(1)問題
問題 以下の資料を読んで、次の問1、問2に答えなさい。
問1 「チーム医療」について、筆者がどのように述べているか400字以内でまとめなさい。(40点)
問2 「チーム医療」について、あなたの意見を700字以上800字以内で述べなさい。(100点)
(注)記述は、別紙解答用紙の所定の欄を使用し、横書きで書くこと。
資料
この資料は、「病院」の誕生について説明したものである。「チーム医療」に含意される、“複数の医療従事者が医療にかかわる"という発想が、どのように生じてきたのか概観してみよう。明治以来日本の医療体制は「自由開業医制」をとっており、そこでは医師のみに、医療提供者としての権利と義務が負わされてきた。医療が、医師や看護師のほか、検査にかかわる診療放射線技師や臨床検査技師、リハビリテーションにかかわる理学療法士や作業療法士、食事を提供する栄養士などによって担われるという発想が出てきたのは、第二次世界大戦の後である。
(中略)
新しい医療法(1948年制定)に基づく医療の形は、『病院』という雑誌の中でさかんに論じられてきた。1950年代の『病院』では、複数の医療従事者がかかわる新しい医療の形は、しばしば「オーケストラ」のメタファー(隠喩)で表現された。たとえば当時の厚生省技官であった小西宏はこう書いている。「シンフォニー・オーケストラは、管、絃、打の各楽器が一人の指揮者によって一糸乱れぬ演奏を行わなければならない。(中略)それぞれの専門分野が、各専門職業家によってよく調整・統括されると同時に、各分野間における調和がよく保たれなければならぬ』(1)
ここでは診療、看護、検査、事務などの各専門分野を担う医療従事者が、協調してまとまっていくことで、よき医療の提供が可能になることが示されている。これは戦前の医療提供形態と比較すると、まったく異なる発想からなるものである。
(中略)
さまざまな職種が誕生した要因はどのようなものであろうか。それは、前節で見たような、「病院」の誕生した戦後における医療の形の変化と関係するもので、「専門化」と「合理化」という2つの特徴が挙げられる。「専門化」には、「病院」の誕生と呼応する医療の役割の変化が関与している。「病院」での医療の役割は、かつてのように医師による診療だけでなく、病者の療養や世話全般にまで広がっていった。医療従事者の業務は、病者の診察や治療や看護、食事や寝具の用意、検査や訓練、さらには病院管理と多様化し、それぞれの業務を専従的に行う者の存在が必要になった。また「専門化」には、医学や医療技術の進展に伴う専門性の深化という側面もある。
(中略)
病院管理研究所の島内武文は、近代的な「病院」では、医師は「医療の本質的指揮・統制・命令」の権限を掌握し、調剤や検査や看護や事務といった業務はほかの職種に委譲することになるという。島内は、「病床の多い大規模な病院ではもちろん医療事務は事務員にまかせ、調剤は薬剤師にまかせるのが合理的」と書いている(2)。「合理化」の観点から、命令系統を一元化した組織作りを構想したのである。また、「合理化」には、効率の側面からの要請も指摘されている。医師の雇用は最もコストが高いので、同じ業務を行うのであるなら、医師よりも低賃金で雇える職種の方が効率がよいと考えられた。
(中略)
「チーム医療」という発想は、こうした「専門化」や「合理化」という特徴をもつ近代医療と、どのようなかかわりを持つのだろうか。2つの点から指摘できる。
第1に、「チーム医療」は医療の「専門化」や「合理化」の進展に寄与すると期待されてきたことが指摘される。一人の患者に対して、複数の職種でかかわることが「チーム医療」の基本的な発想である。だから、それぞれの医療者は、自分の領域で専門性を追求することにエネルギーを注ぐことが可能になる。また、それぞれが得意とする領域が存在し、それに専念すればよいのであるから、不得意分野を無理にする必要はなくなる。これは効率もよく、「合理的」な在り方である。
