「遺言書って、お金持ちが書くものでしょう?」 相続のご相談を受けていると、今でもよくこの言葉を耳にします。
けれど実際に相続でもめるのは、財産の多い家庭だけではありません。自宅と少しの預貯金しかない、いわゆる「ふつうの家庭」でこそ、分け方が決まらずに話し合いが止まってしまうことが少なくありません。
この記事では、遺言書について最初に知っておきたいことを、順番にまとめました。
遺言書の法的効力
遺言書は、亡くなった方の「最後の意思」を、法律にもとづいて実現するための書面です。
相続が始まると、原則として、法律で決められた相続人(法定相続人)が、法律で決められた割合(法定相続分)を目安に、全員で話し合って財産の分け方を決めます。これを「遺産分割協議」といいます。
遺言書があると、この流れが変わります。 有効な遺言書があれば、原則として遺言書の内容が優先され、相続人全員の話し合いをしなくても、遺言どおりに財産を引き継ぐことができます。
たとえば、
・自宅は同居している長男に
・預貯金は長女と次女で半分ずつ
というように、法定相続分とは違う分け方も指定できます。
ただし、遺言書の効力にも限界があります。
代表的なのが**遺留分(いりゅうぶん)**です。
遺留分とは、配偶者・子・親などの一定の相続人に、最低限保障されている取り分のことです(兄弟姉妹には遺留分はありません)。遺言書で「全財産を長男に」と書くこと自体はできますが、ほかの相続人が遺留分を侵害されている場合、その相続人は長男に対して、侵害された分をお金で払うよう求めることができます(遺留分侵害額請求)。
つまり、遺言書は強い効力を持つ一方で、相続人の最低限の権利まで消せるわけではない、ということです。遺言書をつくるときは、遺留分にも目を配っておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。
遺言書でできること
遺言書には何を書いてもかまいませんが、法律上の効力が生じるのは、法律で決められた事項だけです。これを「遺言事項」といいます。主なものは次のとおりです。
財産に関すること
・相続分の指定(法定相続分と違う割合を決める)
・遺産分割の方法の指定(「自宅は妻に」など、だれに何を渡すかを決める)
・一定期間(最長5年)、遺産分割を禁止する
・遺贈(相続人以外の人や団体に財産を渡す)
・生前に渡した財産を、相続のときに計算に入れなくてよいとする(特別受益の持戻しの免除)
身分に関すること
・子の認知
・未成年の子の後見人の指定
相続人に関すること
・推定相続人の廃除、または廃除の取消し(ひどい虐待などがあった場合。家庭裁判所の手続きが必要です)
遺言の実現に関すること
・遺言執行者の指定
その他
・お墓や仏壇などを引き継ぐ人(祭祀承継者)の指定
・生命保険の受取人の変更 など
「相続人以外に財産を渡せる」という点は、意外と知られていません。お世話になった長男の妻、内縁の配偶者、あるいは応援したい団体への寄付(遺贈寄付)なども、遺言書があってはじめて実現できます。
一方で、「兄弟仲よく暮らしてほしい」「お母さんを大事にしてね」といった気持ちの部分は、法的な効力はありません。これは「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれます。
ただ、付言事項には大きな意味があります。なぜこの分け方にしたのか、家族にどんな思いを持っていたのか。それが一言添えてあるだけで、受け取る側の納得感がまったく違ってきます。法律の効力はなくても、家族の心に届く部分として、ぜひ書いておきたいところです。
遺言書はどんな人が書く?
