銀座には表には出ないルールがある。
それは長年働いたチーママが独立する時に、
初めて見えてくる。
雅子ママの独立にも、
当然ながら条件があった。
だがその時の美月は知る由もなかった。
後になって知った時、
その厳しさに驚くことになる。
『ゴールド』には何十人もの女性がいた。
どこへ行っても主役になれるような美しい女性。
売上を持つ女性。
経験豊富な女性。
そんな中で雅子ママが新しい店へ連れて行くことを許されたのは、
たった二人だった。
栞さんと美月。
栞さんは誰もが納得する人選だった。
博多生まれの華やかな美人。
売上もあり、
銀座でも充分に通用する実力を持っていた。
だが美月は違った。
銀座へ来てまだ一年。
ようやく街に慣れ始めた頃だった。
売上もない。
特別な才能もない。
あるとすれば、
休まずに働くことと、
与えられたことを一生懸命やることくらいだった。
だから美月自身が一番不思議だった。
なぜ自分なのだろう。
なぜ雅子ママは私を選んだのだろう。
その答えはまだ分からなかった。
その春。
銀座八丁目並木通り。
最高の立地に新しい店が誕生した。
『クラブ・ヴィーナス』
白と金を基調にした店内は、
上品で華やかだった。
大きな生花。
次々と届く胡蝶蘭。
新しい店特有の高揚感。
店全体が期待に包まれていた。
『それでは自己紹介をお願いします』
雅子ママの声で最初のミーティングが始まった。
店長。
マネージャー。
チーフ。
ボーイたち。
そして女性たち。
みんなが明日から始まる新しい物語に胸を躍らせていた。
美月もその一人だった。
不安はある。
けれどそれ以上に期待が大きかった。
銀座へ来た時も人生が変わった。
そして今、
再び新しい扉が開こうとしている。
明日になれば、
もう後戻りはできない。
新生『クラブ・ヴィーナス』。
その船は今、
静かに出航の時を待っていた。