親の介護準備や終活について、「そろそろ考えた方がいい」と思っているのは、自分だけ。
兄は、「まだ元気なんだから大丈夫だろう」と言う。
妹は、何かあった時に考えればいいんじゃない?」と関心が薄い。
一方、自分は、
最近親の歩き方が少し不安。
物忘れも増えている気がする。
病院のことも、お金のことも、何も分からない。
このままで本当に大丈夫なのだろうか?
そんな不安を感じている。
兄弟姉妹がいる家庭では、このような「温度差」が生まれることがあります。
同じ親の子どもなのに、なぜこんなに感じ方が違うのか。
そう思うかもしれません。
でも、温度差があること自体は不自然ではありません。
親との距離。
会う頻度。
これまでの親子関係。
仕事。
家庭事情。
性格。
持っている情報。
これらが違えば、親の老いに対する受け止め方も違って当然です。
大切なのは、「全員を同じ危機感にそろえることではありません。」
必要なのは、「事実を共有し、それぞれができる役割を決め、いざという時に家族が動ける状態をつくること」です。
同じ親を見ていても、見えているものは違う
兄弟姉妹の温度差が生まれる大きな理由の一つは、「親について持っている情報量が違うこと」です。
近くに住んでいる長女は、
毎週親と会っている。
病院へも付き添っている。
冷蔵庫の中が同じ物ばかりになっていることにも気づいている。
最近、薬の飲み忘れが増えたことも知っている。
一方、遠方に住む弟は、年に数回しか会わない。
電話では親も元気そうに話す。
帰省した時には、親も普段以上にしっかり振る舞う。
すると弟から見ると、「まだまだ元気じゃないか...」となります。
どちらが正しい、間違っているという話ではありません。
「見ている場面が違うから、判断が違う」のです。
「分かってくれない」ではなく、まず事実を共有する
温度差がある時、「どうして分かってくれないの?」と感情的に伝えてしまうと、話し合いはうまくいきにくくなります。
たとえば、「お母さん、もうかなり危ないよ」と言うより、
「この1か月で薬を3回飲み忘れているみたい」
「先週、家の中で転んだ」
「病院まで一人で行くのが難しくなってきた」
と、具体的な事実を伝えます。
感想ではなく、事実。
不安ではなく、出来事。
この形にすると、兄弟姉妹も状況を理解しやすくなります。
介護の家族会議で大切なのは、「誰の危機感が正しいかを競うことではなく、家族全員が同じ情報を持つこと」です。
親自身の言葉だけで判断しない
遠方に住んでいる兄弟姉妹ほど、親本人の電話の言葉をそのまま受け取ることがあります。
「大丈夫だよ」
「何も困っていない」
「自分でできるから心配するな」
親は子どもに心配をかけたくなくて、こう言うことがあります。
また、本人自身が生活の変化に気づいていない場合もあります。
だから、
親の言葉。
実際の生活。
医療・介護職から見た状態。
この3つを分けて考えることが大切です。
「本人が大丈夫と言っているから大丈夫」けではなく、実際に、
食事。
服薬。
買い物。
通院。
お金。
家事。
移動。
がどうなっているかを確認します。
兄弟姉妹で「介護に対する価値観」が違うこともある
温度差は、情報量だけではありません。
介護に対する価値観も違います。
たとえば、「できる限り家族で支えるべき」と思う人。
「介護サービスを積極的に使うべき」と思う人。
「施設に入った方が安全」と思う人。
「本人が家にいたいなら自宅で支えるべき」思う人。
どれも、一つの考え方です。
問題は、自分の価値観が家族全員の常識だと思ってしまうことです。
「普通は家族がやるでしょう」
「そんなにサービスを使う必要はない」
「施設に入れるなんてかわいそう」
こうした言葉は、他のきょうだいを責める言葉になってしまいます。
まず、「自分たちは何を大切にしているのかが違うかもしれない」と認識することが、話し合いの第一歩です。
昔の兄弟関係が、介護の場面で再び出てくる
介護は、家族の昔からの関係性を映し出すことがあります。
