赤坂のママは、有美ちゃんを優しい目で見つめながら話してくださった。
『有美は、この店のリーダーみたいな子なの』
その声には、娘を送り出す母親のような温かさがあった。
『劇団でも中心になって頑張っているし、フラメンコの先生もしているのよ。本当は手放したくないくらい大切な子』
美月は有美ちゃんの顔を見た。
穏やかな笑顔。
物静かな話し方。
劇団で踊る人というイメージとは違い、どこか安心感のある女性だった。
その笑顔が、なぜか母に少し似ているような気がした。
その瞬間だった。
(この子と一緒にお店を作りたい)
そう思った。
『有美さん』
『はい』
『来月、銀座で小さなお店を開くの。まだ何もかもこれからのお店なんだけど一緒に作ってみない?』
有美ちゃんは少しも迷わず答えた。
『私でよければ、ぜひお願いします』
『本当に?』
思わず声が大きくなった。
『ありがとうございます』
それだけで胸がいっぱいになった。
『早速だけど明日お店へ来られる?』
『はい。伺います』
話は驚くほど自然にまとまった。
人とのご縁とは、こういうものなのかもしれない。
それから夏美ちゃん、美由希ちゃんも加わることになった。
三人とも劇団で頑張っている明るい女性たちだった。
仲間が少しずつ増えていく。
そのことが何より心強かった。
けれど、まだ安心はできなかった。
美月は容子ちゃんへ電話をかけた。
『もしもし』
『美月ちゃん、お店どう?』
『何とか準備は進んでいるんだけど、女の子がまだ足りないの』
事情を話すと、容子ちゃんは笑った。
『美月ちゃん、一人忘れてない?』
『えっ?』
『私よ』
思わず言葉を失った。
『でも容子ちゃんはヴィーナスでしょう』
『辞めるわけにはいかないけど、深夜なら手伝えるわ。それに、お客様も連れて行くから』
胸が熱くなった。
『ありがとう……』
それしか言えなかった。
容子ちゃんは、ヴィーナス時代からずっと仲良くしてきた友人だった。
明るくて、面倒見がよく、人のためなら自分のことを後回しにできる人。
そんな彼女が迷わず力を貸してくれた。
私は、人に恵まれている。
心からそう思った。
さらに数日後、小夜ちゃんからも連絡が入った。
『半年だけだけど、一緒に働きたい』
結婚を控えているため期間限定だった。
それでも、今の美月には本当にありがたかった。
こうして、一人、また一人と仲間が集まってくれた。
振り返れば、誰一人として自分の力だけで見つけた人はいない。
人が人をつないでくれた。
そのご縁が、「クラブ 結」を少しずつ形にしてくれていた。
開店まであとわずか。
内装工事も終わり、保健所の検査も無事に済んだ。
すべてがぎりぎりだった。
奇跡のようなタイミングで、一つずつ準備が整っていく。
気づけば、開店の日はもう目の前だった。
期待よりも、不安のほうが少しだけ大きい。
それでも美月は前を向いた。
ここまで来られたのは、一人ではなかったから。
支えてくれる人がいる。
信じてくれる人がいる。
そして、一緒に歩いてくれる仲間がいる。
そのことだけを胸に、美月は「クラブ 結」の扉を開く朝を迎えようとしていた。