「今のところ資金繰りには困っていないから、資金繰り表は必要ない」
そう考えている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに、売上が順調で、手元資金にも余裕があれば、日々の業務に追われる中で資金繰り表を作る必要性は感じにくいかもしれません。
しかし、私は銀行員時代の融資審査経験や、その後の経営支援を通じて、資金繰り表は、資金繰りに困っていないときから準備しておくことが大切だと考えています。
今回は、その理由についてお伝えしたいと思います。
1.経営環境は、いつも順調とは限らない
企業を取り巻く環境は、常に変化しています。
売上の減少、原材料価格の上昇、取引先からの入金の遅れなど、さまざまな要因によって、これまで順調だった資金繰りが急に厳しくなることもあります。
そのような状況になって初めて資金繰り表を作ろうとしても、必要な情報を整理するだけで時間がかかってしまいます。
一方、普段から資金繰り表を作成していれば、今後どの時期に、どの程度の資金が必要になるのかを、早い段階で把握しやすくなります。
資金不足が予想される時期を早めに知ることができれば、金融機関への相談や支出の見直しなど、対策を検討する時間を確保できます。
資金繰りが厳しくなったとき、対策を考える時間があるかどうか。
この違いは、企業経営にとって非常に大きいと感じています。
2.資金繰り表は、作っただけでは精度が高まらない
もう一つ、私が大切だと考えていることがあります。
それは、資金繰り表の精度は、繰り返し使いながら高めていくものだということです。
初めて資金繰り表を作ったときから、将来の入出金を正確に予測することは簡単ではありません。
例えば、翌月に入金されると思っていた売掛金が、実際にはさらに翌月になってしまうこともあります。
あるいは、予定していなかった支払いが発生することもあるでしょう。
大切なのは、こうした予定と実績の違いを、そのままにしないことです。
「なぜ入金が予定より遅れたのか」
「なぜ支払いが想定より多くなったのか」
「次回の予測では、何を見直せばよいのか」
このような確認を繰り返すことで、自社の入出金の特徴が見えてきます。
そして、その気づきを翌月以降の資金繰り表に反映することで、少しずつ予測の精度を高めることができます。
もちろん、どれだけ経験を積んでも、将来の資金繰りを100%正確に予測することはできません。
それでも、何度も予定と実績を比較してきた資金繰り表と、初めて作成した資金繰り表とでは、経営判断に活用できる情報に違いが生まれるはずです。
3.精度の高い資金繰り表は、苦しいときこそ役に立つ
では、日頃から資金繰り表を作り、予測の精度を高めておくと、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、資金不足が予想される時期や金額を、具体的に把握しやすくなります。
例えば、3か月後に資金が不足する見通しが立てば、それまでに売掛金の回収状況を確認したり、支払いの時期を調整できないか検討したり、金融機関へ相談したりすることができます。
また、金融機関に融資を相談する際にも、資金繰り表は重要な説明資料の一つになります。
いつ、どの程度の資金が必要で、今後どのような入出金を見込んでいるのか。
こうした内容を具体的な数字で説明できれば、金融機関も企業の資金状況を理解しやすくなります。
もちろん、資金繰り表の精度が高ければ、それだけで融資を受けられるわけではありません。融資判断では、業績や財務内容、返済能力なども総合的に確認されます。
それでも、根拠のある資金繰りの見通しを示せることは、金融機関との相談を進めるうえで意味のあることだと思います。
4.資金繰りに困っていない今こそ、始めてみませんか
資金繰り表は、経営が苦しくなってから慌てて作るものではなく、普段から作成し、使い続けておきたいものです。
最初から複雑な表を作る必要はありません。
まずは、毎月の主な入金と支払いを整理し、将来の現預金残高を予測するところから始めてみてはいかがでしょうか。
そして、実際の入出金が確定したら、予定と実績を見比べてみてください。
その積み重ねが、いざというときに経営判断を支える資金繰り表につながっていきます。
資金繰り表は、資金繰りが苦しくなってから作るのではなく、苦しくなったときに役立つよう、今から育てておくもの。
私はそのように考えています。
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