「漫画を描きたい」
そう思っているのに、今日も描けなかった。
仕事で疲れた。人間関係で消耗した。
机に向かうだけのエネルギーが残っていない。
それでも、頭の中には描きたい物語が湧いて来る。
そんな日が、1か月ではなく、1年でもなく、10年以上続いたとしたら…
私の友人Mは、ずっとそんな状態でした。
「描きたい。」
「自分の中に湧いてくる物語を形にしたい。」
「たくさんの人に読んでもらいたい。」
その気持ちはなくならないのに、
原稿を完成させられるのは数か月に一度、
長いときには半年ほど空いてしまうこともありました。
それが今では、毎月漫画を描いて発表しています。
さらに、ずっと怖くて手をつけられなかった別の作品まで描き始めています。
いったい、Mの中で何が変わったのか。
今回は、10年以上「描きたいのに描けない」と苦しんでいたMが、
毎月漫画を描けるようになるまでの話をしたいと思います。
1|描きたいのに、描けない
Mは自分の中に湧いてくる物語を漫画にするのが好きで、
20代後半から本格的に漫画を描いていました。
私は昔からMの読み切り漫画や、
まだ完結していない続き物の漫画を何作か読んでいて、
素直に面白かったし、
「続きが読みたい」と思える作品ばかりでした。
頭の中から物語が湧いてくること、
それを人が読んで面白いと思える漫画にできること、
私はそれもひとつの才能だと思っていました。
1-1|10年以上もの描けない日々
ところが、だんだん仕事や人間関係で疲弊することが増えていきました。
創作に使うエネルギーが残らない。
以前なら何ページも描けた原稿が進まない。
「漫画を完成させたい!」という気持ちだけで
乗り越えてきた苦手なペン入れも、大きな足かせになっていきました。
描きたい。
でも、描けない、描き続けられない。
それでも頭の中には、描きたいものが次々と湧いてくる。
形にしたいし、人に見てもらいたい、読んでもらいたい。
でも、描けない。
そんな日々が10年以上続いていました。
1-2|才能を活かせないなんてもったいない
私は時々、Mから下書き原稿を受け取り、
Mが苦手なペン入れやトーン貼り、仕上げをデジタルで手伝っていました。
でも、その原稿が届くのも数か月に一度、
下手をすれば半年に一度です。
仕事や人間関係が悪いわけではありません。
でも、それで疲れ果ててしまって、
本当にやりたいことができない。
せっかく頭の中に物語があるのに、
せっかく人を楽しませられる作品を描けるのに、
「このまま埋もれてしまうのは、
もったいないな……」
Mの漫画を知っている私はずっとそんなふうに感じていました
2|「何のために漫画を描いてるの?」
Mが相変わらず仕事や人間関係で苦しみながら、
なんとか創作を続けていた頃、
私はコーチングを学んでいました。
その中で「ゴール設定」という手法を知りました。
ゴール設定とは簡単にいうと、
過去に縛られず、
自分が心から行き着きたい未来を決めること。
そこで、ふと思ったんです。
Mはどこに向かって漫画を描いているんだろう?
もしかしたら、行き先が曖昧だから描き続けることが難しくなってしまってるのかも…。
2-1|Mのゴール
そこでMに聞いてみました。
「漫画を描くことのゴールってあるの?
