゆきの胸の奥にあるもの

みゆきは、問題集を見つめながら思う。

(ここで止まったら、絶対後悔する)

自分の中にある小さな不安を、
努力で押し返すように鉛筆を握り直す。

昨日のテストの疲れも残っている。
でも、今日の自分が明日の自分を救う。
それを知っているから、みゆきは机に戻る。



はるおの静かな闘い

はるおは、みゆきよりも表情に出さない。
けれど、胸の奥では同じように焦りが渦巻いている。

(俺は絶対、あの高校に行く)

その思いだけで、
眠い日も、しんどい日も、机に向かった。

模試の判定が思ったより低かった日、
帰り道でこっそり拳を握りしめたこともある。

でも、今日もここにいる。
みゆきの隣で、同じ光の中で、同じ未来を見ている。



午後3時、沈黙の中の会話

教室の時計が3時を指す。
センセは奥の机で採点をしている。
ふたりの気配を壊さないように、静かに。

みゆきがふと顔を上げる。

「はるお、明日の模試……緊張する?」

「まあな。でも、やるしかないやろ」

その言葉は、強がりではなく、
“覚悟”のように聞こえた。

みゆきは小さく笑った。

「うん。私も、やる」

その笑顔は、疲れているのに、どこか澄んでいた。



夕方の光の中で

外が少し暗くなり始めたころ、
ふたりは同時に鉛筆を置いた。

「今日は、ここまでにしよか」

はるおが言うと、みゆきは深く息をついた。

「うん……がんばったね、私たち」

その言葉は、誰に向けたものでもなく、
ただ自分たちの努力を静かに肯定するためのものだった。

センセが近づいてきて、
ふたりの机を見て、静かにうなずいた。

「ようやっとる。ほんまにようやっとる」

その声は、
ふたりの胸にそっと灯りをともすようだった。



終章 春の手前で

明日は最後の模試。
結果がどうなるかはわからない。

でも、ふたりは知っている。

今日の自分は、未来の自分を裏切らない。

厳しい現実は確かにそこにある。
でも、それに立ち向かうふたりの姿は、
もうすでに“青春”そのものだった。

教室を出るとき、
みゆきが小さくつぶやいた。

「春、つかみにいこな」

はるおはうなずいた。

「うん。絶対つかむで」

冬の夕暮れの中、
ふたりの影は並んで伸びていった。

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