(1)問題
次の文章を読み,以下の問いに答えなさい。
① およそ,真の意味での研究者を志す人で独創的な研究をしたいと思わない人はいないであろう。世の中に五万とある雑誌に毎週毎月掲載される論文の中に独創的な研究がどのくらいあるかは読者が一番よくご存じである。有体(ありてい)に言うならば大部分の論文は,私自身のものも含めて当然予測されることを確認したり,だいたいわかっていることの穴埋めをしたりという枝葉末節的なものである。その中からできるならば時代を変革するような,これまでの考えを根底から覆すような研究をしたいと考えるのが研究者の最大の楽しみであろう。しかしながら,(ア)何が独創的な研究かという捉え方は人によって少なからず差がある。
(中略)
② (1)研究者を志す若い人に「何を研究したいか」という質問をすると,ひと昔前は癌を研究したいと言い,昨今は脳を研究したいというのが流行である。古くから研究においては,どのような質問をするのかによって問題の半分は解決されたと言われている。癌だとか,脳だとかいうレベルでは研究の対象としての設問にならないことは明らかである。したがって実際に研究を自分の一生の仕事として作り上げるためにはもっと緻密かつ具体的な設問として立ち上げなければならない。研究をするうえでは実はここが最も難しいところである。「自分はいったい何が知りたいのか」と常に自問自答してきたのが私のこれまでの一貫した研究者人生であったとも言える。ところが,考えてみるとこれは一見矛盾しているように見える。研究とは自分の好奇心を大切にしてそれに向かってまっしぐらに突き進めば必ず重大な疑問にぶちあたるはずであると多くの人は考えるからである。
③ しかし,一見不思議に思えたこともよくその分野のことを調べてみるとすでに多くの人が研究をしてかなりのことがわかっているという場合がほとんどである。また自分のささやかな好奇心に基づいた疑問がはたしてどれほどの研究の価値があるのか,あるいは重要性があるのか自信がもてなくなることもしばしばである。このような場合にてっとり早いのは,世の中の多くの人が注目して,大勢の人が研究をしているいわゆる流行のテーマに参加することである。世の中にはすべて流行があり,隣の人が気にならない人は少ない。したがって,流行の中に身を置くことは,ファッションに限らずすべてにおいて安心感を与えるのであり,またもっとも無難な生き方であると多くの人が本能的に感じている。(2)一方,自信が十分にある人も流行を追うことになる。
(中略)
④ そもそも独創的な研究とはどのようなものか,これについては古来いろんな論議があるが,単純に言うならば独自の考えで始めることであり,一般的には流行に乗ることではない。しかし,独自の考えといえども全く何もない白紙の上に絵を描くような研究というのは,今日きわめて稀である。過去に独創的研究と言われるものも,そのほとんどは以前の学問の発展の上にひと皮加えた程度と考えても間違いはない。
(中略)
⑤ 独創的な考えなどというものは,誰の頭にもあってそれほど飛躍的な発展ではないという見方もある。しかし,研究のアイディアを単に思いつくこととその未知の可能性にかけて研究することには非常に大きな違いがある。これは例えて言うなら,あのベンチャー企業の株が上がると思ったと後から言う者と,実際にその可能性にかけて借金をしてまでその株を買った者との違いである。もし,本当に自分がその可能性が高いと信じ,それを実証したいと思うなら,その時点であらゆる努力を集中してその問題にとりかかるのである。つまり,独創的と言われているものは無から有を生じるように出てくるものではない。しかし,そのような考えが先人の実績の中からおぼろげながら浮かび上がったとしてもそれが誰にとっても自明のものであるなら,おそらくそこには独創的な飛躍はなく,簡単に実証可能なものである。多くの人がそのような可能性はあったとしても非常に少ないと考え,いわゆる流行にならなかった可能性にかけて,そしてそれが実証されたときに多くの場合に飛躍的な展開が起こるのである。
⑥ しかし,そのような難しいことだけが独創性とは限らない。凡人が独創性を生み出すこ
とはそんなに難しいことではなく,ナンバーワンになることを求めず,オンリーワンになることを考えることが最も近道である。極端な話,生物学の研究は,これまで誰も研究したことのない生物種を選び,それを詳しく解析することによっても十分に独創性が発揮される。しかし,それにかけるだけの勇気と熱意があるかどうかである。
(中略)
⑦ そもそも研究とは,好奇心からスタートするものである。“なんだろう?“,“不思議だな”という自らの問いを心ゆくまで追求することが,研究者の楽しみではなかろうか。先日もふとテレビで満月の夜に珊瑚(さんご)がいっせいに産卵を開始する映像を観て,なんと生物は不思議だという気持ちが心底,沸き起こるではないか。このような現象を心ゆくまで研究することが,まさに研究者の特権であり,また,一生をかける意味のあることではなかろうか。「流行を追う」ということは,自らの中に何かを知りたいという好奇心が希薄であるからではないのであろうか。「流行を追う」ことがその人にとって本当に楽しいのであろうか。研究を楽しまずにして,一生やることは業務でしかなくなり,果たしてそこに創造性豊かな研究が開かれるのであろうか。
(実験医学,2001年3月号,Vol.19,No.14より抜粋,改変)
問1 太字(1)について,このような流行が生まれる理由を本文をもとに2つ,それぞれ35字以内で答えなさい。
問2 太字(2)について,その理由として考えられることを60字以内で答えなさい。
問3 太字(ア)について,あなたが考える独創的な研究について,著者の意見との類似点,および相違点を明確にして250字以内で 述べなさい。
(2)解答例
問1
流行の中に身を置くことは,すべてにおいて安心感を与えるから。(31字)
流行の中に身を置くことは、無難な生き方であると感じているから。(32字)
問2
流行している研究は社会的な需要があるために国や企業などのスポンサーがついて潤沢な研究費を得ることができるようになるから。(60字)
問3
抗生物質のペニシリンはフレミングが発見した。彼は当時流行していた感染症研究を行う細菌学者であった。このような研究に実を置くことは研究職を維持できる安心感を与え、無難な生き方を選択することであるという事実においては、著者の意見との類似点である。しかし、ペニシリンの発見はぶどう球菌の培養実験の際、シャーレの一部に青カビが生え、その周辺だけはぶどう球菌が成育してこないという現象に気づき、青カビに細菌の増殖を抑える物質があることを確認した。このような偶然性から独創的な研究が生まれるという論点は相違点である。(250字)
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