【第二十二話】釜石という港
郷土史を読み進めていくと、銀蔵の仕事についてもう少し詳しい記述がありました。船大工として造った船のことです。その説明の中に、船がよく寄港していた港の名前がいくつか書かれていました。その中に、見覚えのある地名がありました。釜石思わず手が止まりました。小田原から釜石。地図を思い浮かべると、かなり遠い場所です。「こんな遠くまで?」そう思いました。さらに読み進めていくと、その理由が少し見えてきました。当時、小田原の漁師たちが釜石に滞在して漁をしていたことがあったというのです。この郷土史には、当時の漁師町の暮らしや祭り、子どもたちの様子なども細かく書かれていました。地元の人たちが公民館でまとめた郷土史でした。そのページを読みながら、当時の町の風景が少しずつ浮かんでくるようでした。そして、この釜石という地名は別の資料の中でも見つかることになります。曾祖父には兄がいました。その兄が、釜石で海産物の仲介の仕事をしていたのです。小さな会社を立ち上げていたことが別の資料から分かりました。もしそうだとすれば、兄は釜石で商売をし、弟だった曾祖父はその仕事を手伝っていたのかもしれません。地元では、どこか定まらない人のように語られていた曾祖父。けれど、別の土地では、別の役割を持っていたのかもしれない。そんなことを考えました。一冊の郷土史から、船大工の先祖。遠くの港。そして、釜石での兄の仕事。それまでぼんやりとしていた家の歴史が、少しずつつながっていくのを感じました。まるで濃い霧がゆっくり晴れていくようでした。
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