遺言書は、15歳以上で、自分の判断で遺言の内容を理解できる人であれば、だれでも書くことができます。
では、実際にはどんな方が書いておくとよいのでしょうか。特に遺言書をおすすめしたいのは、次のような方です。
・子どもがいない夫婦:配偶者だけでなく、親や兄弟姉妹(亡くなっていれば甥・姪)も相続人になります。「全部妻に」と思っていても、遺言書がなければ義理のきょうだいとの話し合いが必要になります。
・財産の大部分が自宅などの不動産:不動産は分けにくく、だれが引き継ぐかでもめやすい財産です。
・相続人の中に、疎遠な人や連絡が取れない人がいる:遺産分割協議は相続人全員でおこなう必要があるため、一人でも協力が得られないと手続きが止まってしまいます。
・前の結婚で生まれた子どもがいる:今の家族と前の家族が、話し合いのテーブルにつくことになります。
・相続人以外に財産を渡したい:内縁の配偶者、子の配偶者、お世話になった方、寄付したい団体などです。
・事業や農地を、特定の人に引き継がせたい
・おひとりさまで、相続人がいない:遺言書がなければ、財産は最終的に国のものになることがあります。
「まだ元気だから」と先延ばしにされる方も多いのですが、遺言書は判断能力がしっかりしているうちにしか書けません。認知症などで判断能力が落ちてからでは、書けなかったり、後で有効性を争われたりするおそれがあります。元気なうちこそ、書きどきです。
遺言書で注意すること(無効等)
せっかく書いた遺言書も、決められた方式を守っていないと無効になってしまいます。特に自分で書く「自筆証書遺言」では、次のような点で無効になるケースが見られます。
よくある無効の例
・本文をパソコンで作成した、または代筆してもらった (※財産目録だけはパソコン作成や通帳のコピーでもかまいませんが、各ページに署名と押印が必要です)
・日付が書かれていない、または「令和◯年◯月吉日」のように特定できない
署名がない、押印がない
・夫婦が1枚の紙に連名で書いた(共同遺言は禁止されています)
・書き間違いの訂正が、決められた方法でされていない
無効とまではいかなくても、トラブルになりやすい例
・「自宅を長男に任せる」など、あいまいな表現で、相続させるのか管理を頼むだけなのかが分からない
・財産の特定が不十分(土地の地番が違う、口座が特定できない)
・遺留分への配慮がなく、相続人同士の争いの火種になる
・書いた当時、認知症などで判断能力が十分だったか疑われる
また、遺言書は何度でも書き直せます。内容が矛盾する遺言書が複数ある場合は、原則として日付の新しいものが優先されます。財産や家族の状況が変わったら、見直しをしておくと安心です。
もうひとつ大切なのが、遺言書が見つけてもらえるかどうかです。どんなに正しく書いても、だれにも見つけてもらえなければ意味がありません。逆に、都合の悪い人に破棄・改ざんされてしまうおそれもあります。保管の方法まで含めて考えておくことが大切です。
遺言執行者とは?
遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは、遺言書の内容を実際に実現するための手続きをおこなう人です。
遺言書に「預金は長女に」と書いてあっても、銀行の口座が自動的に長女の名義に変わるわけではありません。だれかが銀行に出向き、書類をそろえて、解約や名義変更の手続きをする必要があります。これを担うのが遺言執行者です。
遺言執行者の主な仕事は、次のようなものです。
・遺言執行者に就任したことと、遺言の内容を相続人に通知する
・相続財産を調べ、財産目録をつくって相続人に渡す
・預貯金の解約・払戻し、名義変更
・不動産の名義変更(相続登記)に関する手続きの準備・申請
・相続人以外への遺贈の手続き
・子の認知や相続人の廃除など、遺言執行者でなければできない手続き
遺言執行者には、遺言の内容を実現するために必要な、一切の行為をする権限が法律で認められています。そして、遺言執行者がいる場合、相続人は遺言の執行を妨げるような行為をすることができません。
遺言執行者がいなくても、相続人全員が協力して手続きを進めることはできます。しかし、相続人の中に非協力的な人がいると、手続きがなかなか進みません。遺言書で遺言執行者を指定しておくと、遺言の内容がスムーズに、確実に実現されやすくなります。
なお、遺言書で遺言執行者が指定されていない場合でも、相続人などの申立てにより、家庭裁判所が選任することもできます。
遺言執行者になれる人?
