朝いちばんの問い合わせは、だいたい短い一言から始まってました。
「ログインできません」
画面の向こうの状況は分からない。何を押して、どこで止まったのかも分からない。なのに僕は最初、知っている言葉を並べて説明してたんですよね。今思うと、あれは説明じゃなくて、ただの早口の独り言でした。
先に要点を書くと、ヘルプデスクという仕事は、困っている人の「分からない」を、順番のある小さな確認に分けていく仕事です。僕がITサポート・ヘルプデスクをやっていた頃に覚えたこの感覚は、今の事務作業にもそのまま残っています。
最初は、専門用語で話して余計に混乱させてた
正直に書きます。最初の頃の僕は、丁寧に説明しているつもりでした。
でも実際は、「設定を開いて」「アカウントを確認して」「もう一度認証してください」みたいに、相手がどこで止まっているかを確認しないまま、手順だけを先に渡していたんです。
相手から返ってくるのは沈黙か、「えっと……」という困った声でした。そりゃそうですよね。分からない人にとっては、専門用語そのものが最初の壁なんですから。
説明が長いほど親切だと思っていた時期が、確かにありました。完全に勘違いでした。
長く話すことと、伝わることは、別物でした。
つまずく場所は、思ったより少なかった
しばらく続けていると、問い合わせのパターンが見えてきました。
セキュリティ関連のアプリの導入サポートをしていたので、連絡の多くは「入り口で止まる」話です。そもそも画面が開かない。押すべき場所が分からない。入力したのに先へ進まない。そのあたりに集まっていました。
もちろん一件ずつ事情は違うんですけど、最初の確認ができていないケースが多かったんですよね。焦っている時ほど、人は画面をちゃんと見られなくなる。これは自分も同じです。
だから途中から、解決策を急いで言うのをやめました。まず「今、画面には何が見えていますか」と聞く。次に「直前に何をしましたか」と聞く。この2つだけで、話がだいぶ早くなりました。
説明は「確認・操作・結果」の3つに分けた
慣れてきてから、僕の説明は3つの塊に分かれました。
1つ目は確認。今の状態を一緒に言葉にする段階です。
2つ目は操作。ここでは1回に1つだけお願いする。「これを押してください」で止める。2つ3つまとめて言わない。
3つ目は結果。押した後に画面がどう変わったかを、もう一度教えてもらう段階です。
これだけです。地味でしょ。
でも、この順番に変えてから、同じ説明を何度も繰り返す場面が減っていきました。相手も僕も、どこまで進んだかが分かるから、途中で迷子にならないんですよね。
逆に言えば、それまでの僕は、相手が迷子になっている場所を確認しないまま、案内だけを続けていたんだと思います。優しくなかったな、と今でも少し反省します。
この癖は、今の事務作業にも残っている
今は個人でシステム開発やセキュリティに関わる仕事をしながら、リスト作成やデータ入力のような事務まわりも受けています。
分野は違っても、やっていることは似ています。表を受け取ったら、いきなり直し始めない。まず全体を見て、どこで止まりそうかを確認する。作業は小さく分けて、終わったところから結果を見ていく。
ヘルプデスクで覚えた「確認・操作・結果」の順番は、そのまま僕の仕事の進め方になりました。
まだ毎回うまく説明できている自信はありません。正直、今でも言葉が先に走る日はあります。ただ、相手が止まっている場所を先に聞く、という当たり前のことを、あの頃に体で覚えられたのは大きかったなと思ってます。
まとめ:伝える仕事は、聞くところから始まってた
「ログインできません」の一言の向こうには、その人の焦りや「仕事が止まってしまう」という困りごとがありました。
僕がやっていたのは、すごい技術の話じゃありません。止まっている場所を一緒に見つけて、次の一歩だけを言葉にすること。それだけです。
あなたの周りにも、「分からない」と言い出せずに止まっている作業、ありませんか? 説明を増やすより先に、どこで止まっているかを聞いてみる。そこからだいぶ変わりますよ。