「アプリを作る前に、誰に向けて作るかを決めるべきだ」という正論がある。でも実際は、動くものを作るだけで精一杯で、「誰向けか」なんて考える余裕はなかった。3ヶ月間、なんとなく「保護者向け」のつもりで作り続けていた。
私は今、AIを使いながら、未経験からAndroidアプリを作っています。
作っているのは、スマホ依存を少しでも断ち切るためのアプリです。
普段はAIを使った制作代行をしています。
「なんか違う」という感覚だけがあった
公開した後も、テスターに動かしてもらっている間も、ずっと何かが引っかかっていた。
「刺さっている感」がない、とでも言えばいいのか。手応えのなさというより、照準が合っていない感じ。具体的に何が違うかは言えないし、誰かに説明もできない。ただ「なんか違う」とだけ思い続けていた。
今になって思うと、この感覚には名前がつけられる。
AIが当たり前になった時代、人間の最重要な役割のひとつは「ビジョンと現実のズレを感知するセンサーになること」だと私は考えている。AIは実行が得意だ。言語化も、最適化も、コード生成も、驚くほどうまくやる。でも「なんか違う」という感覚だけは、AIには持てない。
あのとき、私のセンサーが鳴っていた。ビジョン(作りたいもの)と現実(出来上がっているもの)のズレを、言語化できないまま感知していた。そしてそのセンサーの声があったから、次に進めた。
AIに、市場ごと投げてみた
「違う」とはわかる。でも「何が」違うのかがわからない。こういうとき、私はClaudeに問いを投げる。
今回使ったのは「DeepResearch」という機能だ。AIが自律的にウェブ上の情報を収集し、分析してレポートにまとめてくれる——いわば市場調査を丸ごと自動でやってくれる仕組みのこと。これをスマホ依存アプリの市場全体に向けて走らせてみた。
問いはシンプルだった。「このアプリは誰に向けて作るべきか。競合は何があって、どういう層が求めているのか。価格はどうすべきか。全部まとめてくれ」。Claudeは黙って動き出し、ウェブを回り、競合を洗い出し、ユーザー層の傾向を整理して、レポートにまとめてくれた。私がやったのは、問いを立てることだけだった。
全部変わった
レポートを読んで、正直ぎょっとした。「なんか違う」の正体が、そこに言語化されていたからだ。
ターゲットが違っていた。
私は「保護者が子供のスマホを制限するため」に作っていたつもりだったが、レポートが示したのは別のターゲットだった。本当に刺さる層は、16〜39歳の「自分自身がスマホ使いすぎを自覚している人」だという。「わかってるけど、止められない」という感覚を持ちながら、保護者に管理されたいわけではなく、自分で自分をコントロールしたいと思っている人。そういう層が、一番アプリを探していた。
タグラインも違っていた。
「歩かないと、開けない。」というコピーを使っていたが、これは「制限・禁止」のフレーミングだとClaudeから指摘を受けた。実際に求められているのは、「歩いたことで何かが得られる」という達成感のフレーミングだと。だから「歩数をスマホ時間に」に変えた。
価格体系も変えた。
有料のみだったものをフリーミアム(基本無料で使えて、上位機能のみ有料)に切り替える方向にした。まず使ってもらい、価値を感じた人だけが課金する仕組みに。
センサーが感じていた「ズレ」は、ここにあった。言語化はClaudeがやってくれた。でもセンサーを持っていたのは、私だった。
変えたら、テスターから連絡が来た
戦略を変えて、テスターに動かしてもらっていたある日、こんな連絡が届いた。
「電話がブロックされてるんですけど」
アプリのUIには「電話などのシステムアプリは自動で除外されます」と書いてある。つまり、書いてある通りになっていなかったということだ。言い訳のしようもなかった。ユーザーの「なんか違う」センサーが、私よりも先に反応していた。ユーザーが育ててくれる、というのはこういうことだと思っている。
これも、Claudeに投げた
原因の特定と修正を、またClaudeに任せた。
アプリがインストールされているアプリ一覧からランダムにブロック対象を選ぶロジックがあるのだが、そこにシステムアプリ(電話や地図など、端末に最初から入っているアプリ)を除外するフィルタが抜けていた。Claudeがコードを読んで原因を特定し、修正案を出してくれた。私はそれを確認して、採用するかどうかを判断した。
「私が判断し、Claudeが実行する」。この役割分担は、この場面でもまったく変わらなかった。
「なんか違う」は、あなたにも必ずある
完璧にしてから出そうと思うと、永遠に出せない。出してから直す方が速いし、テスターが教えてくれるし、Claudeが直してくれる。「出す」という決断さえすれば、あとは回り始める。
ただ、ひとつだけ人間が手放してはいけないものがある。
「なんか違う」という感覚だ。
AIはビジョンを渡されれば動ける。市場調査もレポートも、コード修正もやってくれる。でもAIは、ビジョンと現実のズレを「感じる」ことができない。その感覚を持っているのは、あなただけだ。
AIが当たり前になっていく時代に、人間の最重要な役割は「完璧な指示を出すこと」ではないと私は思っている。「なんか違う」と感じ取れること。そしてその感覚をAIに渡せること。それだけで、十分なのかもしれない。
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