ナフサ誘導品の供給不安について、「ナフサを増産すればよい」という趣旨の議論が出ています。
しかし、化学品の流通実務の観点から見ると、これは単純な総量不足の問題ではなく、プロダクトアロケーションと需給調整の問題として捉えた方がよいのではないかと思います。
1. 「目詰まり」という言葉は曖昧だが、背景は理解できる
政府や関係者が使う「流通の目詰まり」という言葉は、実務的にはかなり曖昧です。
どこで、何が、なぜ詰まっているのかが見えにくくなるため、そのままでは具体的な解決策につながりにくい。
一方で、特定企業を名指しして悪者にしないための配慮として使われているのであれば、その意図自体は理解できます。
ただし、問題を解くには、「目詰まり」という言葉を、もう少し実務の言葉に分解する必要があります。
2. 「ナフサ増産」だけでは解決しにくい
ナフサそのものを増やしても、必要な誘導品が、必要なSKUで、必要な需要家に、必要なタイミングで届かなければ、現場の不足感は解消しません。
総量を増やすことと、限られた供給をSKU別・需要家別に配分することは、別の実務です。
たとえば、ある製品の供給量が限られている場合、過去の出荷実績、用途の重要性、代替可能性、季節変動、顧客ごとの在庫状況などを見ながら、どの需要家に何%供給するかを決める必要があります。
これがプロダクトアロケーションです。
この運用ができなければ、川上の総量を増やしても、必要な製品が必要なところに届くとは限りません。
3. 誘導品メーカーにはバッファー在庫が必要になる
誘導品製造メーカーは、一定のバッファー在庫を持たないと、かえって生産効率が落ちる場合があります。
多品種の化学品では、需要家単位では小さな数量でも、銘柄切替、連続生産・バッチ生産の違い、最小経済ロット、生産順序、補充リードタイムなどの制約があります。
在庫を極限まで絞ると、短期的には見かけの効率は上がるかもしれません。
しかし、供給不安時には生産計画の自由度が下がり、結果として不足するSKUが増えることがあります。
この場合の在庫は、単なる余剰ではありません。
需要変動と生産制約を吸収するためのバッファーです。
4. 川中でアロケーション実装に手間取っている可能性
巷で見えている物不足の原因は、川上の供給能力そのものよりも、川中でプロダクトアロケーション方針を受注・出荷担当のプロセスに実装するところに手間取っていることではないかと見ています。
公開されている川中企業の告知を見る限り、「前年実績を上限にする」「仮需には対応しない」「通年品は直近実績、季節品は前年同月実績を見る」といった、アロケーション方針自体は示されています。
ただし、同時に、過剰な注文や大幅な先納期での発注が受注・出荷体制の混乱を招くこと、また受注後でも出荷制限、納期変更、出荷停止をお願いする場合があることも示されています。
ここから見える仮説は、アロケーションの考え方がなかったというより、前年実績ベースの上限設定や仮需排除が、受注入力、納期回答、生産計画、在庫引当、出荷指示まで一気通貫のワークフローとして実装されていなかったのではないか、ということです。
5. 方針を決めるだけでは足りない
供給制約下では、SKU別・需要家別の配分方針を決めるだけでは足りません。
それを、受注を受ける段階でどう止めるか。
例外処理を誰が判断するか。
納期回答をどう出すか。
在庫をどう引き当てるか。
出荷指示にどう落とすか。
ここまで設計しないと、現場はすぐに詰まります。
つまり、必要なのは「ナフサを増やす」ことだけではなく、誘導品ごとの在庫設計、生産計画、受注・出荷プロセス、SKU別・需要家別アロケーションの実装です。
今回の問題は、「ナフサが足りない」というより、実需と見かけ需要の乖離をどう管理し、限られた供給をどう配分するかという問題として見た方が、実態に近いのではないかと思います。
化学品の供給不安を考えるときには、原料の総量だけでなく、川中・川下での業務プロセスまで見ないと、解決策を誤る可能性があります。