【連載小説】第91話 運命の出会い

【連載小説】第91話 運命の出会い

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『女の子は決まっているのかい?』

酒屋の中田さんとの打ち合わせは、お酒の種類や仕入れ、料金設定など、開店に向けた準備が順調に進んでいた。

ところが、その一言で私は我に返った。

『……まだ、一人も決まっていません』

自分で言いながら愕然とした。

店が決まったことに安心しすぎて、一番大切なことを忘れていたのだ。

『ママ一人じゃ店はできないよ』

中田さんは少し厳しい口調で言った。

『店を開くなら、まず一緒に働く女の子を探さないと』

美月は急に目の前が真っ暗になった。

オープンまで残された時間はわずかしかない。

やることは山ほどある。

その上、女の子まで見つけなければならない。

『どうしよう……』

思わず本音が漏れた。

中田さんは少し考えると、急に立ち上がった。

『そうだ。赤坂に今月いっぱいで閉店する店がある』

『閉店するお店ですか?』

『女の子も何人かいるはずだ。話だけでも聞きに行こう』

その言葉に、一筋の光が差し込んだ。

その日のうちに私たちは赤坂へ向かった。

店内は満席だった。

閉店を惜しむ常連のお客様で、大変な賑わいだった。

店のママは五十代後半くらいの朗らかな女性だった。

『銀座で店を開くの?』

驚いたように美月を見つめた。

『はい。来月オープンの予定です』

中田さんが事情を説明すると、ママは少し考えて言った。

『今日は忙しくて無理だけど、女の子たちに聞いてみるわ』

『ありがとうございます』

『ただ、うちの子は劇団の子が多いの。銀座とは少し雰囲気が違うかもしれないわよ』

その日はそれ以上話すことはできなかった。

美月は後日改めて伺う約束だけをして店を後にした。

それから毎日があっという間に過ぎていった。

物件。

内装。

備品。

酒。

開店準備。

そして営業の勉強。

今までお客様として見ていた店も、経営者になると思うと見える景色がまるで違っていた。

おしぼりの香り。

照明の明るさ。

グラスを置くタイミング。

何もかもが勉強だった。

ある夜、ヴィーナス時代からのお客様、鈴木さんに東京駅近くの日本酒専門店へ連れて行っていただいた。

『ここは幻の日本酒が飲める店なんだよ』

日本酒はあまり得意ではなかった。

気がつけば、足元も少しふらついていた。

『すみません。少し失礼します』

化粧室で冷たい水を顔に当てた。

鏡を見ながら深呼吸をする。

その時だった。

頭の中に、稲妻が走った。

――今日だ。

赤坂のお店の最終日。

『しまった!』

思わず声が出た。

今日を逃したら、あの女の子たちがどこへ行ってしまうか分からない。

時計を見る。

もう夜も遅い。

『鈴木さん、お願いがあります』

席へ戻るなり私は言った。

『今から赤坂まで付き合っていただけませんか』

『急にどうしたの?』

『車の中で説明します。急がないと間に合わないんです』

鈴木さんは理由も聞かず立ち上がってくださった。

タクシーに乗り込む頃には、不思議なくらい酔いは醒めていた。

赤坂へ着いた時、店はまだ営業していた。

私は胸をなで下ろした。

『こんばんは。こんな時間に申し訳ありません』

『あら、先日の銀座のママさん』

ママは笑顔で迎えてくださった。

事情を話すと、すぐに女の子を呼んでくれた。

『まだ行き先が決まっていない子たちよ』

三人の女性が並んだ。

どの子も少し緊張した表情をしていた。

その中の一人が、一歩前へ出て丁寧に頭を下げた。

『有美と申します。よろしくお願いします』

その笑顔は、どこか初々しくて、まっすぐだった。

その時の私は、まだ知る由もなかった。

この出会いが、「クラブ 結」を十年間支え続けてくれる大切な仲間との、運命の始まりだったことを。

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