全編にあるように私はこの日まで、仕事に人生を捧げてきました。
朝から夜まで働き詰めで、「成果こそが自分の価値だ」と信じていました。
そんなある日、入社したばかりの若い女性社員を指導することになりました。私は彼女の成長を願うあまり、つい厳しい口調で叱ったところ、彼女は困ったような表情で涙をこぼしたのです。
その瞬間、胸の奥に理由はわかりませんでしたが小さな違和感が残りました。
後日、彼女のSNSを見て驚きました。共働きで貯金もあるためか、夏にはハワイへ旅行に行き、笑顔で人生を楽しんでいたのです。
一方の私は、次々と難しい案件を任され、深夜まで残業の日々を送っていました。そして、部下を叱責する地獄のルーティン・・・
家族を養うために働き続け、夏休みといえば慌ただしい格安宿の一泊旅行。
気づけば、自分の「人生の時間」をすべて仕事に奪われていました。
そんな折、目標としていた58歳の上司が「退職を前にして貯金が160万円しかない。すべて息子や娘に使った」と漏らしたのです。
その言葉が、私の心を深く突き刺しました。
——このままで本当にいいのか?自分に待っているのは、スーパーの特売をひたすら待つ老いた下賤な老後でなのではないか?楽しみは若者を叱責するだけというよくいる老害になってしまうのではないか?
そんな思いが心の底から湧き上がってきたのです。
あのとき泣かせてしまった彼女から、私は大切なことを学びました。
「働くこと」と「生きること」は、同じではない。
人生は“頑張ること”と、“味わうこと”のバランスの中にこそあるのかもしれないと思い始めました。
その日、私は初めて会社の方針に背いて副業の本を買って帰宅路についたのです。