社長、その動画を自分のお金で最後まで見ますか?
毎月、制作会社にYouTube動画を発注している。
撮影も編集もプロに任せている。映像はきれいで、テロップも丁寧。社内の評判も悪くない。
ところが、公開すると再生数は200回、300回。
半年続けても、問い合わせが増えた実感はない。
制作会社から届くレポートには「今月は4本公開しました」「先月より再生数が増えました」と書いてある。
でも、社長が本当に知りたいのは、そこではないはずです。
「この動画にお金を使い続けて、本当に会社のためになるのか?」
私は1998年から自分で店舗を経営し、別事業では寿司専門のYouTubeチャンネルを登録者30万人超、累計1億4,000万回以上の再生まで育てました。
経営者としてお金を使う側も、動画を企画して伸ばす側も経験しています。
だからこそ、企業YouTubeについて、強く感じることがあります。
企画が弱いまま動画を量産するのは、成果の出ない広告にお金を払い続けるのと似ています。
1. 社長が伝えたいことは、視聴者には関係がない
例えば、社長がこんな動画を作ろうとしていませんか?
「創業50年、当社の技術力をご紹介」
「社長が語る、会社の未来」
「高品質な製品を生み出す工場の秘密」
どれも企業側が伝えたい情報です。
でも、私はこう考えます。
会社のことを知らない人が、その動画をクリックする理由は何なのか?
ここが曖昧なら、私はまだ撮影を始めません。
例えば、精密加工の会社なら、まず現場で職人に話を聞きます。
「新人が一番失敗する工程はどこですか?」
「ベテランは何を見て良品と不良品を判断していますか?」
「なぜ、ここだけ機械化していないのですか?」
そして、その答えが本当に面白ければ、そこから企画を作ります。
仮に、最後の仕上げだけ熟練職人が担当しているなら、
「最新の機械でも、最後の工程だけ人間が担当する理由」
という企画が考えられます。
社長が伝えたいのは「うちには高い技術がある」。
視聴者が知りたいのは「なぜ機械では駄目なのか」。
この違いは大きい。
会社が言いたいことを並べるのは会社案内。視聴者が知りたくなる疑問を設計するのが、YouTubeの企画です。
私は、この二つを混同してはいけないと思っています。
2. 同じ職人動画でも、7万回と2,000回。この差をどう考えるか
ここで、実際の経験をお話しします。
現在、私は日本のものづくりや職人の仕事を記録するYouTubeにも取り組んでいます。
神棚の製作工程を紹介した動画は約7万回再生されました。
一方、鍛冶屋の仕事を取り上げた動画は約2,000回。
どちらも日本の伝統技術です。
どちらも職人の仕事に価値があり、映像として見せる魅力があります。
それでも、再生数には約35倍の差が生まれています。
ここで「神棚の方が人気だった」で終わってしまうのは、非常にもったいない。
私なら、少なくとも次の点を確認します。
- どちらの動画が、YouTubeのホーム画面や関連動画で多く表示されたのか。
- 表示された人のうち、何%がクリックしたのか。
- 冒頭30秒で、どれくらいの視聴者が離れたのか。
- 視聴者は、どの工程まで見続けたのか。
- 新規視聴者と既存視聴者で、反応に違いはあったのか。
動画のテーマ、公開時期、視聴者への届き方も違います。
だから、再生数だけを見て原因を断定することはできません。
ただし、ここから立てられる仮説はあります。
神棚が完成するまでの工程には、視覚的に分かりやすい変化があったのかもしれない。
一方、鍛冶の技術は、見た目だけでは難しさが伝わりにくかったのかもしれない。
あるいは、サムネイルやタイトルの違いかもしれません。
私が知りたいのは、7万回再生されたという結果ではなく、なぜ7万回再生されたのかという理由です。
同じ成功を次の企画で再現できるか。
再現できなければ、単なる一度のヒットで終わってしまいます。
3. CTRが低いからサムネイルを変える。その判断は早すぎる
少し専門的な話をします。
