ぼくはただのサラリーマンでしたが、
占いの教室に二度通いました。
それがすんで鑑定もしたことはあります。
緊張はしましたが、
とても楽しい体験でした。
それでは『新しい光に包まれて』第五回です。
自分は今、通常の世界に存在しているのだろうか? 隣にいる江理子も夢の中の産物ではないか。色々なことが混在して頭の中を駆け巡った。
地上を離れてはるか天まで舞うほどの高揚感と眩暈の中で、男の声が聞こえる。
「わたしにも、この人形の意味は分かりません。妻は本当のことをわたしに打ち明けてくれませんでした。メモの言葉のことも、もちろん知りません。でも、まさかあなたたちのような若い学生さんが訪ねて来るとは思っていませんでした。訪ねて来たらわたしの方こそ意味を知りたかったのですが、あなたたちも何も知らないようですね。――でも、とにかく渡しましたよ。あとのことはあなたたちの仕事のようです。まかせました。ああ、それからもうひとつ――」と言って、男は不意に聖太郎の方に顔を近づける。何か新しいヒントを与えてくれそうな様子である。
「妻は死ぬ三年ほど前から、ちょっとした予知能力を持つようになったようです。未来のことが全て分かってしまうと、とても怖がっていました。だから自分があのような原因不明の熱病で死ぬことも、死んだ後であなたたちがこの家に訪ねて来ることも、みんな分かっていたのでしょう。だからこの木彫りの人形はきっと大事な意味のあるものです。このことを聞いたらきっと何か分かるだろうと思って言いました。どうです?」と言って、聖太郎と江理子の顔をじっと見る。
二人が何も答えないのを見て、男は気の高ぶったような気味の悪い声で笑う。そして、
「まあ、いいでしょう。いずれその意味は分かることでしょう。何にしても、おれには関係ない。久美子の遺言どおり木彫りの人形を渡したから、おれはもう死ぬんだ、ヒヒヒヒヒ――それじゃ、さいなら」と言って、ドアをすりぬけて家の中に入る。
聖太郎は江理子とともに外に残される。暑い盛りの七月だというのに、冷たい風が二人を取り囲む。二人ではない。江理子は何も恐れていない様子だった。ビクビクしているのは、一人、聖太郎だけである。
☆
あの奇妙な男の前では不気味に黙りこくっていた江理子が、男の家から離れるにしたがって、少しずつ言葉を発し出した。
「わたしには、何かが分かるような気がするの」と江理子が言う。「今日あなたを教室で初めて見た時に、ふと何かが見えて、何かが感じられたの。あなたはこれから大きなことをする人よ。あの男の人の言った言葉で言うと、仕事よ、大きな仕事。その仕事をやりとげるためには、わたしがそばにいた方がいいと思うの。これはもしかしたら、佐山久美子という人が持っていたという予知能力の目覚めかも知れないわ。でも、わたしは怖くない。これから起こるどんな悪いことも、あなたが全て解決してくれると確信しているから――だから、あなたもそんなに怖がらずに、真っすぐ前を見て。そしてキラキラ輝く世界の空気に浸り込むのよ。そしてどこまでもどこまでも高くに舞い上がるのよ。分かる?」
「ぼくには、まだよく分からない。全てが夢のような気がする」
「夢じゃないわ、現実よ、これは。もっとさっきみたいに愉快になるのよ、もっともっと――どう? 愉快になった?」
「少しなってゆくような気がする。君は不思議な人だ。助かるよ」
☆
聖太郎は木箱の中の木彫りの人形を家まで持って帰って、途中うわの空の夕食をはさんで、ぼんやりと色々な物語を空想していた。頭の中で、目まぐるしく物語が展開する。
物語の中には、江理子も登場するようになった。あの気味の悪い男も時々姿を見せる。江理子は服装も髪形もすっかり変わって、恐ろしいほど奇麗になっている。本当に不思議な子だと思いながらも、物語の魅惑的な側面に浸り込んで行く。愉快で愉快で仕方がない。
今晩はとても眠れそうにないと、キラキラ輝く部屋の中で考えながら、時は刻々と過ぎて行く。