「深海底の資源と生物多様性」東京海洋大後期2018年

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(1)問題


次の文章を読み,問1から問3に答えなさい(配点:150点)

① 世界中の深海にマンガン団塊が豊富にあるということは,1872年から1876年のチャレンジャー号の航海の間に発見されて以来知られていたが,その採取には莫大な費用がかかるうえ技術的にも難しいことから,その後の1世紀はほとんど関心を集めなかった。ところが1970年代になって,貴金属が不足していたことと,深海にアクセスするための技術が格段に進歩したことを機に,多くの国や企業が深海採鉱を真剣に考えはじめた。(中略)

② 1970年代から1980年代前半にかけて,マンガン団塊採掘という夢を実現するための技術に巨額の資金が投入された。大きな経済的な見返りに対する期待は非常に強く,1980年代に進められた海洋法に関する国際連合条約(以下,国連海洋法条約)(注)の交渉では,深海底に存在するものの所有権をめぐって各国間で論争が起こったため,交渉が事実上ストップしたほどだ。深海にアクセスする高い技術力を有するアメリカなどの各国は明らかに,自らの優位性を捨てて他国を利するつもりなどなかったが,ほかの国々は,たとえ自力で到達する能力はなくても,自国領海内の富に対する所有権を譲ろうとはしなかったわけである。

③ とはいえ私から見れば,まだ地図にもなっておらず,人間が目にしたこともない地球上の広大な領域を掘り崩し,食い物にするという行為は,時期尚早どころではないと思えた。そこには市場性の高い鉱物以外のものもあるかもしれないし,(1)そうしたものの重要性については何もわかっていないも同然だったのだから。見込みのある採掘地の評価を任されていたある技術者に聞くと,マンガン団塊の採集用に開発中のブルドーザーのような機械を使ったところで,何も害はないはずだと答えた。「だって海底にいる生き物なんて,多少のナマコとクモヒトデくらいのものですよ。そんなの誰も気にしない」。しかし今では,深海の砂や泥のなかに棲む小さな生き物の多様性は,陸上で最も多様性豊かな場所をしのぐ場合すらあることがわかっている。

④ 1980年にワンントンDCで国連海洋法条約交渉の米国代表の話を聞いたときには,仰天した。「深海採掘の影響はごくわずかだろう。深海底には緑色のヘドロ以外には何もないのだから。」と言うのだ。

⑤ 私は生物学者として,海のなかで人間が目にしたことのあるあらゆる場所には,驚くほど多様な生物が数多く生息していることをよく知っている。だから,深海はヘドロに覆われている,ましてやそれが「緑色」だなどという認識には耳を疑うばかりだった。

⑥ 各国が管轄権を主張する区域を越えた未踏の領域で採掘活動を行えば,破壊的なものになることは疑いない。その影響を鼻であしらうよりも,私は南極条約で提示されているモデルを強く推したい。

⑦ 南緯60度以南のすべての陸地と棚氷からなるこの広大な白い広野は,1961年以降,科学的調査は認められるものの軍事活動は一切禁止される場所として国際的に尊重されている。1988年には「南極鉱物資源活動規制条約」が調印されたが,後に反対が起こり,1991年に新たに「環境保護に関する南極条約議定書」が採択され,鉱物資源に関しては科学的活動を除くあらゆる行為が禁止された。深海底に関しても同様の(2)「予防原則」をとればいいものを,と私は長いこと思っているが,今のところ無駄に終わっている。

⑧ 国連海洋法条約にはいくつかの保護政策が組み込まれているが,「銀や金,銅,ニッケル,コバルト」が海底ですくい上げられるのを待っているという誘惑から,深海採掘に関する特殊な文言が起案されるにいたった。この条約により,探査・採掘の認可と鉱区使用料の徴収・分配を行う国際海底機構が設立された。2009年半ばの時点で158ヵ国がこの条約を批准しているが,アメリカを含む21ヵ国は調印したものの批准を見合わせている。その理由はおもに,得られるより失う分のほうが多いのではないかといぅ根強い懸念にある。

(シルビア・アール「母なる海に迫る危機」,古賀祥子訳,2010年,「ワールド・ィズ・ブルー乱獲,汚染,絶減―日経ナショナルジオグラフィック社より抜粋,一部改変)

(注)排他的経済水域や大陸棚などの海洋法秩序の再編成を扱う「海の憲法」と言われる。その133~191条は,沿岸国大陸棚の外側をいずれの国の管轄権も及ばない海底域とし、そこから得られる利益は国際社会全体に帰属し,人類全体のために利用および管理される制度を明記した。

問1  太字(1)について,本文で述べられている「そうしたものの重要性」とは何か,100字以内で説明しなさい。(配点:40点)

問2  太字(2)では,「予防原則」という言葉が使われている。著者は,どのような意味でこの言葉を使っていると考えられるのか,本文の説明をふまえて150字以内で述べなさい。(配点:50点)

問3 深海底の採掘活動によって失われる可能性があるものにはどのようなものがあるか,具体例をひとつ挙げなさい。また,それを保護し,環境と調和する開発をするためにはどのような措置が必要となるか,あなたの考えを400字以内で述べなさい。(配点:60点)

ゴエモンコシオリエビ.png

(2)解答例


問1

マンガンなどの市場価値の高い海底資源以外にも、深海には重要な価値が存在する。深海の砂や泥のなかに生息する生物多様性は,陸上で最も多様性豊かな場所をしのぐ場合すらあることがわかっているということ。(197字)

問2

深海底に存在する鉱物などの地下資源の所有権をめぐって国家間で争いが起こり、各国が管轄権を主張する区域を越えた未踏の領域で採掘活動を行えば深海底の環境破壊は壊滅的なものになる。このような事態にならないように、鉱物資源に関しては科学的活動を除くあらゆる行為を禁止して深海底の環境破壊を予防するという原則。(150字)

問3

沖縄トラフの深海熱水噴出孔の近くに住む生物で、ゴエモンコシオリエビというエビがいる。このような特殊な環境下に生息する生物がどのように進化したのかは未知の部分が多く、貴重な調査・研究の対象となり、こうした生物は保護されなければならない。国連海洋法条約では、領土の沿岸から200海里を排他的経済水域(EEZ)と定め、その範囲内で国家は排他的開発権を持つ。この国際法に照らせば、深海底の開発はEEZの領域内であれば、当該国が自由に海底の掘削などを行うことができ、深海底のゴエモンコシオリエビなどの稀少な生物種の維持が毀損されるおそれがある。陸上では、地域の生態系を保全・涵養するため自然保護区が設けられている。深海底でも、希少生物が生息する区域でこうした保護区域を設定して開発を制限する措置が必要と考える。

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