YouTubeの改善でよく耳にするのが「クリック率が低いからサムネイルを変えましょう」という提案です。
もちろん、それで改善する場合もあります。
しかし、私はCTRの数字だけでは判断しません。
例えば、同じCTR4%でも、どこで表示されたかによって意味が変わります。
YouTube検索で表示されたのか。
ホーム画面のおすすめで表示されたのか。
他の動画の関連動画として表示されたのか。
検索してきた人は、すでにそのテーマに興味がある可能性が高い。
一方、ホーム画面では、そのテーマに興味があるか分からない人にも表示されます。
さらに、表示対象が既存ファンから新しい視聴者へ広がれば、CTRが下がることもあります。
つまり、CTRが下がったからといって、必ずしも動画が悪くなったわけではありません。
私は、CTRの数字そのものより、「誰に、どこで表示され、その人がクリックしたのか」を重視します。
平均値だけを見て「今月はCTRが悪かったですね」で終わるレポートでは、次の一手が見えません。
4. 冒頭30秒で離脱される動画には、よくある問題がある
さらに重要なのが、クリックされた後です。
サムネイルは良いのに、動画が再生されない。
そんなとき、私は冒頭30秒の視聴維持率を確認します。
例えば、サムネイルでは、
「職人歴50年。誰にも真似できない技術」
と大きく訴えている。
ところが、動画を開くと、
会社のロゴ。
建物の外観。
社長の挨拶。
会社の沿革。
ようやく3分後に職人が登場する。
これでは、視聴者が期待した内容と実際の動画が一致していません。
私なら、最初に最も興味を引く工程を見せます。
例えば、職人が一瞬で製品の不具合を見抜く場面。
そして、
「なぜ、この人には分かるのか?」
という疑問を残して本編に入る。
視聴者が答えを知りたい状態を作るわけです。
もちろん、すべての動画でこの構成が正解ではありません。
しかし、少なくとも企業の都合で長い挨拶を入れるより、視聴者の期待を優先したい。
私が動画を考えるときは、次の3つを分けて設計します。
クリックする理由。見続ける理由。見終わった後に行動する理由。
この3つは、似ているようで別物です。
5. 再生数が伸びない原因を、私はこう切り分ける
ここが今回、最も伝えたい部分です。
例えば、社長のチャンネルで、次のような結果が出たとします。
ケースA:CTRは高いのに、冒頭で大量に離脱する
サムネイルやタイトルには興味を持たれている。
でも、本編が期待に応えられていない可能性があります。
まず疑うのは、冒頭の構成とサムネイルで約束した内容とのズレです。
ケースB:CTRは低いのに、クリックした人は長く見ている
本編そのものには魅力がある可能性があります。
この場合、いきなり動画を撮り直すのではなく、サムネイルやタイトル、表示されている視聴者層を確認したい。
ケースC:CTRも視聴維持率も悪くないのに、問い合わせが来ない
ここで初めて、企業YouTubeとしての導線を考えます。
動画を見た人は、次にどこへ進めばいいのか。
概要欄のリンクなのか。
採用ページなのか。
商品紹介ページなのか。
動画の内容とリンク先の情報は一致しているのか。
さらに、リンクのクリック数や問い合わせまで計測できているのか。
再生数が多くても、事業への効果が測れなければ、改善のしようがありません。
再生されない原因と、売上につながらない原因は違います。
私は、ここを一緒にしてはいけないと考えています。
6. 私は、社長よりも現場の職人を撮りたい
これは私自身の考えです。
企業のYouTubeというと、社長がカメラの前で話す形式をよく見かけます。
もちろん、経営者の考えを発信する意味はあります。
しかし、ものづくりの会社なら、私はまず現場の人に会いたい。
何十年も同じ仕事を続けてきた職人。
不良品を絶対に見逃さない検査担当者。
後輩に技術を教えるベテラン社員。
彼らにとっては当たり前の仕事でも、社外の人間から見ると驚くような判断や技術が隠れていることがあります。
