昭和48年。
上村一夫による劇画『同棲時代』が「漫画アクション」に連載され、日本中に大きな衝撃を与えた。
主人公は恋人同士の男女、今日子と次郎
結婚という制度に縛られず、共に暮らすことを選んだ若者たちである。
今では珍しくない「同棲」という言葉も、当時はまだ新鮮で刺激的な響きを持っていた。
映画化され、仲雅美と由美かおるが出演。
さらにテレビドラマでは沢田研二と梶芽衣子が主演を務めた。
主題歌となった大信田礼子の『同棲時代』もヒットし、作品は一大ブームとなった。
だが、この作品が若者たちの心を捉えた理由は、単なる恋愛物語だったからではない。
その少し前、日本中の大学では学生運動が吹き荒れていた。
「世の中を変えたい」
「新しい時代を作りたい」
そんな熱い理想を抱いた若者たちがいた。
しかし運動は次第に行き詰まり、仲間同士の対立や挫折を経験する者も少なくなかった。
大きな理想を追い求めた若者たちは、やがて街の片隅へと戻っていく。
革命よりも恋愛を。
闘争よりも安らぎを。
社会を変えることよりも、まずは傷ついた自分の心を癒してくれる相手を求めるようになった。
そんな時代の空気の中で現れたのが『同棲時代』だったのである。
主人公たちは決して裕福ではない。
未来も決して明るいわけではない。
それでも互いを必要とし、肩を寄せ合って生きていく。
その姿は、理想に敗れた若者たちにとって一つの希望だった。
「世の中は変えられなかったけれど、
せめて二人だけの小さな幸せは守りたい」
そんな想いが、作品の行間から滲み出ていた。
昭和という時代は、高度経済成長の輝きの裏で、多くの若者たちが迷い、傷つき、そして新しい生き方を探していた時代でもあった。
『同棲時代』は、そんな若者たちの心の居場所を描いた作品だったのかもしれない。