「旅行が好きです」と聞いたら、その人にはどんな強みがあると思いますか。
好奇心がある。行動力がある。計画性がある。そんな言葉が浮かぶかもしれません。けれど、「旅行が好き」という情報だけでは、その人の持ち味はまだ分かりません。
初めて見る景色に出会った時が楽しい人もいれば、一緒に行った人の笑顔が何よりうれしい人もいます。自分で考えた計画がうまくつながることに喜びを感じる人もいれば、予定になかった出会いや出来事ほど記憶に残る人もいます。
同じ旅行好きでも、心が動いている対象はそれぞれ違います。その違いを丁寧に見ていくと、普段は気づいていない仕事の強みの手がかりが見えてきます。
強みを「できること」だけで捉えない
私は、働くうえでの強みを、単に「何ができるか」だけでは捉えていません。過去の具体的な経験から、次の3つを見ていきます。
「喜び」は、何をしていると心が動き、自然とエネルギーが湧くのか。「得意」は、深く考え込まなくても自然に行い、周囲に価値を生み出していること。「意義」は、誰や何のためなら、自分の力を使いたいと思えるのかです。
今回は、このうち「喜び」に注目します。
楽しいと感じたことが、そのまま強みになるわけではありません。ただし、旅行で見られた喜び方が、仕事や家事、学生時代、趣味などでも繰り返されているなら、そこには自分が自然と力を使いやすい方向が表れている可能性があります。
旅行中、あなたの心が特に動くのはどんな瞬間でしょうか。
1.知らない景色や文化に出会った時が楽しい
初めて訪れる街を歩く。見たことのない建物や風景に出会う。その土地の文化や暮らしを知る。ガイドブックで読んでいた情報が、目の前の景色とつながる。
こうした瞬間に強く心が動く人は、未知のものに触れ、自分の世界が広がっていくことに喜びを感じているのかもしれません。
同じ喜び方が別の経験にも現れているなら、仕事でも、新しい情報を調べること、初めて扱うテーマを理解すること、まだ形になっていない企画を考えることに面白さを感じる可能性があります。経験のない領域でも、まず調べ、理解し、自分なりの見方をつくることに自然と力を使える人です。
反対に、答えも手順も決まった作業だけが長く続く環境では、能力の問題ではなく、心が動く機会が少ないために意欲が下がることがあります。
大切なのは、「旅行が好きだから好奇心が強い」とラベルをつけて終わらないことです。仕事や日常でも、知らないことを理解する場面で自然と集中していなかったかを振り返ると、その人らしい力の使い方が見えてきます。
2.一緒に行った人が喜んでくれた時がうれし
自分が行きたかった場所へ行けたことよりも、同行した人が「楽しかった」「来てよかった」と笑ってくれたことの方が印象に残る。相手の好みに合わせて行き先を調べたり、疲れない順番を考えたりすることも苦にならない。
この場合、心が動いているのは、自分が何を体験したか以上に、相手がよい状態になったことです。
この喜び方が仕事や日常でも繰り返されているなら、相手が安心して進めるよう事前に準備する、人が喜ぶ体験を考える、初めて来た人が困らないように迎えるといった場面で、持ち味が発揮される可能性があります。
本人は「相手に合わせただけ」と考えがちですが、実際には相手の様子を見ながら、必要なものを想像し、過ごしやすい環境をつくっています。それは、誰にでも同じようにできることとは限りません。
ただし、相手の喜びを優先し続けると、自分の希望や疲れに気づきにくくなることがあります。旅行でも仕事でも、「相手が満足するなら」と引き受けすぎてしまう人は、自分が本当はどうしたいのかを確認する時間が必要です。
相手を大切にできることと、自分を後回しにすることは同じではありません。持ち味を長く使うためにも、自分の希望に立ち返ることが大切です。
3.自分で組んだ計画が実現した時が気持ちいい
限られた日数の中で、行きたい場所をどう回るか。移動時間、営業時間、予算、同行者の希望を考えながら予定を組む。そして、考えていた流れがうまくつながり、行きたい場所を予定どおり回れた時に大きな満足を感じる。
この人が喜んでいるのは、単に「予定どおりだった」ということだけではありません。複数の条件を組み合わせて考えた流れが、現実のものになったことに心が動いています。
