【連載小説】第70話 選ばれた理由

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銀座には表には出ないルールがある。

それは長年働いたチーママが独立する時に、
初めて見えてくる。

雅子ママの独立にも、
当然ながら条件があった。

だがその時の美月は知る由もなかった。

後になって知った時、
その厳しさに驚くことになる。

『ゴールド』には何十人もの女性がいた。

どこへ行っても主役になれるような美しい女性。

売上を持つ女性。

経験豊富な女性。

そんな中で雅子ママが新しい店へ連れて行くことを許されたのは、
たった二人だった。

栞さんと美月。

栞さんは誰もが納得する人選だった。

博多生まれの華やかな美人。

売上もあり、
銀座でも充分に通用する実力を持っていた。

だが美月は違った。

銀座へ来てまだ一年。

ようやく街に慣れ始めた頃だった。

売上もない。

特別な才能もない。

あるとすれば、
休まずに働くことと、
与えられたことを一生懸命やることくらいだった。

だから美月自身が一番不思議だった。

なぜ自分なのだろう。

なぜ雅子ママは私を選んだのだろう。

その答えはまだ分からなかった。

その春。

銀座八丁目並木通り。

最高の立地に新しい店が誕生した。

『クラブ・ヴィーナス』

白と金を基調にした店内は、
上品で華やかだった。

大きな生花。

次々と届く胡蝶蘭。

新しい店特有の高揚感。

店全体が期待に包まれていた。

『それでは自己紹介をお願いします』

雅子ママの声で最初のミーティングが始まった。

店長。

マネージャー。

チーフ。

ボーイたち。

そして女性たち。

みんなが明日から始まる新しい物語に胸を躍らせていた。

美月もその一人だった。

不安はある。

けれどそれ以上に期待が大きかった。

銀座へ来た時も人生が変わった。

そして今、
再び新しい扉が開こうとしている。

明日になれば、
もう後戻りはできない。

新生『クラブ・ヴィーナス』。

その船は今、
静かに出航の時を待っていた。
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