大学生から始める狩猟記録 #11 二頭を二人で(途中から三人で)

大学生から始める狩猟記録 #11 二頭を二人で(途中から三人で)

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 初めての狩猟から数日。
 私は少しでも経験を積もうと、罠をかけては見回りを繰り返す日々を送っていた。
 そんなある日。
 その日集まったメンバーは、私と先輩ハンターの二人だけだった。
 いつもなら四、五人くらいはいるものなのだが、みんな都合が合わなかったらしい。
 師匠に関しては来るは来るのだが、用事があるため遅れて来るらしい。
 そんなわけで、着いたら早速見回りだ。二人ということで手分けをすることにした。
 先輩ハンターの方は車を持っているが、生憎僕は持っていない。そうなると短い時間で動ける範囲も、当然僕の方が狭いわけで。
 そのため集合場所から近い範囲の罠を僕が、遠いところは先輩ハンターに任せることにした。


 車に乗った先輩を見送り、僕ものんびりと出発する。
 時期はクリスマスを越して年末年始の少し前。冬も真只中だ。
 寒さに身を震わせて、積もった雪を踏み締めていく。
 田んぼの近くの罠には、鹿が来てる痕跡はあるもののかかってはいない。
 写真を撮ってLINEで先輩に共有すると、次の場所へと向かう。
 さて、次は田んぼの道から少し外れて、坂道を登った先にある畑の近く。
 若干雪が溶けてぬかるんだ山道を進んでいくと………

「おっ、いた」

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 メスの鹿が一頭かかっていた。二歳程だろうか。
 今もそうだが、何度経験しても、罠に獲物がかかっていると嬉しくなるものだ。
 小さくガッツポーズをすると、写真を撮ってLINEで共有。
 このまま数分ぐらい観察会をしたいところだが、まだ見回る所がある。
 一旦鹿にバイバイし、畑を後にした。
 私が見回る所は、後四つ。だが残念なことに全部かかっていなかった。
 ちなみにその内一つは空弾きだった。
 空弾きというのは、罠が作動はしているが獲物がかかっていないこと。
 原因は様々だが、今回の場合は、罠の感度が高過ぎることが原因だ。
 もったいないなぁと思いつつ、先輩ハンターと合流した。
 先輩も見回りの結果を順次報告してくれていて、残りは一つとなっていた。
 そしてその結果はというと………

「かかってたよ」

 とのこと。
(マジかぁ)
 思わず心の中で声が漏れた。
 もちろんこれまで一度に二頭獲れたことはあった。だが大体その時は、もっと大人数でやっている時だ。
 セオリーとしては一頭につき複数人で解体する、といった具合になる。
 しかし今回は二人。二人で二頭の鹿を相手にすることになった。
 さらに困ったことに、今回は師匠がいない。
 どういうことかというと、これまでは鹿が獲れたら、まとめて師匠の持っている大きな車に積んで、解体場所まで運搬していた。
 というか、鹿を載せて運べるほどの大きさの車を持っている人が、師匠くらいしかいないのだ。
 その師匠がいないということは、解体場所まで運べる車がないということ。
 これが二頭の獲れた場所が近かったら、止め刺しした後に合流して、二頭共同時に解体できた。
 ただそんな都合よくなるわけもなく、二頭は離れている。


 結論として、一頭ずつ止め刺しと解体をすることにした。
 私が見つけた方の鹿には申し訳ないが、少しの間そのまま辛抱してもらい、その間に先輩が見つけた方をまず解体する。
 その解体に関しても、解体場所まで運べないため、その場で行うことにした。
 当然吊るしたりも出来ないし、尚且つ時間もない。あまり時間をかけ過ぎると、残された鹿に負担をかけることになるからだ。
 そのため内臓と内ロースは諦めて、腹を開かず四肢と背ロースを取ることにした。


 そうと決まれば早速開始だ。
 まずは先輩が見回りした罠へと向かう。
 かかっていたのはメスの鹿だ。僕が見つけた個体よりは小さかった。
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 私達を見ても、暴れることなくこちらを見つめてくる。
 ここは低い木々が茂る場所で、罠の周りも枝のせいで思うように動けない。
 鹿もそれが分かっているのか、木の根元にしゃがんで出てこない。
 仕方ないので、鹿に枝が邪魔にならないところまで出てきてもらうことにした。
 先輩がロープを鹿の首に通して、あまり苦しめないように気をつけながら引っ張った。
 しっかりと抑えつけると、棍棒で一発………の、ところで先輩のスマホが震えた。師匠からの電話だった。
 先輩は片手にロープ、もう片手に棍棒の状態なので、仕方なく私が電話に出る。
 内容はシンプルで、『あと二時間くらいしたら合流する』とのこと。
 理不尽な要求なのは百も承知だが、止め刺し最中に連絡しないでくれ………


 そんなことがありつつも止め刺しが終わり、しっかりと手を合わせると、ここからはスピード作業だ。
 前回は滑車で吊るして解体したが、もちろん罠の周りに滑車などない。というかお腹を開くつもりもないので、そもそも必要がない。
 いつもは獲った鹿を包んで運ぶためのブルーシートを広げて、そこに鹿をうつ伏せの状態で寝かす。
 そして背中からナイフを入れて、首より下の毛皮を剥いでいく。
 その後はこれまで通り、背ロースと四肢の肉を取ったら解体完了だ。
 解体方法は一つじゃない。時と場合に応じて、色んなやり方を身につけるべき。今回学んだことの一つだ。
 正直かなり勿体無い気もするが、こうしている間にも罠に繋がったまま暴れているかもしれない鹿がいるのだ。
 早いところ楽にしなければ。
 それにあまり長いこと暴れられて、肉や罠にダメージが与えられたらたまったもんじゃない。正直こっちが本音でもある。


