挫折感を克服するための心理学③:人間関係で傷ついた人は人間関係によってしか癒されない
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これは「性格改造法」における「元返し」「やり直し」と呼ばれる方法です。「逃避」や「代償」では受けた傷(精神的外傷、トラウマ)を完治することができないとすれば、同じ立場を再現し、かつて失敗したのとは逆の道を行って引っくり返していくというわけです。心理療法でも催眠術を使って記憶を逆行させ、とうの昔に忘れ去って潜在意識の奥底に潜んでいるような所までさかのぼって、かつて満たされなかった思いを遂げさせる(幼少期に親に十分甘えられず過ごした人を催眠療法でさかのぼらせ、思いっきり甘えさせるというのもこうした手法です)という方法論があります。
これは心理学的に「運命の反復」と呼ばれる現象を断ち切るためにも必要な手法です。児童虐待に走ってしまう親は、幼児期に児童虐待を受けていたことが多いことが知られています(元被害者が加害者に転化するわけです)。また、よく「ガンの家系」と言われたりもしますが、特定の病気に結びつきやすい生活習慣があり、その元になっている性格傾向は多分に遺伝されやすいということでもあります。あるいは両親が離婚を経験していると、子どもも離婚を経験する可能性が高くなるということや、離婚率が50%にも及ぶアメリカでも、現実には1度離婚した人が2度、3度離婚するケースが多いのであり、結婚したカップルの中では、終生添い遂げる比率の方が高いということなども「運命の反復」を物語っています。
実際、完全に同じ状況を再現することは不可能ですが、意味的に同じ状況であることは可能です。試験で挫折した人は試験で成功すればリセットされます。例えば、高校入試で失敗した人も、大学入試で成功すれば問題はなくなります。高校で行き詰まって挫折した人も、大学で充実したキャンパスライフが送れれば、元返しされるのです。友人に裏切られて傷ついた人は、それ以上の友人関係を築くことによって人間不信から脱却できます。逆に結婚で失敗した人は、新たなパートナーとそれまで以上の関係を築くまでは、癒そうとしても癒しきれない傷を抱えたままなのです。人に最も深い傷を与えるものは人間関係に他なりませんが(「逆もまた真なり」で、最も幸福感を与えるのも人間関係です)、この人間関係から「逃避」することなく、「代償」でごまかすことなく、かつて失敗し、挫折したのとは逆の道を行って(したがって、まず「失敗の原因」「挫折の原因」を直視しなければなりませんが、これは第1章①の「現実の直視」、第4章②の「自己分析」に他なりません)、「元返し」「やり直し」に取り組むこと、これが重要なポイントなのです。
【コラム】
「運命心理学」「運命分析学」を創始したリポット・ソンディはケース・スタディとして、ドストエフスキーの分析を行っています。それによると、ドストエフスキーがこれほどまでに迫真に満ちた殺人者の心理を描けるのは、過去に殺人を行っているからだと思い、その経歴を徹底的に調査したところ、一切そのような事実は出てこなかったそうです。そこでソンディにひらめいたのは、「そうだ、先祖に凶悪な殺人者がいて、その遺伝子が彼に殺人の欲求を生じさせ、小説の形でその欲求を実行させているのだ。もし、ドストエフスキーに文才が無かったら、彼はその欲求のはけ口を見出すことができず、きっと実際に人を殺したに違いない」ということでした。実際、ドストエフスキーの先祖には聖職者(17世紀中頃のドストエフスキー家の家族の大部分は牧師、聖職者になっています)と殺人者(4人の殺人者を含めた6人の犯罪者が見出されます)の両方がおり、彼はいずれの血も色濃く引いていたといいます。ただ、ドストエフスキーは「小説」という手段を持っており、その中で「昇華」することができたため、実際に殺人を犯すことなく済んだというのです。実際、ドストエフスキーの小説には必ずといっていいほど殺人者と心の清い信仰者が登場し、まるでドストエフスキーの内面の如く、激しい葛藤を生じていくのです。つまり、ドストエフスキーは内面の情念に沸き起こる「運命の反復」に対して、「小説」という「自己表現の場」で「元返し」「やり直し」の作業を繰り返し、「昇華」することに成功して、実生活での破綻(実際上の「運命の反復」)を免れたとも考えられるのです。