私は、そこに企業の本当の価値があると思っています。
社長が「当社は品質にこだわっています」と10分間語るより、一人の職人が小さな傷を見逃さず、製品を作り直す姿を見せた方が、伝わることもある。
会社が自分で自分を褒めるのではない。
視聴者自身が、その会社の価値に気づく。
「うちはすごい会社です」と言う動画より、「この会社、すごいな」と思わせる動画を作りたい。
それが私の目指す企業YouTubeです。
7. ショート動画を何本作っても、会社の魅力が伝わるとは限らない
最近は、YouTubeショートやTikTok、Instagramリールを優先する企業も増えています。
短い動画には、新しい視聴者との接点を増やせる魅力があります。
ただ、私はショート動画を量産すること自体を目的にはしたくありません。
例えば、職人一人を丁寧に取材して、10〜15分の長尺動画を一本制作する。
その中から、
「職人が絶対に妥協しない工程」
「新人が驚いたベテランの技術」
「何十年も同じ仕事を続ける理由」
といったテーマを切り出す。
それぞれをショート動画として展開する。
長尺動画はYouTubeだけでなく、採用ページや企業サイトにも掲載する。
これなら、一度の取材で得られた素材を複数の目的に生かせます。
もちろん、業種や目的によっては短尺中心が適している場合もあります。
それでも、採用や取引先からの信頼を獲得したい企業には、長尺動画の活用を積極的に考えたい。
人柄や仕事の背景は、数十秒では伝えきれないことも多いからです。
再生数を獲得するための動画と、会社の資産として残す動画。その両方を設計する。
私は、それが企業にとって合理的な動画運用だと思っています。
8. 社長、次の動画を発注する前に、一つだけ確認してください
ここまで読んでいただいた社長に、最後に一つだけ質問があります。
「御社の名前をサムネイルから消しても、見たいと思われる動画になっていますか?」
会社名を消すと、何を見せたいのか分からない。
技術力が高いと書いてあるけれど、何がすごいのか分からない。
映像はきれいだけれど、続きを見たいと思う理由がない。
もしそうなら、改善すべきは編集技術ではなく、企画かもしれません。
そして、制作会社に聞いてみてください。
「先月の動画は、なぜ伸びなかったのですか?」
「次の動画では、何を変えるのですか?」
「その変更が成功したか、どの数字で判断しますか?」
この3つに具体的な答えが返ってくるかどうか。
私は、そこが単なる動画制作と、YouTube運用の違いだと思います。
## 最後に|私は、動画を作ることをゴールにしたくない
1998年から店舗を経営してきた私には、経営者がお金を使うことの重みが分かります。
利益を出すために、日々どれだけの工夫が必要なのか。
人を採用し、教育し、仕事を任せ、会社を続けていくことが、どれだけ大変なのか。
だからこそ、毎月の動画制作費も、単なる経費で終わらせてほしくありません。
私は寿司専門のYouTubeチャンネルを登録者30万人超、累計1億4,000万回以上の再生まで育てました。
それでも、動画を出せば必ず伸びるとは考えていません。
大切なのは、一つひとつの結果から学び、次の企画を改善することです。
再生されなかった理由を考えないまま、次の4本を発注する。
私は、それが一番もったいないと思います。
動画の本数を増やす前に、一本の企画を疑ってほしい。
もし今、企業YouTubeの運用を外注していて、成果に疑問を感じているなら、一度立ち止まって、今ある動画を分析してみませんか。
私のYouTubeスポットコンサルでは、企画、サムネイル、クリック率、視聴維持率、集客導線まで確認し、どこから改善すべきかを整理します。
新しい動画をもう一本作る前に、今ある動画がなぜ見られないのか。
その原因を知る方が、会社にとって価値のある投資になるかもしれません。
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