どこを目指して描いてるの?」
Mは少し考えて答えました。
「えっと……自由に自己表現を楽しむこと、
私の作品を見た人を夢中にさせて、
楽しませてることかな」
「そうなんだ!」
そう答えながら、私は少し引っかかっていました。
自由に自己表現すること
人を夢中にさせること
どちらも素敵です。
でも、
「自由じゃないと感じたら、描けなくなってしまうのでは…?」
「人を夢中にさせる作品を作るなら、
読む人のことも考える必要がある。
それは『自由に描く』こととぶつからないのかな…?」
そんな疑問が残りました。
そして実際、この会話をしたからといって
Mが急に漫画を描けるようになったわけではありませんでした。
3|それでも、描けるようになりたかった
M自身も、
「なんとか一定のペースで漫画を描けるようになりたい」
と思っていました。
漫画制作の予定表を作ってみたり、目標を決めて計画を立ててみたり、色んな方法を試していました。
それでも手が止まってしまう。
描こうと思っているのに、描けない。
なんとか再開して、少し進む。
でも、また止まる。
そんなことを繰り返していました。
私のところにも、以前と同じようにポツポツと原稿は届いていました。
でも、毎月定期的に届くわけではありませんでした。
3-1|Mからの相談
そんなある日、Mから相談されました。
「いまいち、ゴールの設定がわからない……」
ゴール設定について度々話していた私はMに、
「ゴールとか目標って、
そんなに難しく考えなくてもいいんだよ。
未来の自分がこうなっていたら嬉しいな、
でもいいんだよ」
と伝えました。
するとMは、
「そうか……ゴールってそういうことか」
と、何か腑に落ちたようでした。
そのときは、それで会話は終わりました。
でも、しばらくしてMから一通のLINEが届きました。
「自分のやりたいことコミットしてた!」
そのLINEには一枚のメモが添えられていました。
4|「これから3年で自分を試してみたい」
メモにはこう書かれていました。
「これから3年で頭の中のストーリーをマンガ化して発表したら、
どんな可能性があるのか自分を試してみたい!!!」
そして、その下には、
「絶対面白いと喜んでもらえるものになるという
確信がある!!」
と書かれていました。
私は聞きました。
「そうしたら3年後、Mはどうなってるの?」
Mは、
「ええ!? そんなことがあったの!? という話を
いっぱいしてる人になってるの」
と答えました。
「楽しそうだね!」
4-1|更新されていたゴール
さらにMはゴールをこんな風に更新していました。
「物語やイラストを通して、世界中の人々に
勇気や希望を与え続ける人として生きている。」
私はそれを見て、
「あ、何か前のと違う」
と感じました。
以前は、
「自由に自己表現を楽しむ」
「作品を見た人を夢中にさせる」
といった、どちらかと言えば自分自身を中心にしたゴールでした。
でも今度はその枠を飛び越えていました。
更新されていたゴールは、自分が作品を通して何かをコントロールするといったものではなく、
自分が作品を生み出すということは、
その中に誰かに対する貢献が既にセットされていて、
自分は何のために描くのか?
未来の自分はどんな風に生きているのか?
誰に何を届けているのか?
漫画を描き続けた先に何があるのか?
ゴールには、それらの答えがすべて含まれているなと感じました。
そしてMは、
「描けない今の自分をどうにかする」
のではなく、
「描き続けている未来の自分なら、
今どうしてるのか?」
と考えるようになっていきました。
ここからMの行動が少しずつ変わり始めます。
5|半年に一度だった原稿が、2か月に一度になった
Mが漫画に取り組む上で基準にするようになったのは、
「頭の中にあるストーリーを漫画にして発表している3年後の自分なら、今どうしているのか?」
という考え方でした。
それまでは、漫画が完成したらSNSや公式LINEに投稿していました。
つまり、完成する日は自分次第です。
それを、
「毎月○日に投稿します」
と、自分以外の人にも予告するようになりました。
自分のペースで完成したら投稿するのではなく、
「定期的に作品を発表している人」
として行動するようになったんです。
仕事のことが気になって筆が進まないときも、
「でも、締切があるから描く」
と原稿を進める。
こんな風に、未来の自分を基準に自分で行動を選ぶようになっていきました。
すると、変化が起こりました。
下手をすれば半年に一度しか来なかった原稿が、
2か月に一度くらいのペースで届くようになったんです。
ですが、これですべて順調になったわけではありません。
むしろ描けるようになったからこそ、今までとは違う問題が出てきました。
6|「私、漫画描くの向いてないのかな」
ある日、Mからこんな相談をされました。
「家に帰っても漫画、全然描く気になれない……。
楽しくなくて……」
話を聞いていくと、
設定やプロットを考えているときは楽しい、
時間を忘れてできる。
でも、それを実際に原稿にしていく作業になると
苦しくなる。
そして何より、
自分の内側にあるものを、
作品として人に見せるのが怖い。
Mは言いました。
「これいいじゃん!って思っても、なんか恥ずかしくて、こっちにしようってなっちゃう」
「自由に描きたい!
