心当たりはないだろうか。
夜、布団に入ってからふと頭をよぎる。
「今日はあの人に冷たくしすぎたかもしれない」
「もっと頑張れたはずなのに、途中で諦めてしまった」
「親に心配かけてばかりで、申し訳ない」
そうした小さな記憶が、胸の奥でチクリと疼く。
気づけば「私は足りない」「私は間違った」という声が心の中で鳴り始める。
──その瞬間、法廷の扉が音を立てて開かれるのだ。
「被告人、立ちなさい!」
木槌が打ち鳴らされ、主人公は裁きの場に引きずり出される。
悪徳裁判官は冷酷な目で訴状を読み上げる。
「あなたは今日、上司に愛想笑いをしてごまかした。誠実ではなかった」
「あなたは大切な人の話を聞きながら、心の中で別のことを考えていた。誠意が足りなかった」
「あなたはチャンスを前にしながら“まだ準備が必要だ”と逃げた。勇気を示さなかった」
主人公の心臓はドクドクと鳴り、言い訳を探そうとするが、言葉は喉に詰まる。
そのとき背後から低い囁きが忍び寄った。
「見ろ、誰もが心の中で同じことを言っている。“もっとできたはずだ”“まだ足りない”と。
これが人間の本質だ。罪悪感こそ真実なのだ」
それは悪魔の声だった。
裁判官はその囁きをそのまま判決文に変えていく。
「そうだ、罪悪感こそ動かぬ証拠!
お前は善を求めながら常に不完全だった。
努力したが届かなかった。愛したが救えなかった。夢見たが叶わなかった!」
「違う……私は……精一杯……!」
主人公は必死に抗うが、声はかき消される。
「沈黙!」
木槌が鳴り響き、法廷中にこだまする。
傍聴席には、無数の“見えない観客”がいる。
それは世間の目であり、親の声であり、過去の失敗の残響。
彼らが一斉にざわめき、主人公を指さす。
「有罪だ、有罪だ、有罪だ──」
声の渦に呑まれ、主人公は膝から崩れ落ちる。
「私は……本当に罪深いのかもしれない」
その思いが胸に重く沈み、逃げ道は完全に閉ざされた。