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透明な方位磁石と、記憶の果樹園

こんにちは!前嶋拳人です。私たちが毎日、整然とした論理の海で泳いでいるとき、ふとした瞬間に足元を掬われるような感覚に陥ることがあります。それは単なる疲れではなく、現実という名の膜がほんの少しだけ薄くなり、その向こう側にある世界の呼吸が漏れ聞こえてくる合図なのかもしれません。エンジニアとして仕様書という名の地図をなぞりながらも、私は時折、その地図に載っていない未知の領域に迷い込むことがあります。先日、仕事帰りの何でもない路地裏で、ひどく澄んだ音を立てる「透明な方位磁石」を拾いました。それはガラスでできているはずなのに、掌に乗せると水のように形を変え、北を指す代わりに、私の心が一番揺れ動いている方向へと針を向けました。私がその針に従って歩き始めると、いつものアスファルトの道はいつの間にか消え去り、そこには黄金色に輝く「記憶の果樹園」が広がっていました。果樹園の木々に実っているのは果物ではなく、色とりどりの「ガラスの電球」でした。ひとつひとつの電球の中には、誰かがかつて抱いた小さなアイデアや、捨てきれなかった夢が、淡い光を放ちながら閉じ込められていました。私がひとつの電球に触れると、中から懐かしい夕立の匂いと、幼い頃に大切にしていた「赤い自転車」のベルの音が溢れ出してきました。それは、私たちが効率や成果を求める過程で、どこかに置き去りにしてきた純粋な好奇心の残像でした。果樹園の奥には、銀色のミシンを動かして座っている一人の老婆がいました。彼女は自らを可能性の仕立て屋と呼び、空気中に漂う「言葉にならない願い」を拾い上げては、透明な糸でひとつの布へと織り上げていました。彼女が手に持ってい
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