オープンから一か月。
ようやく店の流れが見え始めていた。
開店当初のような賑わいは落ち着いたが、新しいお客様との出会いも少しずつ増えていた。
以前、あるママがこんなことを話してくれた。
『開店すると不思議なことが起きるのよ。本当に来てほしい人ほど来なくなって、一度しか会ったことのない人が何人もお客様を連れて来てくれたりするの。この商売は最後まで蓋を開けてみないと分からないのよ』
まさに、その言葉どおりだった。
そんな中、私は昼間の準備を手伝ってくれる友子ちゃんに、週一回だけ早番をお願いすることにした。
『週一日だけでいいからお願いできる?』
『はい、大丈夫です』
返事はするものの、どこか上の空。
手順を説明しても、
『はい』
と答えるだけで、本当に理解しているのか分からない。
少し心配だった。
そして数週間後――
事件は起きた。
その日はカラオケの修理を頼んでいた。
昼過ぎ、修理会社から一本の電話が入る。
『ママさん、お店が開いていないんですが……』
『えっ?』
友子ちゃんがいるはずだった。
慌てて電話を切り、銀座へ向かった。
店は閉まったまま。
友子ちゃんから連絡もない。
修理の人にもう一度来てもらい、ようやく作業が始まった、その時だった。
『お、おはようございます……』
入口に立っていた友子ちゃんを見た瞬間、私は息をのんだ。
全身が傷だらけだった。
腕には擦り傷。
顔には青あざ。
服のあちこちには乾いた血がにじんでいる。
『どうしたの、その怪我!』
『遅刻しそうになって……階段から落ちちゃいました』
そう笑おうとしたが、笑顔になっていなかった。
私は応急手当をしながら言った。
『今日は帰って休みなさい』
幸い怪我は深くなかった。
カラオケも無事に直り、その場は落ち着いた。
……そう思っていた。
修理業者が帰り、店内に二人きりになった瞬間だった。
友子ちゃんが突然、私にしがみついて大声で泣き始めた。
『ママ、ごめんなさい……本当にごめんなさい……』
体が震えている。
私は背中をさすりながら静かに言った。
『階段から落ちたのだから仕方ないじゃない』
友子ちゃんは首を横に振った。
『……違います』
『違う?』
『実は……階段じゃないんです』
私は思わず息を止めた。
『まさか……誰かに暴力を振るわれたの?』
しばらく黙っていた友子ちゃんは、小さくうなずいた。
『はい……』
胸が締めつけられた。
『そんなこと許せない。誰なの?』
友子ちゃんは涙をぬぐいながら言った。
『ここだけの話として聞いてください』
私は黙ってうなずいた。
友子ちゃんは震える声で続けた。
『相手は……男性じゃありません』
一呼吸置いて、
静かに言った。
『女性なんです』