……凪といる時間、当たり前みたいになってた。
月曜の帰り道。曇り空の下、二人の足音だけが並んでいる。少し近い。昨日より、半歩だけ。でも、触れない。凪は、自分の手をぎゅっと握った。触れたいわけじゃない。……少しだけ、触れたい。でも、いま触れたら、何かが変わってしまいそうで。「凪さ。」悠真が、前を向いたまま言う。「この前さ、寂しかったって言っただろ。」心臓が跳ねる。凪は、うなずく。「俺、ちゃんと考えた。」その言葉が、静かに落ちる。曇り空の下なのに、胸の奥だけ、少し明るくなる。「俺はさ……」そこで、言葉が止まる。風が吹く。赤いリボンが揺れる。「……凪といる時間、当たり前みたいになってた。」凪は、息を止める。「当たり前じゃないのに。」その一言が、やさしく、でも確かに響く。触れない。でも、距離が近い。沈黙が、さっきより温かい。「俺、ちゃんと向き合うから。」何に、とは言わない。でも、わかる。凪の胸が、じわっと熱くなる。まだ、約束じゃない。まだ、確信じゃない。でも。期待が、芽を出す。「じゃあ、また明日。」その「明日」が、前より少しだけ、楽しみになる。悠真が振り返る。ほんの一瞬だけ、目が合う。その視線に、“選ばれたい”という願いが、滲む。凪は、小さく笑う。不安は消えていない。陽菜の存在も、消えていない。それでも。この恋は、まだ終わらない。むしろ——ここからかもしれない。
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