子どもの頃から長女がしっかり者だった。
長男は親から頼られてきた。
末っ子は家族に任せることが多かった。
昔から兄弟間に競争意識があった。
親との関係にそれぞれ違いがあった。
こうした役割が、介護の場面でもそのまま再現されることがあります。
「お姉ちゃんがやればいい」
「長男なんだからお願い」
という言葉の背景には、何十年も続いてきた家族の役割意識があることもあります。
だから介護では、「昔からの役割をそのまま引き継がない」ことも大切です。
今の仕事。
住んでいる場所。
健康状態。
家庭環境。
をもとに、改めて役割を考え直す必要があります。
「平等にやる」より「できることを分ける」
兄弟姉妹で介護を完全に平等に分けることは難しいものです。
近くに住む人。
遠くに住む人。
仕事を休みやすい人。
子育て中の人。
健康上の問題がある人。
状況が違うからです。
だから、「全員が月2回実家に行く」というような平等を目指さなくても構いません。
近くに住む人は通院同行。
遠方の人は施設や制度の情報収集。
別の人は介護費用の管理。
さらに別の人は親への定期連絡。
このように分けることができます。
大切なのは、「負担の形は違っても、誰か一人だけに全部を背負わせないこと」です。
「何もしない人」を責める前に、役割を具体的に頼む
介護で不満がたまりやすい言葉があります。
「少しは手伝ってよ」です。
言われた側からすると、「何をすればいいの?」となることがあります。
そこで、できるだけ具体的に頼みます。
「来週の病院、付き添ってもらえる?」
「この3施設について調べてほしい」
「今月のおむつ代、半分お願いできる?」
「毎週日曜日にお父さんへ電話してくれない?」
この方が、相手も動きやすくなります。
「もっと関わってほしい」ではなく、「何を、いつまでに、どの程度お願いしたいか?」を具体的に伝えることが大切です。
介護の中心になっている人が「全部決めない」
逆に、近くにいる人が注意したいこともあります。
自分が一番動いている。
自分が一番親の状態を知っている。
だから自分が決めるしかない。
そう思うようになることがあります。
もちろん緊急時には判断が必要です。
でも、重要なことを一人で決め続けると、遠方の兄弟から、「勝手に決めた」
と言われる可能性があります。
施設選び。
大きな医療判断。
実家の処分。
介護費用。
重要なことは、できる範囲で情報を共有しておきます。
介護の中心人物になることと、「家族の全権を持つことは別」
です。
グループLINEなどで情報共有を「仕組み化」する
兄弟姉妹との温度差を小さくするには、「情報共有を仕組みにしてしまう方法」も有効です。
たとえば、家族用のグループLINEを作ります。
「今日の受診結果です」
「薬が一つ増えました」
「来月、要介護認定の更新があります」
「施設からこのような連絡がありました」
と短く共有します。
毎回電話で詳しく説明する必要はありません。
写真。
書類。
病院からの説明。
介護サービスの予定。
なども共有できます。
こうすると、
「聞いていない」
「知らなかった」
というトラブルを減らしやすくなります。
介護をしている人にとっても、同じ説明を何度もする負担を減らせます。
「家族会議」は大げさでなくていい
家族会議というと、全員が実家に集まり、何時間も話し合うイメージがあるかもしれません。
そこまで大げさにする必要はありません。
30分のオンライン会議でも構いません。
話す内容も、
今の親の状態。
今困っていること。
今後3か月くらいで起こりそうなこと。
誰が何を担当するか?
この4つ程度で十分です。
定期的に話している家族ほど、大きな問題が起きた時にも意思決定しやすくなります。
何年も話さず、緊急時になって突然集まるから、意見がぶつかりやすくなるのです。
お金の話は早めにルールを決める
温度差が大きなトラブルになりやすいのがお金です。
介護費用。
交通費。
日用品。
施設費。
通院費。
誰が払うのか?
