【連載小説】第93話 試練の幕開け

【連載小説】第93話 試練の幕開け

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小説

ついに、その日がやって来た。

「クラブ 結」オープンの日。

何度も夢見た一日。

人生で一番うれしい朝になるはずだった。

それなのに、美月の体は限界を迎えていた。

食事はほとんど喉を通らない。

夜になると寝汗で何度も目が覚める。

喉はいつも渇き、吐き気までしていた。

それでも立ち止まるわけにはいかなかった。

店へ着くと、お祝いの胡蝶蘭が次々と運び込まれてくる。

開店前から店内は華やかな花で埋め尽くされていった。

その光景を見ているだけで胸がいっぱいになった。

気がつけば、お客様も次々と来店されていた。

開店時間など関係ない。

「おめでとう。」

その一言を伝えようと、多くの方が駆けつけてくださった。

けれど、店の中はまるで嵐だった。

改装工事が終わったのは前日。

スタッフ全員で流れを確認する時間もないまま本番を迎えてしまった。

誰もが手探りだった。

美月は挨拶をして、お客様を迎え、お見送りをする。

それだけで精一杯だった。

気づけば一日が終わっていた。

二日目も同じだった。

ありがたいことに、お客様は絶えなかった。

うれしい。

本当にうれしい。

でも、その喜びを味わう余裕はどこにもなかった。

「ちゃんとおもてなしができているのだろうか。」

その思いばかりが頭の中を巡っていた。

そして三日目。

ようやく店内が少し落ち着いた頃だった。

『金井さん、こんばんは』

『美月ママ、おめでとう』

昔からお世話になっていた金井さんだった。

銀座へ出てきた頃からずっと見守ってくださっている方で、医学関係のお仕事をされていた。

美月の顔を見るなり、心配そうに言った。

『顔色が悪いな。具合でも悪いのか』

『いえ……大丈夫です』

そう答えた瞬間だった。

急に涙があふれた。

止めようと思っても止まらなかった。

『どうしたんだ』

美月は言葉を詰まらせながら話した。

『ご飯が食べられないんです。寝汗もひどいし、喉も渇いて……吐き気もして……健康だけが取り柄だったのに、私どうしちゃったんでしょう』

金井さんは静かにうなずいた。

『極度の緊張だろうね』

落ち着いた口調で続けた。

『医者じゃないから断言はできない。でも、このままでは脱水を起こして腎臓まで悪くするかもしれない。いいから水分をたくさん飲みなさい』

そう言うと、ウーロン茶を注文して私の前へ置いた。

『まず一杯』

私は言われるまま飲んだ。

もう一杯。

さらにもう一杯。

不思議だった。

飲めば飲むほど体が少しずつ軽くなっていく。

張りつめていた心まで、ほんの少しだけほぐれていくようだった。

それからも私は意識して水分を取るようにした。

数日後には、食事も少しずつ取れるようになり、体調も落ち着きを取り戻していった。

今思えば、本当に危なかった。

あの日、金井さんに出会わなければ、私はそのまま倒れていたかもしれない。

こうして「クラブ 結」は、多くの人に支えられながら、ようやく第一歩を踏み出した。

お祝いに駆けつけてくださったお客様。

美しい花を贈ってくださったお客様。

励まし続けてくださった皆様。

そのすべての支えがあったからこそ、美月は立ち続けることができた。

人は宝。

この言葉の意味を、美月は身をもって知ったのである。

そんなある日、一本の電話が入った。

『美月ちゃん、お店どう?』

同期だった佳代ちゃんだった。

『知り合いの子がアルバイトを探しているんだけど、まだ募集してる?』

『もちろん。ぜひ紹介して』

翌日、その女性と会う約束をした。

現れたのは、友子ちゃんという二十五歳の女性だった。

第一印象は、ごく普通の女の子。

穏やかで、おっとりした話し方。

早い時間から働けるという理由で来てもらうことにした。

その時の美月は、まだ知らなかった。

友子ちゃんが、誰も想像できない秘密を胸に抱えていたことを。
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