「人工知能の発達と医師の役割」自治医科大学2017年

「人工知能の発達と医師の役割」自治医科大学2017年

記事
学び

(1)問題


次の文章を読み、設問に答えなさい。

① 人工知能の周辺がにわかに騒がしくなってきた。

② 人工知能が近い将来、人間の能力を超えるのではないか、人間の仕事は機械に奪われてしまうのではないか、というのである。

③ 「人間vs人工知能」の戦いはすでにあちこちで繰り広げられている。
④ 将棋の世界では、プロ棋士が人工知能と戦っている。そして、元名人をすでに破っているのだ。元名人で永世棋聖の故米長邦雄氏が、コンピュータ将棋のプログラム「ボンクラーズ」に敗れたのが2012年である。その後、「将棋電王戦」と呼ばれるプロ棋士とコンピュータの戦いが毎年行われている。2013年には、プロ棋士5人と人工知能が戦い、プロ棋士が1勝3敗1分けで負け越した。2014年にはさらに対戦成績が悪化し、1勝4敗と、プロ棋士は1勝しかできなかった。人工知能がますます強くなっており、コンピュータの能力を少し制限したほうがいいのではという議論すら起こってきている。

⑤ クイズで人間に勝つ人工知能も現れた。2011年、IBMが開発した人工知能「ワトソン」は、アメリカの有名なクイズ番組で、人間のチャンピオンを破って優勝し、賞金100万ドルを獲得した。たとえば「米国が外交関係を持たない世界の4カ国のうち、この国は最も北にある」という問いの答えを、早押しで解答する。正解は「北朝鮮」である。

(中略)

⑥ ワトソンは料理の世界にも進出している。大量のデータをもとに新しいレシピを自動的に考える「シェフ・ワトソン」である。2014年の暮れには、「シェフ・ワトソン」の考案したレシピを一流のフレンチシェフが調理して振る舞う試食会が日本で開催された。

⑦ さらに三井住友銀行とみずほ銀行は2014年11月、コールセンターへの問い合わせにワトソンを利用すると発表した。問い合わせをしてきた利用者とオペレーターとの会話をシステムが聞き取り、ワトソンが適切な回答を見つけるというもので、1回当たりの対応時間が大幅に削減される見込みだという。

⑧ 日本では、「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトが2011年にスタートした。センター試験の問題を解く人工知能を開発するというものである。この人工知能「東ロボくん」は年々偏差値が上がっており,2014年に受験した「全国センター模試」では,全国581の私立大学の8割に当たる472大学で合格可能性が80%以上という「A判定」だった。なんと、すでに全国の大多数の私立大学に入れるくらいの点数を、人工知能がとることができるのだ。

(中略)

⑨ 日本ではソフトバンクが、2014年に「Pepper」という人工知能搭載のロボットを発表した。フランスのアルデバラン・ロボティクス社との共同開発である。感情エンジンという人工知能が搭載され、人の感情を読み取ることができるため、悲しんでいるときに励ましてくれたり、うれしいときに一緒に喜んでくれたりするそうだ。2015年には約20万円の価格で発売されることになっている。

⑩インターネットは人工知能技術の宝庫である。検索エンジンの中には、「機械学習」と呼ばれる人工知能の技術がふんだんに使われている。ユーザーがどういうキーワードを入れたときに、どういったページを求めているのか、それをウェブページの特徴とあわせて学習する。質の低いページを見分けたり、有害なコンテンツを見分けたりすることも機械学習の仕事である。検索エンジンにユーザーがキーワードを入れると、一瞬で目的のページが表示されるのはそのためだ。

⑪Eメールのサービスには、迷惑メールのフィルタリング機能が搭載されている。これも典型的な人工知能、機械学習だ。どういったメールが迷惑メールなのかを学習し、自動的に分類していく。ニュースサービスでは、膨大な数のニュース記事を、あらかじめ学習した分け方に従って、人工知能が瞬時に分類していく。

(中略)

