好きでいることが、 こんなに苦しいなんて。
帰り道の冷たい空気が、まだ頬に残っている。凪は部屋の明かりをつけずに、ベッドの端に腰を下ろした。制服の紺色が、夕焼けの余韻みたいにまだ目の奥に残っている。(なんで、あんなに笑ってたんだろう)責めたいわけじゃない。でも、窓際で笑う悠真の横顔が、何度も浮かんでは消えない。スマホが、机の上に置いてある。通知は、ない。画面を開く。履歴。最後のやり取りは、昨日の「また話そう」。その言葉だけが、やけに優しくて、やけに遠い。(私が、期待しすぎてるだけ?)ベッドに横になり、天井を見つめる。静かな部屋。さっきまでざわついていた心が、今は重く沈んでいる。好きでいることが、こんなに苦しいなんて。スマホが震えた。心臓が、跳ねる。急いで画面を見る。「悠真」指先が、少し震える。メッセージは短い。『今日、ごめん。ちゃんと話せてないよな』凪の胸が、ぎゅっと締まる。(気づいてたんだ……)続けて、もう一通。『凪と帰る時間、俺は好きだよ』その一文に、涙が、にじむ。うれしい。でも、(じゃあ、どうしてあんなに遠く感じたの)返信しようとして、指が止まる。「好き」という言葉はない。でも、「好き」がある。その曖昧さが、また胸を揺らす。画面を見つめたまま、凪は深く息を吸う。“重くなりたくない”“迷惑になりたくない”“でも、離れたくない”気持ちが、ぐるぐると回る。しばらくして、凪は短く打ち込んだ。『私も』それだけ。送信ボタンを押した瞬間、胸の奥が、少しだけ軽くなる。だけど同時に、この恋はまだ、まっすぐではないことも、わかっている。画面が暗くなる。部屋の中は、静か。でも、凪の心だけは、今日も止まらずに揺れていた。
0