小学校中学年くらいまで、私は迷いなくサンタクロースの存在を信じていた。
クリスマスの朝、枕元に置かれたプレゼント。
それは「誰かが用意したもの」ではなく、「サンタクロースが来てくれた証」だった。
けれど、高学年になる頃、周囲の空気は少しずつ変わっていった。
友達の何気ない一言、大人たちの曖昧な笑顔。
そして、私は「いわゆるサンタクロース」は実在しない、という事実を知る。
──でも、そのときだった。
私は同時に、本当のサンタクロースがいるということも知った。
フィンランド。
北の国にある「サンタクロース村」。
そこには、今もなお、世界中の子どもたちの手紙を受け取り続けるサンタクロースがいるという。
胸の奥が、もう一度あたたかくなった。
消えてしまったと思っていた魔法が、形を変えて息をしているようだった。
「なら、手紙を書こう」
そう思った私は、英語の勉強を始めた。
完璧な文章じゃなくていい。
辞書を引きながら、一文字ずつ、気持ちを並べていく。
クリスマスが近づくころ、勇気を出してエアメールを投函した。
白い封筒は、はるか遠いフィンランドへ旅立っていった。
それからしばらくして。
クリスマス前のある日、ポストに見慣れない封筒が入っていた。
フィンランドからだった。
手が震えた。
封を切るまでの数秒が、永遠のように長く感じられた。
中には、英語で書かれた手紙。
内容は印刷されたものだったけれど、最後に書かれたサインは、明らかに直筆だった。
Santa Claus
それを見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
「本物だ」
理屈ではなく、心がそう感じていた。
私はまた手紙を書いた。
年を重ねても、英語で。
嬉しかったこと、頑張っていること、少しだけの弱音も。
大人になっても、サンタクロースは返事をくれた。
子ども向けの形式だったかもしれない。
けれど、それは確かに「誰かが私に向けて用意してくれた言葉」だった。
今、思う。
サンタクロースとは、プレゼントを配る存在ではないのかもしれない。
信じる気持ちを、
世界のどこかでちゃんと受け取ってくれる存在。
「あなたの手紙は届いているよ」
そう教えてくれる、静かな奇跡なのだ。
あのとき手紙を書かなければ、
英語を学ぶ理由も、世界とつながる感覚も、
きっと今の私は持っていなかった。
サンタクロースは、今もフィンランドで手紙を読んでいる。
そして私は今も、あの冬の気持ちを胸に抱いている。
信じる心は、
大人になっても、ちゃんと返事をもらえるのだと。