原則として、親本人の費用は親本人の財産から支払うことを基本に考えます。
ただし、家族が一時的に立て替えることもあります。
その場合は、
日付。
金額。
用途。
支払った人。
を記録します。
そして、家族に共有します。
「自分がこれだけ出している」という話を何年後かに初めて持ち出すと、トラブルになりやすくなります。
介護のお金は、「感情ではなく記録で共有する」ことが大切です。
温度差がゼロになるまで待たなくていい
兄弟姉妹全員が、「今すぐ準備が必要だ」と同じ危機感になるまで待つ必要はありません。
たとえば、
一人は介護準備に積極的。
一人はまだ必要性を感じていない。
それでも、
緊急連絡先。
地域包括支援センター。
かかりつけ医。
重要書類の場所。
など、できる準備は進められます。
全員の意見が完全に一致しなくても、「最低限の備えだけ先に進める」ことはできます。
介護は、家族会議で全員一致してから始まるわけではありません。
現実は待ってくれないことがあります。
関わらない兄弟姉妹にも「共有だけ」はしておく
どうしても介護に関わろうとしない兄弟姉妹もいるかもしれません。
何度お願いしても動かない。
電話にも出ない。
親との関係自体が悪い。
そんなこともあります。
この場合、無理に関わらせようとして、自分がさらに疲れてしまっては意味がありません。
ただし、重要な情報については、
「今日、要介護2になった」
「施設入所を検討している」
「今月から月○万円程度かかっている」
など、共有しておくことには意味があります。
あとになって、「そんな状態だとは知らなかった」言われないためです。
できる範囲で記録を残しておくと安心です。
第三者に入ってもらう方がうまくいくこともある
兄弟姉妹だけで話すと、
昔の感情。
親への思い。
お金。
不公平感。
が絡み、話し合いが難しくなることがあります。
その場合は、
地域包括支援センター。
ケアマネジャー。
医療ソーシャルワーカー。
専門職。
などに入ってもらう方法もあります。
第三者から、
「今はこの程度の支援が必要です」
「この部分は家族だけでは難しいです」
と説明されることで、家族全員が状況を客観的に理解できることがあります。
家族だけで解決することにこだわる必要はありません。
親の前で兄弟姉妹が争わない
介護分担の話になると、感情的になることもあります。
しかし、できるだけ親本人の前で、
「あなたは何もやっていない」
「私ばかり大変」
と争うことは避けたいものです。
親は、「自分のせいで子どもたちがもめている」と感じてしまうことがあります。
すると、
「もう誰にも頼まない」
「介護サービスもいらない」
と支援そのものを拒否することにつながる場合もあります。
兄弟姉妹の調整は、できれば親とは別の場で行います。
親には、「家族で支える方法を相談している」という安心感を持ってもらうことが大切です。
今やっておきたいことは3つ
一つ目は、親についての事実を兄弟姉妹で共有することです。
「心配だ」
ではなく、
転倒した。
薬を忘れた。
通院が難しくなった。
という具体的な情報を共有します。
二つ目は、役割を細かく分けることです。
介護を「誰がやるか」ではなく、
通院。
連絡。
情報収集。
お金。
施設探し。
などに分け、それぞれができることを担当します。
三つ目は、お金と重要な判断について記録を残すことです。
家族間の記憶だけに頼らず、共有できる形にしておきます。
温度差があっても「同じ方向」を向ければいい
兄弟姉妹との温度差がある時、どう整理するか?
大切なのは、全員を同じ考えにすることではありません。
危機感の強さも違う。
親との距離も違う。
できることも違う。
それで構いません。
必要なのは、「親ができるだけ安全に、自分らしく暮らせるようにする」という大きな方向だけ共有することです。
そのうえで、
事実を共有する。
できる役割を分ける。
費用を記録する。
重要なことは相談する。
必要なら第三者を頼る。
この仕組みをつくっておく。
介護で家族が壊れてしまったら、親にとっても悲しいことです。
兄弟姉妹全員が同じ熱量でなくてもいい。
でも、「誰か一人だけが背負わない」という最低限のルールは、できれば共有しておきたいものです。
介護準備は、親のためだけではありません。
介護が終わった後も続いていく、兄弟姉妹の関係を守るための準備でもあるのです。
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