JSB総合科目 立教大学経済学部経済学科2025年

JSB総合科目 立教大学経済学部経済学科2025年

記事
学び

(1)問題


次の文章を読み、下記の問1~問7に答えなさい

① 1929年秋にニューヨーク証券取引所で株価が暴落した。その後の経済危機を, J. M. ケインズは「現代史上最大の経済的破局」と呼んだ。大恐慌の入り口ともいうべき1930年に、ケインズは孫たちの世代にとっての経済的可能性に思いを寄せ,100年後の経済社会についてエッセイを書いた。ケインズは、成長から得られる豊かさによって解放された余暇をどう使うかという価値観の問題を重視した。その価値観によって、どのように働き、どのように余暇をすごすのかという生き方や経済社会の制度設計も影響される。

② エッセイの中でケインズは人間の経済的ニーズを二分し、必ず満たされるべきニーズであって他人と比較する必要のないものを絶対的ニーズと呼び,他方で周囲の他人と比較しながらもっと上でありたい、優越感を得たいといったニーズを相対的ニーズと呼んだ。そして、相対的ニーズには際限がないが、①成長を続ければ絶対的ニーズの方はいずれ満たされ、経済的問題は100年以内にほぼ解決されていると予想した。

③ ケインズは、儲けてため込む貪欲や金銭愛は、資本蓄積と技術進歩による成長の過程では必要な価値観だったが、豊かになればいずれ消えるだろうと考えた。他方で、それまで人類を縛ってきた価値観を、そう簡単に手放せないという考えもある。実際、とりわけ先進国の②富裕層は、価値観を変える条件に恵まれたはずだった。ところが、21世紀に起きたのは先進国発のグローバル金融危機であり、それを惹き起こしたのは「ウォール街の強欲」や金持ちの金銭欲だとも言われた。

④ 2008年の金融危機では、金融技術革新としてもてはやされた証券化商品など、多くの③金融資産の価格が下落した。だがそれは、危うい住宅ローン債権を組み込んだ証券であり自分の手元を離れてしまえば関係なく、数多く販売するほど儲かるという無責任と強欲とが危機の根底にあった。豊かさの先陣を切っていた人々は、新しい価値を生み出すどころか、強欲にまみれたままだった。他方で、この危機があったからこそ、無謀な賭けを抑制するようなルールができたという見方もある。

⑤ ケインズにならって今後の100年を展望しよう。具体的には、自動車産業の例をとりあげる。1908年に登場したT型フォードは労働者の給料で買えるガソリン車だった。ベルトコンベアによる大量生産システムでは、昨日まで農民だった移民労働者が工場でのモノづくりに雇用された。給料は倍増されて消費需要が喚起され、20世紀資本主義の大量生産·大量消費モデルの中で多くの賃金労働者も中産階級となった。

⑥ ところが現在、その自動車産業が「100年に1度」の変革期にある。世界最大の自動車市場である④X国では販売に占める電動車(プラグインハイブリッド車を含む)の比率が3割を超える。また、世界のいくつかの大都市では無人の完全自動運転ロボ·タクシーが商業運行される。白線や縁石,信号機などの周辺情報を立体的に提供する3Dマップに加え、⑤走行中の自動車のカメラやレーダー,ライダー装置からの情報で安全性が向上し、交通事故が避けられる。さらに、自家用車に同乗してタクシー代わりに使うライドシェアも盛んである。

⑦ こうした変化の中心に技術進歩がある。自動車と各種デバイスなどがインターネットで相互につながることで自動運転が実現し、データが蓄積·学習されて精度を増す。また,ソフトウェアが書き換えられて最新性能を獲得する。世界には20億台の車があるが、特定の瞬間に稼働しているのは 6億台で、残りの14億台は車庫などで眠っている。自家用車の稼働率はさらに低い。だとすれば、スマホの配車アプリなどから、ライドシェアやロボ·タクシーをはじめとする移動サービスに容易にアクセスできれば、自家用車としては保有されなくなるだろう。

⑧ さらに、たとえばミニバスのような自動運転車が自分の好みとサイズなどに合った商品やサービスを載せて、自宅前まで来てくれるとしたらどうだろう。買い物のために自分が移動するのでなく、やって来たミニバスに乗り込んで買い物できる。アプリ次第で異なる機能を発揮するスマホのように、多様な機能が発揮されるようになると、⑥企業間の競争は、 個人に売り込むために自動車の性能を向上させることではなく、移動を中心としたサービス全般をめぐって展開するだろう。

