AIが勝てるゲームと勝てないゲーム

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「AIが有名プロ棋士に勝利した」「AIが囲碁でプロを圧倒した」などAIがゲームのプロに勝ったということをたびたび目にします。

こうしてみると「AIはどんどん進化していて、人間を圧倒するようになったのだな」と思いますが果たして本当にそうなのでしょうか。実際にAIが勝ったゲームを調べてみると、意外と偏りがあり、人間に圧倒できたとは言い切れません。

どういったゲームならAIは勝ち、逆にどのようなゲームならAIは勝てないのでしょうか。考えてみました。

(1)AIが勝てるゲームの条件

実はAIが得意としているゲームには条件があります。AIが得意とするゲームは「二人零和有限確定完全情報ゲーム」ことです。二人零和有限確定完全情報ゲームとは以下の条件が成り立つゲームをさします。
1.1対1である
2.自分が有利になると相手が不利になる関係が成り立つ
3.自分の番と 相手の番が決まっていて、混合しない
4.ランダム要素がない
5.全ての情報がプレイヤーに公開される

一つ一つの条件を見ていきましょう。
1.1対1である
ゲームに参加できるのが自分と対戦相手の2名だけであることを指します。対戦相手が1人だけだと、相手が何をしてくるのかが読みやすくなり、自分がどうすればいいのかもわかりやすくなります。AIとしても状況を計算しやすくなることから、1対1になればAIが有利です。

逆に多人数で行うゲームの場合はAIにとっては不利な環境です。多人数の場合は、すべての対戦相手の動きを読み、かつすべての相手を上回る必要があることから、計算処理が膨大かつ複雑になり不利とされています。

多人数だとプレイヤー間の利害関係が発生するのも見逃せません。多人数のゲームの場合、利害が一致したプレイヤーでチームを組むことがあり、さらにゲームの途中で利害が変わって敵味方が入れ替わることもあります。AIが多人数のゲームをする場合は、そうしたゲーム以外の出来事も計算に入れなければいけません。

敵味方の発生はゲームではなく人間心理であり、心理の分析はAIが苦手とするため、多人数のゲームは苦手としています。


2.自分が有利になると相手が不利になる関係が成り立つ
「自分が駒を取れば相手は駒を失い不利になる」、「自分が陣地を制圧すれば、相手の陣地が減って不利になる」など自分が有利になれば確実に相手が不利になるゲームはAIが得意としています。

理由は「相手が嫌がることをしていればいずれ勝てる」ためです。こうしたゲームの場合、相手が嫌がることをひたすら繰り返していけば、相手の立場は徐々に不利な方向へいき、最終的に自分が勝てるようになります。いいかえればAIの方向性を「相手の嫌がることをする」のみに集中させればよいのです。

AIがもつ膨大な計算処理能力をすべて「相手が嫌がることをする」に向けられることから、開発者としても作りやすくAIとしても力を発揮しやすくなります。

逆に「自分が有利になると相手も有利になる」ような関係ができるゲームはAIが不得手なゲームです。1対1のゲームではあまりありませんが、多人数のゲームの場合、トップの相手に自分が勝つとほかの人もトップとの差が縮まるなど「自分が有利になると相手も有利になる」ような関係がしばし成り立ちます。

そうした関係が成り立つゲームの場合、ただひたすら相手の嫌がることだけしていても勝てません。「自分の選択によって相手も有利になり、有利になったことも踏まえて自分が勝っていく」などのかなり複雑な処理をしていく必要があるからです。


3.自分の番と 相手の番が決まっていて、混合しない
ゲームには「自分の番では相手が何もしてこない」タイプと「自分の番に相手が介入してくる」タイプの2つが存在しています。AIが強いのは前者の「自分の番では相手が何もしてこない」タイプです。

理由は選択がシンプルになるからです。「自分の番では相手が何もしてこない」タイプの場合、自分の番で行うべきことと相手がしてくることだけを決めればよいので、判断がシンプルになります。判断要素が少なくなることから、AIとしても適切な判断がおこないやすくなるのです。

逆にAIが苦手なゲームは「自分の番に相手が介入してくる」タイプのゲームです。「自分の番だけど相手が介入してくる」タイプの場合は、様々なことを踏まえなければいけません。

自分の番であれば自分のことだけでなく「相手が何をしてくるのか」まで考える必要があり、逆に相手の番であれば相手の行動だけでなく「相手の行動に合わせて自分は何をするのか」を考える必要があります。

1回だけならまだしも10回20回もそうしたことが繰り返されると、展開はかなり複雑となります。結果として計算処理や判断処理も複雑にしなければいけないため、「自分の番だけど相手が介入してくる」タイプはAIが苦手としているのです。


4.ランダム要素がない
「ランダム要素がない」ゲームはAIが得意とするゲームです。ゲームの中には相手がもっているものや出てくるものが決められていて、ランダム要素のないタイプがあります。ランダム要素のないゲームでは数手先の展開まで読みやすいことから、AIとしても圧倒的なアドバンテージが取得できます。

