十年ほど前まで、出版の世界にはまだ「夢」がありました。
小さな出版社からでもベストセラーが生まれ、著者は一夜にして時の人になる。出版社も潤い、再投資して新しい本を次々と仕掛ける。そんな光景は、少なくとも私がこの業界に入った頃までは日常的にありました。
私が初めて書籍を出したときの初版部数は1万2千部。今思うと、とても恵まれた数字です。
当時は書店の店頭に本が並ぶことで「売れるかもしれない」という期待感があり、初版で大きく勝負できる土壌がまだ残っていたのです。
ところが2025年の今、状況はすっかり変わりました。
初版3000部ですら「まあまあ健闘している」と言われる時代。重版も数百部単位で刻むようになり、著者に入る印税は比較にならないほど小さくなっています。
出版業界を取り巻く環境は厳しさを増し、自己破産や倒産に追い込まれる出版社も少なくありません。運よく買い手がついて事業を継続できても、元々の社風や文化が失われ、まったく別物になってしまうケースも珍しくないのです。
昔の出版と今の出版
かつては、一冊ヒットを飛ばせばメディアの世界が待っていました。
例えば、あるドクターの方は処女作がベストセラーとなり、その後はテレビ番組の常連に。医療というテーマの普遍的なニーズも後押しして、文化人としての立場を築いていきました。
同じ時期に名を馳せた勝間和代さんも、出版をきっかけにテレビで引っ張りだこになった時代がありました。今は露出が少なくなりましたが、それは市場の縮小を早くから見越して「出版一本で勝負しない」という判断の表れかもしれません。
印税で生計を立て、テレビに呼ばれ、文化人として活躍する――。
これはもはや「過去の出版の姿」です。
今の出版に求められる視点
では、今の出版は意味を失ったのか?
決してそうではありません。むしろ「出版の意義」は大きくシフトしたのです。
昔の出版は「世の中に押し上げてもらう手段」でした。
しかし今は「自分を信用してもらえるパスポート」です。
つまり、本を出すことはゴールではなくスタート。
出版をきっかけにして、自分や自分の会社を知ってもらい、さらに自分自身でその機会を広げていく。出版はあくまで「信頼を得るための入り口」なのです。
実際、私のクライアントの中でも「出版=信頼の証」として活用し、仕事の受注やセミナー集客に直結させている方が増えています。印税だけを目的にするのではなく、出版を「自分を知ってもらう戦略のひとつ」として捉えているのです。
自分の神輿は自分で担ぐ時代
昔は周りが著者を神輿に担ぎ上げてくれました。出版社が宣伝し、書店が売り場を確保し、メディアが取り上げてくれる。著者はただ乗っていればよかったのです。
しかし今は、自分の神輿を自分で担ぐ時代です。
出版をきっかけにSNSやデジタルマーケティングを活用して認知を広げる。講演やセミナーを自ら企画して読者と接点を持つ。出版は「始まり」にすぎず、その後の努力がすべてを決めます。
ここに気づいている人が、これからの出版で生き残れる人です。
そして、電子書籍はその意味で大きな武器になります。紙よりも柔軟に発行・改訂ができ、マーケティングと相性が良い。自分の活動とセットで出版を仕掛けたい人にとって、時代に合った最適解のひとつなのです。
あなたにとって出版とは?
ここまで読んでくださったあなたに問いかけたいのは、「出版=印税や名声」という幻想を手放せるかどうか、です。
むしろ「出版=信頼を得るためのパスポート」と捉え直したときに、あなたの事業や人生にどんな変化が起きるのか。
出版をどう使うかで未来は大きく変わります。
もしあなたが「もっと自分の存在を多くの人に知ってもらいたい」と考えているなら、出版はまだまだ大きな可能性を秘めています。
出版の意味を昔のままにしているか。
それとも、今の時代に合わせて使いこなすか。
その選択が、これからのあなたの生き残り方を決めるのだと思います。