育児に悩んでいる方に、一冊だけ勧めるなら|松居和『ママがいい!』

育児に悩んでいる方に、一冊だけ勧めるなら|松居和『ママがいい!』

記事
学び
「育児」と「教育」は、別のものとして語られます。

育児は0歳から就学前。ミルク、寝かしつけ、イヤイヤ期。
教育は小学校から。勉強、成績、受験。

でも、本当に別のものでしょうか。

その問いに、正面から答えている本があります。

どんな本か
松居和(まつい かず)『ママがいい! 母子分離に拍車をかける保育政策のゆくえ』(グッドブックス)

著者の松居和さんは、音楽家・作家です。そして——

短期大学の保育科講師

埼玉県の教育委員長

保育の現場と、教育行政の両方を、内側から見てきた人です。

だからこの本は、机上の理屈ではありません。保育現場の声、親の葛藤、そして子どもの力によって親心が回復していく過程が記録されています。

タイトルは感情的に見えますが、中身は保育政策への批評です。

本が言っていること(3つ)
① 0・1・2歳にとって、母親は「世界のすべて」
まだ言葉を持たない子どもが、全身で「ママがいい」と訴える。

それは、わがままでも甘えでもない。その子にとって、それが世界の全部だから。

② それなのに、政策は逆を向いている
保育の標準時間は、11時間へ

0歳から預けよ、と言わんばかりの政策

母子が離れている時間が、制度によって長くなり続けている、という指摘です。

③ 奪われているのは、子どもだけではない
ここが、この本の核心です。

保護者から、「親として育つ機会」を奪っている。

人は、子どもを産んだ瞬間に親になるわけではありません。

夜中に何度も起こされ、泣き止まない理由が分からず、予定が全部崩れる。それでも、笑った顔ひとつで許してしまう。その繰り返しの中で、少しずつ親になっていきます。

「親心」は、生まれつきではなく、子どもとの時間の中で育つ。

だとすれば、離れている時間が長くなるということは、親から「親になる時間」を奪っているということです。

そしてもう一点、本は保育のビジネス化にも警鐘を鳴らしています。預ける時間が長くなるほど、市場は大きくなるからです。

育児中の方以外にも、読んでほしい本です
この本が扱っているのは、教育のいちばん下の層です。

だから育児の真っ最中の方はもちろん、もう子どもが大きくなった親にも、教育に関わる人にも読む価値があります。

ここから先は、私の主張です
この本を踏まえて、私が言いたいことを書きます。

育児と、教育は、地続きです
世の中では、この2つが分けて語られています。

育児 … 0歳から就学前。ミルク、寝かしつけ、イヤイヤ期

教育 … 小学校から。勉強、成績、受験

別の話のように扱われています。でも、まったく地続きです。

育児でやっていることは、教育の基礎工事です。そして基礎工事が終わっていない土地に、建物は建ちません。

教育は、知育・徳育・体育の3つ
これは私の持論ではなく、教育基本法 第2条にそう書かれています。

幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと

知育 … 学力

徳育 … 人としての在り方

体育 … 心身の健康

文部科学省も、これを「生きる力」=「知・徳・体のバランスの取れた育成」と呼んでいます。

その3本は、何の上に立っているのか
愛着です。

自分は大切にされている、という感覚がある

だから、人を大切にできる(徳育)

だから、決まりを守れる(徳育)

だから、つらいときに踏みとどまれる(徳育・体育)

だから、失敗しても、もう一度やってみようと思える(知育)

思いやりも、誠実さも、自制心も、粘り強さも、この土台の上にしか育ちません。

0・1・2歳は、その土台を作っている時期です。 何かを教え込む時期ではありません。ただ、そばにいる時期です。

そして3歳から先、その土台の上に、知育・徳育・体育が乗っていきます。

つまり、こういう順番です
0〜2歳 愛着(土台をつくる)
   ↓
3歳〜 徳育(挨拶・返事・約束・靴をそろえる)
   ↓ 体育(早寝早起き・朝ごはん・体を動かす)
   ↓
学齢期 知育(その上に、学力が積み上がる)

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逆順にはできません。

土台がないまま学力だけ積もうとしても、崩れます。学齢期に表面化する問題は、たいていそれです。

どんな方に勧めるか
これから子どもを持つ方(いちばん効きます)

0〜3歳の子を育てている方

子育てが一段落して、いま子どもとの関係に悩んでいる方

保育・教育に関わっている方

保育政策や少子化を、子どもの側から考えてみたい方

逆に、「今日から使えるテクニックが欲しい」という方には向きません。そういう本ではありません。

最後に
「ママがいい!」という言葉は、世界でいちばん短い、教育に関する要求なのだと思います。

その声を、仕方がないものとして処理するのか。
それとも、社会の側がおかしいのではないかと問い続けるのか。

そして、いま自分の子どもの土台に、何を積んでいるのか。

教育は、知育・徳育・体育の3つです。
そして育児は、その3つを乗せるための、土台づくりです。

一冊読むだけで、その順番が見えてきます。

紹介した本

松居和『ママがいい! 母子分離に拍車をかける保育政策のゆくえ』グッドブックス

参考

教育基本法 第2条(教育の目標)

文部科学省「生きる力」(知・徳・体のバランスの取れた育成)
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