大根に安楽死を――心療内科でメジャーリーグを勧められた日
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コラム
今日は心療内科の通院日だった。
いつものように、就労支援で働いていることを話すと、先生の目がキラリと光った。
「大谷翔平って知ってる?彼はね、小さい頃から将来の計画をしっかり立てていたんだよ」
そう語りながら、なぜか話はどんどん逸れていき、最後にはこう言われた。
「君も、今からでもメジャーリーグを目指してみたらどうかな?」
……えっ、メジャー? 今から? それはまたずいぶん斜め上の選択肢だ。
そのときだった。
静かに話を聞いていた看護師さんが、スッと注射器を手に取って言った。
「これは安楽死できる薬です。今日はこれを打って帰ってください」
いや、待って。急に終わらせようとしないで?
僕は全身の血の気が引いて、なぜかその注射をひったくり、クリニックを飛び出した。
逃げるようにたどり着いたのは、近所のスーパー。
気づいたら、野菜コーナーで大根を見つめていた。
「お前が代わりに……」
そうつぶやきながら、僕はその注射を大根に打ち込んでしまった。
ああ、なんてことをしてしまったんだ。
冷蔵庫の中で静かに眠るあの大根を見るたび、罪悪感で押しつぶされそうになる。
僕は大根を殺した。しかも安楽死で。
人間として何か、大切なものを見失っている気がする。
だけど、ひとつだけわかったことがある。
心療内科って、たまにとんでもない展開になる。
そして、僕は明日も、就労支援に行く。
メジャーには行かないけど、ここで生きるために。