第2に、逆に「チーム医療」は「専門化」と「合理化」によって生じる弊害を補うという役割も期待されてきたことが指摘される`、「専門化」によって、一人の患者の抱える問題が細分化され、患者の全体性が見えなくなるという危険性が指摘されるが、「チーム医療」なら複眼的に患者の全体性を見ることができるという。これは川喜田の次のような記述に端的に見出せる。
『近代医学が科学を支柱とするかぎり、それが科学の本性に基づいて専門化への傾斜を強くもつのは当然で、それが当今の医師たちにしばしば向けられる不安と不信の由来の一つでもあることは誰も知る通りですが、その弊にめざめて、しかも反面専門に励み続けなければならない近代科学と医術の本性にからまるデイレンマが、総合病院におけるいわゆる「チーム医療」なる新しい医療の形態をうみだしました』(3)
また、「チーム医療」という発想なら、さまざまな職種の者が当該の業務を行うことの理由づけは、その専門性を生かすためということになる。決して「合理化」の一環としてコスト削減するために、医師から業務を委譲されたという論理にはならない。それぞれの職種が固有の専門的役割を持つという論理がたてられる。それは以下のような記述から確認できる。
医療チームを広義にとれば、その中には、大病院では中央検査部に属するレントゲン検査技師、諸種のいわゆる衛生検査技師、その他の医療協力員(パラメディカル、paramedicalsまたはmedicals)が含まれ、それらの職種を異にする人々が今日の医療にそれぞれ欠くことのできない役割を分担しつつあることは周知の通り』(4)
以上のことから、「チーム医療」には、医療の「専門化」や「合理化」を推し進め、また同時に、「専門化」や「合理化」でマイナスとなった部分を補うことを可能とするものとしての期待が込められてきたと考えられる。つまり、「チーム医療」は近代医療を補完するもの、さらにいえば、近代医療そのものと把握されてきたといってもよいであろう。
(細田満和著「『チーム医療』とは何か」日本看護協会出版会。2012年一部改変)
(1)小西宏:病院組織と穂婦長制度、病院、2(4)、p41、1950より引用
(2)島内武文:近代的病院組織―その変牛学的考察と讐療事務(讐事)の業務、病院、2(1)、p19、1950より引用
(3)川喜田愛郎:医学への招待――生命・病気・医療、日本看護協会出版会、p257、1990より引用
(4)川喜田愛郎:医学概論、真興交易医書出版部、p281、1982より引用
(2)考え方/問1
① 重要用語の定義を抜き出す
② 論旨にかかわる重要な段落に小見出しをつけてゆく
●チーム医療の定義(2・13段落)
・「複数の医療従事者が医療にかかわる」(2段落)
・「一人の患者に対して,複数の職種でかかわる」(13段落)
●チーム医療の条件(5段落)
・「診療、看護、検査、事務などの専門分野が、各専門職業家によってよく調整統括されると同時に、各分野間における調和がよく保たれなければならない。」
●チーム医療の目的(6段落)
・「診療,看護,検査,事務などの各専門分野を担う医療従事者が,協調してまとまっていくことで,よき医療の提供が可能になる」
●チーム医療の背景(7段落)
・「『病院』の誕生を含めた戦後における医療の形の変化と関係するもので,『専門化』と『合理化』という2つの特徴が挙げられる。」
●医療の専門化(8・9段落)
・「病院」での医療の役割は医師の診療(cure)に加えて患者の療養や世話全般(care)にまで拡大し,「医療従事者の業務は,病者の診療や治療や看護,食事や寝具の用意,検査や調練,さらには病院管理と多様化し,それぞれの業務を専従的に行う者の存在が必要になった」(8段落)
・「専門化」には,医学や医療技術の進展に伴う専門性の深化という測面もある」(9段落)
●医療の合理化(10・11段落)
・「近代的な『病院』では,医師は『医療の本質的指揮・統制・命令』の権限を掌握し,調剤や検査や看護や事務といった業務はほかの職種に移譲する」のが合理的(10段落)
・「効率の側面からの要請」(11段落)
・「医師の雇用は最もコストが高いので、同じ業務を行うのであるなら、医師よりも低賃金で雇える職種のほうが効率がよいと考えられた。」(11段落)