逆にランダム要素があるゲームはどうでしょうか。ランダム要素があるゲームはAIとしても苦手です。ランダム要素とは相手だけでなく自分にも当てはまります。AIには数手先まで計算できますが、ランダム要素があるゲームの場合、順番を重ねるごとに相手のランダム要素と自分のランダム要素が重なっていくため、AIとしても正確な計算ができません。

そのためランダム要素の多いゲームは展開が読みにくく苦手としています。


5.全ての情報がプレイヤー間で公開される
相手の情報のみならず自分の情報もすべて公開されているゲームはAIが得意とするゲームです。相手の動きを読んだり、二手三手先を読んだりするのは勝つための鉄則です。すべての情報が公開されると相手の動きや先の展開も読みやすくなります。

AIのメリットは膨大な計算を一挙に行えることです。すべての情報が公開されていると、AIとしても計算しやすくなり、人間には考えられないような先の展開まで読めるようになります。

逆にプレイヤー間で情報が隠されている場合はどうなるでしょうか?
情報が隠れているゲームの場合は先の展開を読めないため、その場の状況だけを読んで対応を繰り返す傾向にあります。

そうした傾向はAIも例外ではありません。公開されていない情報はAIをしてもみれないため、人間と同じくその場の状況だけで今打つ手を判断します。

公開されない情報が増えるほど適切な選択肢がわからなくなることから、人間もAIも同じやり方でゲームをしていくことになります。

(2)将棋や囲碁ならばAIは勝てる

AIが得意とするゲームの条件が判明しましたので、改めて本題に入りましょう。実際にAIが得意とするゲームにはどういったものがあるのでしょうか?

AIが得意とするのは将棋や囲碁といったゲームです。理由は「二人零和有限確定完全情報ゲーム」の条件にすべて合致するからです。

ここでは将棋を使って考えてみます。

1.1対1である
将棋や囲碁は必ず1対1であり、複数人が一挙に対戦することはありません。

2.自分が有利になると相手が不利になる関係が成り立つ
王手をかける、陣地を制圧するなど明確な目標があり相手を不利にしていくことで自分がドンドン有利となっていきます。言い換えれば、「相手のいやなことを繰り返せば自分の勝利なる」という関係が成立しているといえます。

3.自分の番と 相手の番が決まっていて、混合しない
将棋であれば自分の番で動かせるのは自分の駒だけであり、相手の駒を動かすことはできません。相手の場合も同じであることから「自分の番と相手の番が明確に分かれている」という関係が成り立ちます。

4.ランダム要素がない
将棋の駒である香車(きょうしゃ)であれば「前方にしか進めず」「成駒になると金将と同じ動きになる」という明確なルールがあり、例外は一切ありません。駒の動きからわかるように、すべてにおいて明確なルールが決まっていてランダム要素は発生しないようになっています。

5.全ての情報がプレイヤーに公開される
自分の駒は「桂馬(けいま)が2つ」、「銀将が2つ」、「飛車が1つ」など決められており、自分がとった駒なども公開されることから、ゲーム内におけるすべての情報が公開されています。

以上のように将棋は「二人零和有限確定完全情報ゲーム」の条件をすべて満たしています。(以後は取り上げませんでしたが、条件を満たしているのは同じです。)そのためゲームの仕組みそのものがAIの味方をしているともいえます。

「AIがプロ棋士に勝った」という賢伝がたびたびおこなわるのも、AIが有利なゲームであることから、開発者としても取り組みやすいという事情があるのかもしれません。

(3)AIはトレーディングカードゲームでは勝てない

ではAIが勝てないゲームには何があるのでしょうか。AIが勝てないゲームとして紹介したいのが「トレーディングカードゲーム」です。

AIが有利になるゲームは「二人零和有限確定完全情報ゲーム」ですが、トレーディングカードゲームは「二人零和有限確定完全情報ゲーム」の条件をほとんど満たしていません。そのためAIが不利なゲームとなっています。

ではどれくらい「二人零和有限確定完全情報ゲーム」の条件を満たしていないのか見てみましょう。

1.1対1である
公式の大会は1対1が原則なので、この条件は満たしています。ただしトレーディングカードゲームは「1対1」が基本なだけであり、多人数が一挙にやることも可能です。
実際にタッグバトルやバトルロワイアル形式のバトルもおこなわられており、1対1で有効な思考パターンが通じないことがしばしばあります。

2.自分が有利になると相手が不利になる関係が成り立つ
基本的に当てはまるのですが、トレーディングカードゲームの場合「自分が有利になると相手も有利になる関係」がときどき成り立ちます。これはデッキの構成によるものです。

たとえば自分のデッキが「相手をひたすら攻撃するタイプ」で相手のデッキが「墓地にモンスター(クリーチャー)がたまるほど強くなる」であったらどうなるでしょうか。自分が相手を攻撃し多くのモンスター(クリーチャー)を撃破すれば自分は有利になりますが、相手としても墓地にモンスター(クリーチャー)がたまるため有利になっていきます。