⑫法律の分野でも、人工知能の高速処理は威力を発揮する。日本でビッグデータ解析などを手がけるUBICは、訴訟時のドキュメントレビュー(証拠閲覧)支援に人工知能を用いている。関連するメールやビジネス文書をすべて調査し、証拠として提出するのだが、証拠発見に機械学習を利用することで、最終的に人間が確認しなければならないデータ量を圧倒的に減らすことに成功している。大量の文書を読んで証拠を見つけるというパラリーガル(弁護士秘書)の役目を、人間にはとてもできない高速なスピードで、人工知能がやっているのだ。

⑬人工知能のすごさは高速性だけではない。一見すると人間にしかできないように見える領域まで進出しようとしている。

⑭作家星新一のショートショートを人工知能に作成させようというプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」は、星新―が残した1000本ほどの短編のデータをもとに、人工知能に文章を書かせようというものだ。コンピュータは天才的なひらめきで流れるように文章を生み出すのは苦手だが、有望な組み合わせを大量につくり、トライ&エラーで結果のレベルを上げていく作業は得意中の得意だ。膨大な小説のデータを解析して確認し、作品のレベルを上げていけば、やがて星新―のような作品を自動的につくり出せるかもしれない。

(中略)

⑮iPhoneに搭載されたSiriという音声対話システムを使ったことがある人は多いかもしれない。これも有名な人工知能の一例である。音声で会話をすることができ、「愛してる」と話しかけると、「どのアップル製品にそう言っているんでしょう」などと、気の利いた返答を返す。会話の中で、天気予報や株式情報、メールの情報などについても答えてくれる。(中略)

⑯こうした進化によって、人工知能は人間の仕事を次々と奪い取っていくのではないかと心配する声が日増しに強くなっている。いつの日か、人工知能が大量の失業を生み出すかもしれない。2014年、英国デロイト社は、英国の仕事のうち35%が、今後20年間でロボットに置き換えられる可能性があるという報告を発表した。年収3万ポンド(約550万円)未満の人は、年収10万ポンド(1800万円)以上の人と比べて、機械に仕事を奪われる確率が5倍以上高いという。

⑰さらに、オックスフォード大学の研究報告では、今後10~20年ほどで、ITの影響によって米国の702の職業のうち、約半分が失われる可能性があると述べている。米国の総雇用のなんと47%が、職を失うリスクの高いカテゴリに該当する。

⑱書類作成や計算など、定型的な業務はすでに機械に置き換わりつつある。『機械との競争』を書いたアンドリュー・マカフィー氏によると、米国では、会計士や税理士などの需要がこの数年で約8万人も減っているという。

【松尾豊:『人工知能は人間を超えるか~ディープラーニングの先にあるもの~』よりKADOKAWA2015年】

【設問】人工知能が発達すれば医師の役割はどう変わるか、あるいは変わらないか。君の考えを述べなさい。(800字以内)

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(2)解答例


 AIは画像解析に優れ、レントゲン診断などで初期の肺がんを人間の診断医以上の精度で発見することができるという。また大量の医学論文を読み込み、珍しいタイプの白血病を10分ほどで見抜いて、医療機関に適切な治療法を助言して患者の回復に貢献している。このようにAIは医療の分野でも着々と成果を出し始めている。

 今後、日本では高齢化と人口減少が進み、労働人口の減少に伴って医療従事者の不足と患者の急増が予想される。こうした課題を克服するには、医療現場においてもAIなどの機械化がますます進められることが期待されるところである。上記に挙げた例からも明らかなように、特に診断医の業務の一部はAIに代替されることが現実に起こり得る。

 しかし、AIが下した判断にもし誤りがあった場合、機械に責任を負わすことはできない。重要な判断や最終的な責任は人間がとらなければならない。
医療現場においてAIと人間の協働が進展するなか、医療従事者とAIの関係は、医療倫理の観点から考えて、あくまでも人間が主で機械は従という関係を守っていかなければならない。(483字)


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