いや、でも、しかし!って葛藤して、
自分で自分を制限しちゃう……」
そして、
「私、漫画描くの向いてないのかな……?」
と言いました。
6-1|Mの本当の悩み
私は聞きました。
「Mの悩みって、漫画が楽しく描けないこと?」
「漫画そのものが描けないこと?」
「それとも自信がないこと?」
Mは少し考えて、
「自信がないことが大きい気がする……」
と言いました。
「漫画は前より描けてるし、でも自信がないから
不安でいっぱいで……。
だから楽しく描けない」
そこで、もう一つ聞きました。
「Mは怖いのかな?」
「うん……怖い。出すのが怖い。
自分の考え、思い、趣味嗜好」
「出したあとの結果が怖いってこと?」
「否定されるかもしれないっていう恐れが、
ずっとつきまとう」
ここで初めて、Mが本当に怖がっていたものが見えてきた気がしました。
7|描けないんじゃなくて「出すのが怖い」
私はMに言いました。
「怖いのは悪くないよ」
「いいの?」
「怖いのは今まで以上に描いて、今まで以上に発信してるからだよ。
怖くて当たり前だよ」
Mは、
「描いてると怖いの?」
と聞きました。
「自分の内面を漫画にして、それだけ外に発信してるってことだよね。
それって今までのMからしたら怖くない?」
Mは、
「絶対やりたくない……」
と言いました。
でも、続けてこう言いました。
「でも創造は好き。
自由に表現して形になるのは嬉しい。
ただ出すのが怖い……。
形にするのは苦手だから(笑)、
創造して終わることが多いけど……」
そう、Mは漫画を全然描く気になれないからといって、
漫画を描くことが嫌いになったわけではありませんでした。
描きたい気持ちもある。
形になるのも嬉しい。
ただ、
自分の中にあるものを人に見せることが怖かった。
7-1|不安も怖さもあっていい
私は言いました。
「Mは3年後のゴールに向かってるんだよ。
だから怖いんだよ」
「ゴールに向かうと……怖い?」
「Mのゴールって、今までやったことないよね?」
「うん……やったことない……」
「そりゃ怖いよね。だって今までいた場所から
出ちゃってるんだから」
「ああー、そう……。まず続けるのが大変(笑)」
「でも、不安も怖さもなかったら
これまでと同じだからね。
怖くなる自分も認めてあげるといいよ」
「うん、認める」
怖くなったらやめる。
不安になったらやっぱり自分には向いていないのかもしれない…と引き返す。
以前だったら、そうなっていたかもしれません。
でも今のMには、
「物語やイラストを通して、世界中の人々に
勇気や希望を与え続ける人として生きている」
というゴールがありました。
だから、怖いけれどそれでも描く。
という選択ができるようになっていったんです。
8|そして、毎月原稿が来るようになった
このやりとりをしてから、さらに変化が起こりました。
Mから毎月原稿が届くようになったんです。
半年に一度だったものが、2か月に一度になり、
そして毎月になりました。
「毎月漫画を描いて発表する」
それが少しずつ、Mにとって特別なことではなくなっていきました。
とはいえ、
「毎月描けるようになった=毎月スイスイ描いている」
というわけではありません(笑)
今でも、私のところになかなか原稿が来ないことがあります。
「締切近いのに、○○の原稿まだ来んのやけど……」
「ごめんね!!! もうちょっと待ってね!!!」
「頼むで……」
こんなやりとりは今でもあります(笑)
でも、以前とは違います。
締切が近づいて苦しくなっても、
そこで終わらない。
なんとか描く。
完成させる。
そして、人に届ける。
その繰り返しが続くようになりました。
9|ずっと怖くて描けなかった、もう一つの作品
毎月漫画を完成させられるようになって少し経った頃、さらにもう一つ変化がありました。
Mには、頭の中でずっと温めていた別の作品がありました。
何年も温めてきた分、思い入れが強くなりすぎてしまい、
「表に出すのが怖い…」
と、なかなか取りかかれずにいました。
でもMは、「この作品も表現していきたい!」と
