ノラ・ジョーンズは「Don't know why」で知ったクチである。
柔らかいサウンドとメロディ、そして耳元で囁くようなノラ・ジョーンズの声。
シンプルにいい曲だなあ、と思ったが、その時はまだノラ・ジョーンズがその後、おれにとって特別好きなシンガーになるなんて思っていなかった。
ちょっと飛び抜けて凄い、と思ったのは次のアルバムである。
Sunrise。カントリーでもジャズでもブルースでもない、不思議なサウンド。
優しいのに、孤独を感じるメロディ。変わった音だ、とその時初めて思った。
その頃だったかなあ。友達に「好きなタイプはどんな人」と聞かれたおれは「ノラ・ジョーンズみたいな人」と答えた。いい加減に目を覚ませ、と突っ込まれたが、ノラ・ジョーンズは理想だった。優しくて、チャーミングで、孤独。何か薄いヴェールのようなものが彼女を包んでいて、その奥に踏み込むには「決して彼女を損なったり傷つけたりしてはいけない」という使命をもって望まなければいけないような印象があった。
長い間、ノラ・ジョーンズはおれの理想の女性だった。今でも勿論、彼女が紡ぎ出すロマンティックな物語が好きだ。
柔らかい灯りと密度の高い空気が創り出す部屋に彼女はいる。おれはその部屋に帰ってくると、とても心地よい音楽のように彼女の柔らかな声が迎えてくれる。
そして「Those sweet words」は外の世界で毛羽立ってしまったおれの感情を優しく撫で、安らぎを与えてくれるのである。
どうやら、目は覚めていないようだ。