 というわけで残った残滓も、のんびりと捨てている時間はない。
 土地の持ち主さんに事情を話して、特別に一旦そのままにしてもらった。そもそも人が寄りつかない場所だったので、あっさり了承してくれた。
 とはいえ頭も背骨も繋がったままで、内臓も出していない。言ってしまえば一塊だ。
 毛皮と一緒に埋めるにしても、どこか移動させるにしても、運ぶのは簡単だろう。
 念のため外から見れないようにブルーシートを被せて、次の場所に向かった。


 さっき見回った畑へと戻ってきた私達。
 あまり興奮させないように、そっと物陰から様子を伺う。
 あれから時間が経ったこともあり、暴れて怪我でもしてないかと心配だったが、その様子は無さそうだ。
 止め刺しの方法は変わらず、行けるタイミングを探りながら近づいていく。
 この場所はさっきと違って低い木はない。というかそもそも木自体が罠のアンカーに使われているものぐらいしかなく、開けた場所だ。
 さっきに比べれば止め刺しは簡単。
 そう思っていたのだが………

「さて、どうしたものか」

 私達は、近づこうとしては少し後退するを繰り返していた。
 というのも、この鹿が元気過ぎるのだ。
 通常であれば、暴れた鹿が疲れて休んだ隙を突いて止め刺しをする。その間大体10秒程だろうか。
 しかしこの鹿、休む時間が二、三秒しかない。
 動きが止まったことを確認して近づこうとすると、また暴れ出してしまう。
 しかも暴れ方も結構激しく、上手く間合いが詰めれない。
 メス鹿は角がない分、オス鹿よりも攻撃力が低いと思われることがあるし、確かにそれはそうだ。
 しかし角があろうとなかろうと、勢いよく頭突きでもされたら普通に大怪我だ。
 それに、鹿には強力な脚力がある。
 下手に後ろから近づいてしまえば、蹴っ飛ばされて最悪三途の川行き………なんてことも全然あり得るわけで。
 ただこのまま見ていても何も終わらない。
 先輩と話した結果、罠のワイヤーを踏んで固定。多少動きを止めてトドメを刺すことに。
 さっきの鹿は先輩が止め刺ししたので、今度は私が。
 棍棒を握り、ゆっくりと間合いを詰めていく。
 頭突きも蹴っ飛ばされるのもゴメンなので、横から近づいてワイヤーを踏んだ。
 よしっ!と、思った瞬間


 鹿が思いっきり私から離れようと体を揺らした。


 これで私の靴が普通の長靴なら、ただワイヤーが外れて終わっただろう。
 しかし私の長靴にはスパイク付きで、踏みつけたワイヤーはスパイク同士の間に噛まれていた。
 後はもう何となく展開が読めるだろう。
 こんな状態で暴れられたので、引っかかったワイヤーに足元を掬われてしまった。
 リュックがあったおかげで、後ろから転んでも頭を打つことはなかったのが、唯一の救いだ。
 ここ数年で一番派手に転んだ私が顔を上げると、当然目の前にはこちらを見つめる鹿の顔が。
 鹿相手ならこの状態で何かされることはないだろうが、それはそれとして野生動物に見下ろされるのは、さすがにおっかない。
 咄嗟に棍棒を上段の構えで突きつけて威嚇する。ちなみに上段の構えである必要はなかったと思う。
 思った通り鹿が離れてくれたので、立ち上がって仕切り直しだ。
 ワイヤーを踏む役は先輩に任せて、今度こそ横から一撃。弱ったところに後数発入れて、キッチリ止め刺し出来た。
 こちらの解体も先程と同じ。うつ伏せにして毛皮を剥ぎ、取れるだけのお肉を取る。
 と、その最中やっと師匠が合流した。三人でテキパキ解体を進める。
 おかげでこっちは思ったよりも早く終わったので、タンもいただいた。美味しいのでね。


 残滓は近くの捨てて問題ない場所にきっちり埋めて、一頭目の鹿の残滓を片付けに向かう。
 三人で残滓を置いといた場所に着くと、何か小さな塊が動いているのが見えた。
 その塊は近くの茂みに隠れて、こちらの様子を覗いている。
 それは目の周りが黒く縁取られている茶色い毛玉、タヌキだった。
 猟場ではよく足跡を見かけていたのでいるのは知っていたが、ここで見るのは初めてだ。
 タヌキはしばらくこっちの様子を見ていたが、私達がどこかに行くこともなく、むしろ近づいてくると分かると、茂みの中へと逃げていった。
 しかし普通の獣なら私達が近づいてきた時点で逃げるはずなのに、何故こんな目が合うまでいたんだろうか。
 その答えは、すぐ目の前に転がっていた。
 そう、私達が残していった残滓だ。
 おそらく匂いで嗅ぎつけて、ブルーシートをめくって見つけたのだろう。
 一塊になっていたはずの残滓はタヌキに食い漁られていて、腹も食い破られていた。当然しまっていた内臓も出てしまっている。
 せっかく楽に埋められるはずだったのに………
 まぁ文句を言っても仕方ない。犯人はもう茂みの中だ。
 近くに捨てられる場所を見つけて、手早く埋葬する。食べるならこの後にして欲しかった。


 そんなこんなで、今日の狩猟は終了。
 肉を三人で分けると、どんな風に調理しようか考えながら帰路に着いた。
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