⑨ そのようなサービスを提供するための自動運転の中心にある技術がAI (人工知能)である。AIは自動運転で過疎地の交通問題を緩和でき、医療では遺伝子解析でがんを早期治療でき、ロボット支援手術で医師と患者の負担を減ずる,といった可能性を秘めている。
⑩ 他方で、自動運転車は凶器にもなりうるし、自律的な判断で人を襲うロボットは戦争の姿さえも変えることになるだろう。
⑪ 技術進歩が社会に与える影響について、楽観論と悲観論が対立してきた。産業革命期には蒸気機関を動力とする織物機械の導入で織物職人たちが失業をおそれ、機械を打ち壊するラッダイト運動を起こした。だが、新しい機械の導入は、その機械の整備や運用,新しい機械の設計·開発、また大量生産された製品の販売·流通などに関わる新しい職を生み出した。新しい職が、失われたそれ以前の職より高度で高給の場合も増えた。
⑫ AIの場合はどうか。多くの職を AIが代替していくのか、それとも,新しい職が生み出されていくのか。どうも, AIが代替するのが高度で専門的な職になりそうであり,AⅠ の整備·開発の多くをAI じたいが行うから、新規創出され高給なのは限られた専門職など少数になり、人間に残される多くの職で単純なサービス労働の割合が大きくなりそうである。AIに代替されて失業するというべきか、働かなくてよいというべきか、それは価値観と制度設計による。先のケインズのエッセイでは、以前と同様に働かなくて済む社会では、やるべき仕事をできるだけ広く分担させるように努めなければならないとし、週に3日だけ働くというワークシェアリングを提唱している。AIによる技術進歩はそうしたワークシェアリングを可能にするだろうか。
⑬ 次のような事例を考えてみよう。もし人々が古い価値観のまま金儲けにまい進すれば,AIによって失業が増大し,AI を構築·運用するコストと比べて賃金の方が安い場合にだけ雇用が増加するような社会制度が組み込まれる可能性がある。単発で時間単位の労働が中心となる「ギグ·エコノミー」が広がる状態である。働かなくて済む階層と働かなければならない階層とは分化して、中産階級は縮小するだろう。
⑭ 他方で、新しい価値観を求め、たとえば家賃が安く自然豊かな地方で空き家を改築して住み、菜園をもつなど自給に近い生活を一部採り入れ、市場経済の制度から半ば離脱して、ある意味で高い精神性をめざす動きなども出てくるだろう。株主·労働者·地域社会など多くの関係者の幸福をめざす「ステイクホルダー資本主義」への動きが強まっていくという見方もある。
⑮ 20世紀の技術進歩は大量生産·大量消費型の経済を生み出し、豊かさを実現した。だが,⑦100年前のケインズのエッセイは今でも,100年後の私たちに古くて新しい問いを投げかけている。AIという技術進歩が新しい豊かさを生む条件となる一方、私たちの価値観は,交錯する様々な動きを生み出すだろう。精神的な荒廃に向かう流れを抑え、孫たちの経済的可能性を維持しなければならない。豊かさを活かす価値観と制度の模索を続ける必要があるだろう。

問 1  太字①について、ケインズは、経済成長における「複利」の力を強調しながら,100年後に先進国の生活水準が8倍になったとしても驚くべきことではないと論じている。次の問i·iiに答えなさい。
i. ある正の数Yが、毎年同じ率 r で増加し、100年後に8倍になったとする。このとき成立する式を表しなさい。
ii. ある正の数Yが,問1-i と同じように毎年同じ率 r で増加するとき,2 倍になるのはおよそ何年後か。小数点以下があれば四捨五入して、整数で答えなさい。

問2 太字②に関 して、以下の問 i·ii に答えなさい。
i. 図1から読み取れることを、50字以内で説明しなさい。
ⅱ. 図2では、平均値が中央値を大きく上回っている。このことから読み取れることを50字以内で説明しなさい。
図1
図1.png

※金融資産残高五分位階級とは、世帯を金融資産残高の低い方から高い方へ順に並べ 5 等分した五つのグループのことで、残高の低い方から順に第Ⅰ,第Ⅱ,··· ,第V五分位階級という。なお、「金融資産を保有していない世帯」は除いて作成されている。
※株式などは有価証券に含まれる。
(出所) 総務省統計局「2019年度全国家計構造調査:所得に関する結果及び家計·負債に関する結果」による。一部改変。
図2.png