⇒「さまざまな職種の者が当該の業務を行なうことの理由づけは,その専門性をいかすためということになる」しかし「決して『合理化』の一環としてコスト削減するために,医師から業務を移譲されたという論理にはならない(16段落)
●チーム医療と専門化・合理化とのかかわり(13・14段落)
①「『チーム医療』は医療の『専門化』や『合理化』の進展に寄与すると期待されてきた」医師は得意分野に特化することが効率的・合理的(13段落)
②「『チーム医療』は医療の『専門化』・『合理化』によって生じる弊害を補う」「『専門化』によって一人の患者が抱える問題が細分化され、患者の全体性が見えなくなる危険性」に対して、「『チーム医療』なら複眼的に患者の全体性を見ることができる」(14段落)
●結論(18段落)
・チーム医療には医療の「専門化」や「合理化」を推し進め,また同時に,「専門化」や「合理化」でマイナスとなった部分を補うことを可能とするものとしての期待が込められてきた(中略)「チーム医療」は近代医療を補完するもの,さらにいえば,近代医療そのもの
(3)解答例
問1
病院の誕生にみられる戦後の近代医療において専門化と合理化の面からチーム医療が推進されてきた.病院での医療の役割は医師の診療に加えて患者の療養や世話全般にまで拡大し,医療従事者の業務は多様化し,それぞれの業務を専従的に行う者の存在が必要になった.また医学や医療技術の進展に伴う専門性の深化という側面から,医師は得意分野に特化することが効率的・合理的であるとされた.さらに病院では医師は医療の本質的指揮・統制・命令の権限を掌握し,調剤や検査や看護や事務はほかの職種に移譲するのが合理的である.チーム医療はこのような病院内での医療の専門化や合理化の進展に寄与し,これによって生じる弊害を補うものであり,診療,看護,検査,事務などの各専門分野を担う医療従事者が,協調してまとまっていくことで,よき医療の提供が可能になると期待される.チーム医療は近代医療を補完するものであり,近代医療そのものということができる.(398字)
問2
近年の医療技術の飛躍的な進展に伴って、医学の専門性のさらなる深化や細分化が進行している。また、医療事故も少なからず報道されている。この防止に向けた取り組みは喫緊の課題である。この2つの視点に立脚して、これからのチーム医療のあり方について考えてみたい。
バイオテクノロジーの発展は、遺伝子治療や代理出産を可能とし、またクローン技術は
再生医療の分野でも希望をもたらしている。その一方、高度な医療技術やこれにかかわる
知識は専門医にしか理解できず、医療現場では専門外の医師や看護師などの混乱を招く恐
れがある。医療者は専門にこだわらずに広く医療知識の習得に向けて自己研鑽に努めるの
はもちろんだが、個人の学習には限界もある。特に難解な専門用語については、専門医は
専門外の医療者や患者に平易な言葉で説明できるよう、表現能力を鍛えておくことが求め
られる。カンファレンスの席だけではなく、日ごろから技術や患者に関わる情報を医療者
間で共有しておくことが必要である。
医療事故にはさまざまなものがあるが、新聞報道でよく目にするのが調剤ミスである。主治または看護師の処方ミスにより、薬剤の種類や処方量を間違えた結果、患者に重篤な影響をもたらすケースが相次いでいる。これは、看護師や薬剤師などが点検を行い、万一医師の処方箋記載に際しての誤りがあれば、これを発見できれば防げるミスである。看護師は医師に強く意見を言えない環境に置かれている場合が多いだろうが、相互のチェック機能が有効に働くためには、医師・看護師が対等な関係に立つことが理想である。
高度な医療技術や医療機器が日進月歩する現において、医師個人のスタンドプレーで解決する問題は少ない。医療者各人がチーム医療に徹し一丸となって患者の治療とQOLの改善に尽くさなければならない。医療は医療者と患者との相互の信頼関係を基盤として行われるのは言うを待たないが、何よりその前提となる医療者間の信頼関係の構築が不可欠である。
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