AIとしても最適な行動をしているはずなのに、結果として相手を助けていることになればたまったものじゃありません。

3.自分の番と 相手の番が決まっていて、混合しない
「相手のターンに自分が介入して妨害する」のは、トレーディングカードゲームの王道です。カードには罠系のものがあり、相手の番であっても条件を満たせば強制的に発動します。

また「自分が出したカードが相手に影響を与える」タイプのカードがあるのも見逃せません。永続的に存在するタイプのカードであり、相手の番になったら手札を捨てさせたりライフポイントを減らしたりすることがあります。

相手と自分が介入できる要素が増えれば増えるほど多くの事象を考慮しなければいけません。いくら膨大な計算能力を持つAIといえど対処できない事態に遭遇するようになります。

4.ランダム要素がない
トレーディングカードゲームにはランダム要素がたくさんあります。まずは手札。開始時に指定の枚数をデッキからとるのですが、どのカードが得られるのかは引くまで全く分かりません。

デッキの相性もまたランダム要素です。「攻撃重視のタイプは罠を設置するタイプに弱い」や「罠を設置するタイプは間接的にダメージを与えるタイプに弱い」などデッキには相性が存在しています。

AIが現行のカードで最適なデッキを組んだとしても、組んだデッキと相性の良いデッキを組んだ人が対戦相手になれば、不利な状況に陥り負ける可能性があります。

トレーディングカードゲームはカードの種類が1000種類を超えるケースがあり、保有している効果も千差万別です。そのためすべての状況に対応できるデッキというのは存在せず、高度な計算処理をもつAIをもってしても、最強のデッキは作れません。

5.全ての情報がプレイヤーに公開される
「相手がどう来るかわからないことを踏まえて戦術を構築する」のがトレーディングカードゲームの醍醐味です。そのためトレーディングカードゲームではデッキの内容や手札が公開されておらず、見えない状況の中で選択をしていくことになります。

「AIも自分の手札から最適な選択をすればいいのでは」と思う方もいるでしょう。ですがAIの優れたところは「膨大な計算処理によって人間では考えられないような先の展開も見据える」ことです。

情報が公開されないとAIは人間では考えられないような先の展開が構築できず、人間と同じようにその場に合わせた対応しかできません。人間と同じ考えしかできなければAIは人間に勝つことはできず、自らの優位性も示せなくなります。

以上の理由から、AIはトレーディングカードゲームで人間に勝つことはできないのです。

(4)トレーディングカードゲームに優れたAIが出ない事情

上の説明では「AIはトレーディングカードゲームだと人間には勝てない」としましたが、厳密にいうと「AIはトレーディングカードゲームだと人間には100%勝てない」なことには気を付けてください。

AIでも人間にトレーディングカードゲームで勝つことは可能です。ですが確実ではなく10回中5回ないし4回~6回はAIが人間に負けてしまうでしょう。そのためAIが人間に劣るというよりは「トレーディングカードゲームになると人間もAIも大差ない」というのが正しいのかもしれません。

実は100%勝てないことこそ、トレーディングカードゲームに優れたAIが出てこない理由になります。

今度はAIの開発者の立場で考えてみましょう。AI開発者としては予算を得るため、優れたAIが作れたことを示さないと消えません。AIが優れてることを証明する方法として最も簡単なのは「強い人を倒す」こと単です。ただしただ倒すだけで不十分で、勝率も高くなくてはいけません。50%は当然ダメですから、100%ないし80%の勝率が求められます。

優れた人を100%ないし80%の勝率で勝つには環境選びが重要です。ここで目を付けたのが囲碁や将棋。囲碁や将棋は知名度もそれなりにあり、AIが有利となる環境が整っています。そうした事情から将棋や囲碁に強いAIが続々と誕生したのです。

逆にトレーディングカードゲームはどうでしょうか。知名度はあるものの、トレーディングカードゲームはAIが有利になる環境が全くと言っていいほどありません。当然ながら勝率も50%ほどしか得られないことになり、優れたAIがあったとしても客観的に優れていることを証明できなくなります。

優れたAIであることが証明できないと、予算がストップされたり開発部署が閉鎖されたりといった事態に陥る場合があるかもしれません。AI開発者から見るとトレーディングカードゲームは危険な市場であり、そうした事情でトレーディングカードゲームに介入してこないのです。

まとめ

AIは進化しており、囲碁や将棋において人間であるプロたちに勝てるようになってきました。ですが少し見方を変えると「AIがプロに勝てたのはもともと有利な環境であった」ことが否めません。

しかもゲームによってはAIが全く進出していないジャンルもあるため、AIが人間を超えたと考えるのは早計です。AIが今後も人間に勝ったというニュースは流れてくると思いますので、今回紹介した観点からゲームとAIを分析すると別の見方ができるかもしれません。


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