秘密の場所 Ⅴ
引っ越しの準備は着々と進み、私は新しい学校に転校することになった。父は大切にしていた書籍を処分するという。「なぜ?捨てちゃうの?」父は微笑みながら言った「パパはね、中学しか出ていないんだ。漢字もほぼ読めなかった だから、友人から沢山の本を貰っては読んで勉強したんだよ。」そういう事か・・・納得がいった。そして父は続けてこう言った「(情けは人の為にならず)これがパパの信念だよ。意味が分かるかい?」「んと・・人に情けをかけるとその人の為にならないって事?」父は声をあげて笑った。「それは正解じゃないよ。人が困っている時、どんな形でもその人が前に進めるように助けてあげる。自分のできる範囲でね。そうすることによって、今度は自分が困っている時 自然と助けられる。守られていくんだ。月穂、その言葉を頭のタンスに入れておきなさい」「頭のタンス・・」ドキッとした。この事は誰にも話していないのに・・我が家は決して裕福ではなかった。4人兄弟・そして病気がちな私の治療代焼肉と言えば、鶏むね肉とこんにゃくが主役。それでも、クリスマスになると沢山の人がケーキを届けてくれる。父や母の友人たちだ。当時はバタークリームが主流で、苦手な私はバタークリームだけ残して中のスポンジだけ食べた。しかも届く個数は、毎年ホールケーキが5~6個クリスマス時期のおやつはケーキになったことは言うまでもない・・何故届くのか・・・父の言っていた言葉が頭に浮かんだ。みんな、父と母に何らかの形で助けられ感謝の気持ちで届けてくれるのかな。子供心にそう確信していた。おばあさんとの別れが近づくにつれ、私の心は落ち着かなかった。1日に何度もあの場所に
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