遺言執行者になれないのは、法律上、未成年者と破産者だけです。 それ以外であれば、原則としてだれでもなることができます。
・相続人や受遺者:家族の中のだれか、たとえば財産を多く受け取る長男を指定することもできます。
・親族・知人
・専門家や法人:個人だけでなく、信託銀行や士業の法人なども遺言執行者になれます。
家族を遺言執行者にする場合、費用はおさえられますが、仕事や家庭がある中で、平日に金融機関や役所を回るのは想像以上に負担です。また、ほかの相続人から「自分に有利なように進めているのでは」と疑われ、かえって関係がこじれてしまうこともあります。
一方、専門家を遺言執行者にすると報酬はかかりますが、中立的な立場で、手続きを確実に進められるというメリットがあります。
・相続人どうしの関係が微妙
・相続人以外に遺贈する
・財産の種類が多い
・家族に手続きの負担をかけたくない
このような場合は、専門家を遺言執行者に指定しておくことも検討してみてください。
なお、相続人の間ですでに争いが起きている、または起きることが明らかな場合は、弁護士への相談が必要になることもあります。
遺言書の種類
ふだん作成される遺言書(普通方式の遺言)には、次の3種類があります。
1. 自筆証書遺言
遺言者が、全文・日付・氏名を自分で書き、押印してつくる遺言書です。
・メリット:費用がほとんどかからず、思い立ったときに一人で書ける
・デメリット:方式の不備で無効になりやすい。紛失・改ざん・隠されるおそれがある。亡くなった後、原則として家庭裁判所での「検認」という手続きが必要
このデメリットを補うのが、*法務局の「自筆証書遺言書保管制度」*です。法務局が遺言書の原本を預かってくれるため、紛失や改ざんの心配がなく、検認も不要になります。保管の申請時に、形式面(日付や署名があるかなど)の確認も受けられます。 ただし、確認されるのはあくまで形式面で、内容が法的に適切かどうかまでは見てもらえない点には注意が必要です。
2. 公正証書遺言
公証役場で、公証人に作成してもらう遺言書です。証人2人の立会いが必要です。
・メリット:法律の専門家である公証人が関与するため、方式の不備で無効になる心配がほぼないと言えます。原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんのおそれがない。検認が不要で、相続後の手続きにすぐ使える
・デメリット:財産の額に応じた手数料がかかる。証人を2人用意する必要がある(推定相続人やその配偶者などは証人になれません)
体調などの理由で公証役場に行けない場合は、公証人に自宅や病院へ出張してもらうこともできます。また、2025年10月からは手続きのデジタル化が進み、一定の場合にはウェブ会議を利用した作成もできるようになりました。
確実性を重視するなら、公正証書遺言がもっとも安心な方法といえます。
3. 秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま、遺言書が存在することだけを公証役場で証明してもらう方法です。
・メリット:内容をだれにも知られずにすむ。本文はパソコンで作成してもよい(署名と押印は必要)
・デメリット:公証人は内容を確認しないため、無効になるおそれがある。保管は自分でおこなう。検認も必要
手間のわりにメリットが少ないため、実際に利用されることはあまり多くありません。
どれを選べばいい?
かんたんにまとめると、次のようになります。
「まずは費用をかけずに書いておきたい」なら法務局の保管制度を使った自筆証書遺言、「家族のために確実に残したい」なら公正証書遺言、というのがひとつの目安です。
おわりに
遺言書は、財産の分け方を決めるだけのものではありません。 残された家族が、迷わず、争わずに手続きを進められるようにするための、家族への最後の思いやりです。
一方で、ここまで見てきたように、遺言書には決まった方式があり、書き方ひとつで無効になったり、かえって争いの原因になったりすることもあります。
「うちの場合は書いたほうがいいのかな」 「この書き方で大丈夫だろうか」
そう思われたら、一人で悩まず、まずは気軽にお話を聞かせてください。
ココナラでは、相続・遺言の電話相談を受け付けています。
・遺言書を書いたほうがいいか、まだ迷っている
・自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらが合っているか知りたい
・自分で書いた遺言書の内容に不安がある
・遺言執行者をだれにすればいいか決められない
「何から聞けばいいか分からない」という段階でもかまいません。ご家族の状況をうかがいながら、今の時点で考えておきたいことを一緒に整理します。
※ご相談内容によっては、弁護士・司法書士・税理士など、他の専門家へのご相談をおすすめすることがあります。
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