遠い国に、三つの塔が並び立っていました。
最も高い塔は「白の塔」。そこには国の知恵を司る大賢者が住み、国の未来を見渡していました。
二つ目の塔は「赤の塔」。そこには武と秩序を司る将軍が住み、国を守る役目を担っていました。
三つ目の塔は「青の塔」。そこには学び舎の長が住み、若き者たちを育てていました。
ある日、王国の空に、一羽の黒い鳥が現れました。
その鳥は、誰もが心の奥に隠している「見たくない想い」──
影の欠片を食べる代わりに、その者の肩に止まり、静かに囁きます。
「もっと認められたいだろう?」
「お前こそ正しい。力を示せ」
「弱き者は黙らせればいい」
最初に囁きを受けたのは白の塔の大賢者でした。
彼の影は赤の塔の将軍に降りかかり、将軍は苛立ちを覚えます。
将軍の影は青の塔の長に降り、長は若き者たちに厳しい命を飛ばします。
そして若き者たちの影は、さらに小さき者や動けぬ者に向けられていきました。
こうして影の鳥は、塔から塔へ、肩から肩へと渡り歩き、王国に濃い影を広げていきます。
ある旅人が、この国を訪れました。
彼は黒い鳥を一瞥し、静かに言いました。
「この鳥を追い払おうとしても無駄だ。
影は、あなたの中にも棲んでいるのだから」
旅人は自らの胸に手を当て、自分の影をじっと見つめました。
すると黒い鳥は、不思議そうに首を傾げ、やがて静かに羽ばたいて遠ざかっていきました。
人は影を否定すればするほど、鳥は羽音を高くします。
けれど、その影を見つめ、受け入れた者の肩からは、鳥は自然と去っていくのです。
そして、鳥が去ったあとに残るのは──
影と背中合わせに光り続ける、その人だけの「天命」でした。