同じ傾向が仕事にも現れるなら、段取りをつくる、複数の予定を組み合わせる、進捗を見ながら調整する、限られた条件の中で実現方法を考えることを楽しめる可能性があります。
周囲からは「計画性がある人」と見えるかもしれませんが、その一言だけでは十分ではありません。どのような条件を整理し、何を優先し、どう実現へつなげているのかまで見ていくことで、仕事で使える持ち味になります。
この喜び方にも、使いすぎた時のつまずきがあります。計画を実現することに集中するあまり、途中で目的や状況が変わっても、最初に決めた予定を手放しにくくなることです。
本来は楽しく過ごすための計画だったのに、予定を守ることが目的になってしまう。仕事でも同じように、状況が変わった時には「計画どおり進めること」と「今の目的に合うこと」を分けて考える必要があります。
4.予定になかった出会いや展開が一番記憶に残る
偶然入った店が思いのほかよかった。道に迷ったことで、予定していなかった景色に出会えた。現地の人との会話から、その日の行き先が変わった。
旅行を振り返った時、こうした予定外の出来事が一番心に残っている人もいます。
この人が喜びを感じているのは、最初に想定していたとおりに進むことよりも、その場から新しい展開が生まれることです。
同じ傾向が別の経験にも見られるなら、仕事でも、その場で相手に合わせる、決まっていない状況から展開をつくる、予想外の情報を拾って方向を変えるといった場面で力を発揮する可能性があります。
準備不足なのではなく、状況を見ながら、今ある材料から次の一手を考えることに喜びを感じる人です。初対面の相手との会話や、答えの決まっていない相談、変化の多い場面で自然と集中できることもあります。
反対に、手順が細かく固定され、予定外の工夫がほとんど認められない環境では、窮屈さを感じるかもしれません。また、偶然の展開を楽しむあまり、事前に決めておくべきことまで後回しにすると、周囲を不安にさせる可能性もあります。
即興性が力になる場面と、準備が必要な場面を分けて考えることで、この持ち味はより活かしやすくなります。
旅行だけで、自分の強みを決めない
ここまで紹介した4つは、人を分類するための診断ではありません。複数の喜び方を持つ人もいますし、同じ人でも、旅行の目的や同行者によって楽しみ方は変わります。
一度の旅行で「自分はこのタイプだ」と決める必要もありません。
大切なのは、旅行で見られた喜び方が、別の経験でも繰り返されているかを確かめることです。
知らない景色に出会うことが好きな人は、仕事でも新しい分野を調べる時に夢中になっていなかったでしょうか。一緒に行った人の喜びがうれしい人は、家庭や地域活動でも、誰かが過ごしやすいように自然と準備していなかったでしょうか。
計画が実現することが好きな人は、学生時代の行事や日々の家事でも、複数の条件を組み合わせて段取りをつくっていなかったか。予定外の展開を楽しむ人は、仕事でも相手の反応を見ながら、その場で進め方を変えていなかったか。
異なる経験に同じ喜び方が繰り返し現れているなら、そこには自分が自然と力を使いやすい方向が表れている可能性があります。
強みを知ることと、強みを仕事で使える形まで理解することは違います。「好奇心がある」「人のために動ける」「計画性がある」「柔軟性がある」という言葉を得るだけでは、自分をどう活かせばよいのかまでは分かりません。
どんな場面で心が動き、そこで何を自然に行い、周囲にどんな変化を生んでいるのか。どんな環境では力を発揮しやすく、どんな時に使いすぎて苦しくなるのか。
そこまで具体的に見ていくことで、何気ない経験が、自分の持ち味を理解するための材料に変わります。
あなたが「また行きたい」と強く思った旅行では、どの瞬間が一番心に残っているでしょうか。
知らない世界に触れた時でしょうか。誰かが喜んでくれた時でしょうか。考えていた計画が形になった時か、それとも、予定になかった出来事が生まれた時でしょうか。
その時に感じていた喜びは、旅行以外のどんな場面にも現れていますか。
そこに、まだ自分では強みだと思っていない「働くあなた」の持ち味が隠れているかもしれません。
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