※中央値は、「金融資産を保有していない世帯」を除いて金融資産残高の少ない方から順番に並べたときにちょうど中央に位置する世帯の金融資産残高。
※金融資産残高900万円以上の各階級の間隔は標準級間隔よりも広い。
(出所) 総務省統計局「2019年度全国家計構造調査:所得に関する結果及び家計·負債に関する結果」による。一部改変。
問3 下線部3に関連して、3つの金融資産 x,y, z の過去5年の年間収益率(以下,単に収益率とする)が,表1で与えられているとする。以下の問i~ⅲ に答えなさい。
表1.png

I 金融資産 x の収益率について、平均と分散をそれぞれ求めなさい。
ⅱ 金融資産 y の収益率について、平均と分散をそれぞれ求めなさい。
ⅲ 今後も3つの金融資産x,y, z の収益率の平均と分散は、表1で与えられるものに従うとする。A さんは、仮に金融資産 x や金融資産 y の平均収益率が,金融資産zのそれと同じであれば、金融資産 z を保有し続けたいと考えている。ここで,A さんは、 金融資産 x と金融資産 y のどちらか一つを保有し続けることしかできないとする。
Aさんは、どちらの金融資産を保有し続けると考えられるか。その理由も含めて,100字以内で説明しなさい。

問4  太字④について、 Xにあてはまる国はどこか。

問5 太字⑤について、時速36キロで走行する自動車の前方10メートルに、道路を横断しようとする歩行者が現われたとしよう。その情報が自動車に届いてブレーキを踏む操作が間に合えば、衝突事故を避けることができる。ブレーキ操作じたいの所要時間を除けば、事故を避けるために必要な通信速度は秒速いくら以上か。小数点以下があれば四捨五入して整数で答えなさい。

問6  太字⑥について、この状況では、単に自動車を製造するだけの自動車メーカーは需要の減退に直面する。自動車にかかわるビジネスで利益を上げ続けるためには、何が必要になるか。250字程度で述べなさい。
問7 下線部7について、ケインズのエッセイが、今の私たちに投げかけている問いとは何か。また、その問いにあなたならどう答えるか。300字程度で述べなさい。



(2)解答例


問2
i.
金融資産残高が多い階級ほど金融資産の占める有価証券の比率が高くなり預貯金の比率が低くなる傾向にある。(50字)
ⅱ.
一部の富裕層が多額の金融資産を保有しているため中央値から平均値を押し上げており、格差が拡大している。(50字)

問6
 自家用車の保有台数が減少すると、自動車の利用機会が減り、モビリティーとして、車のほかに自転車、電車やバスの利用など、移動手段の多様化が進むと考えられる。こうした複数の移動手段を組み合わせたサブスクリプションが開発・販売されると予測される。
 バスの運行についても、特に地方では路線バスが廃止され、利用者の個々のニーズに合わせた柔軟なルートを走行するコミュニティバスも現れるだろう。
 こうしたサービスの運用にはAIなどの技術を用いたアプリの開発が行われるため、DXの導入が必要となる。(249字)

問7
経済成長により貪欲や金銭愛は消えるとケインズは予測したが、21世紀にウォール街の強欲や金持ちの金銭欲を背景にグローバル金融危機が起こり、予測が外れた見ることもできる。エッセイからは経済成長が真の豊かさを生むか否かという問いが読み取れる。ウォール街の強欲に疑問をもったムハマド・ユヌスはグラミン銀行を創設し、マイクロクレジットという無担保の小口融資を行った。こうした活動は発展途上国で貧困層を減らした。このような格差を無くし地域社会に貢献するソーシャルビジネスが次々に起こっている。経済成長でゆとりを持った人々の利他的活動は格差の縮小に寄与し、ケインズの理想とする社会に近づく一歩となると考える。(296字)

「OK小論文」では、小論文のオンライン個別授業を開講しております。

JSB総合科目 立教大学経済学部経済学科小論文はもちろん、その他、私立・国公立の大学・学部などの推薦、総合選抜型、一般入試で小論文を使う多くの入試に対応できます。
※ご注意
JSB総合科目の数学問題は対応できません。


サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す