夜の帳がゆっくり降りて、カップの中のハーブティーから、静かな湯気が立ちのぼっていました。
窓の外には、小さな雨粒が、淡々とガラスを打っています。
「ねえ奈央さん」
向かいに座る友人が、少し眉を寄せて言いました。
「どうして、私の人生ってこうなんだろう。もっと頑張らなきゃって思うのに、空回りばかりで…」
私は、カップをそっとテーブルに戻し、少し間をおいて答えました。
「それは、もしかしたら、あなたが生まれる前に書いたシナリオ通りなのかもしれないわ」
友人は首をかしげます。
「シナリオ?」
「うん。生まれる前に、どんな出会いをして、どんな出来事を経験して、いつ笑って、いつ泣くのか…ぜんぶ、自分で決めてきたっていう考え方があるの。
だから、いま目の前で起きていることも、全部“予定通り”」
「予定通り…?」
「そう。もしそうだとしたら、無理に変えようとして、気に入らないって言い続けるより、ただこう言ってみるの。
『ああ、そうなりましたか』って」
窓の外の雨が、静かに強さを増していきます。
「受け容れるとね、不思議と心が軽くなるのよ。
努力目標や達成目標を立てるのが好きなら立ててもいいけど、“必ず”って縛る必要はないの。
頼まれごとが来たら、ただそれをする──それで充分」
友人は少し笑いました。
「じゃあ、今の私の空回りも…?」
「ええ、ちゃんとシナリオに書いてある出来事。
ほら、雨もちゃんと降るべき日に降っているでしょう?」
二人で笑ったその瞬間、部屋の空気が、ふわりと柔らかくほどけていきました。