思うようになりました。
不安もある。
怖さもある。
それでも描き始めました。
今では、一つ目の作品を毎月制作してSNSや
公式LINE、投稿サイトなどで発表しています。
さらに二つ目の作品も、公式LINEに登録してくれている人たちに向けて隔月で発表しています。
このペースが、半年以上続いています。
10|描き続けた先で「待ってくれる人」が現れた
そしてもう一つ、Mが漫画を描き続けたことで少しずつ変わっていったものがあります。
読者の反応です。
「作品の感想をもらえた!」
「応援のメッセージが来た!」
と、Mから嬉しそうな報告を受けることが増えていきました。
オリジナル作品、いわゆる一次創作はそもそも
作品を読んでもらうところから簡単ではありません。
自分の作品そのものを名刺のようにして、
「私はこういうものを描いています」と地道に
知ってもらうところから始まります。
Mも最初は反応が薄いことがありました。
それでも、毎月作品を届け続けました。
すると少しずつ、
「あ、この人はちゃんと作品を読んでくれている」
と分かる感想が届くようになりました。
10-1|着実に読者に届いているMの作品
そしてある時、
「M様の作品のおかげで毎日頑張れています」
というコメントまで届いたそうです。
予定していた日に漫画を発表できず、
「申し訳ありません。少し遅れます」
と伝えたときには、
「大丈夫ですよ」
とメッセージをもらうこともあるそうです。
それを聞いたとき、
「ああ、ちゃんと待ってくれている人がいるんだな」
と思いました。
自分の作品を待ってくれる人がいる。
読んで、何かを感じてくれる人がいる。
10年以上「描きたいのに描けない」と苦しんでいたMに、
「自分の作品を待ってくれている人」ができたんです。
11|10年以上描けなかったMは、今月も描いている
そして現在も漫画の投稿は続いています。
今月分の原稿も、私のところに届き始めています。
相変わらず試行錯誤しています。
締切ギリギリになることもあります。
怖さが完全になくなったわけでもありません。
でもMは今月も描いています。
そして実際に、
「作品のおかげで毎日頑張れています」
と言ってくれる人が現れました。
Mがあの日書いた、
「物語やイラストを通して、世界中の人々に
勇気や希望を与え続ける人として生きている。」
というゴール。
あの日は、まだ未来の話でした。
でも今は、その未来がほんの少しずつ現実になり始めているように私は感じています。
12|もし、あなたにも描けない物語があるなら
あなたの頭の中にもずっと湧いて来るストーリーがありますか?
漫画で表現したい世界はありますか?
「描きたい」
と思っているのに、
仕事で疲れてしまう。
人間関係で消耗してしまう。
机に座れない。
途中まで描いて止まってしまう。
人に見せるのが怖い。
そんな状態が続いているかもしれません。
もしそうなら、
「どうしたらもっと頑張れるだろう?」
と、考えるのではなく
「私は、描き続けた先で
どんな人になっていたいんだろう?」
と考えてみてください。
どんな作品を作っているのか?
誰がそれを読んでいるのか?
その人に何を届けているのか?
そのときの自分はどんな毎日を送っているのか?
答えは途中で変わってもいいし、
そもそも完璧なゴールなんてものはありません。
Mのゴールも変わりましたよね。
毎日進んでいく中で、変わって当然だし変わって良いんです。
たとえそれが、とりあえずのゴールであったとしても、
「どんな未来に向かって描いているのか」
が見えると、今日の一枚を描く意味が少し変わるかもしれません。
10年以上「描きたいのに描けない」と苦しんでいたMは、締切ギリギリでも今月も描いています。
そしてその作品を、今月も待っている人がいます。
もし、あなたの中にもまだ形になっていない物語があるなら、
その物語を待っている未来の読者に向けて、
まずは今日、ほんの少しだけでも描いてみてください。
その日々が自然と当たり前になって、
そう遠くない未来にあなたの作品が沢山の人に届くことを応援しています。