影を裂いた小さなひと言
朝、SNSを開くと、画面いっぱいに人々の「輝き」が並んでいた。友人の旅行写真には、透きとおる海と笑顔。同僚の投稿には「昇進しました!」という報告。同級生の家族写真には、幸せそうな食卓と子どもたちの笑顔。ただ見ているだけなのに、胸の奥にざらつくような影が広がっていく。「どうして自分は…」「みんな前に進んでいるのに…」比べれば比べるほど、心は小さく縮んでいった。その瞬間、心の奥にひそむ法廷の扉が開く。冷たい風とともに、悪徳裁判官が姿を現した。彼の口元には、嘲笑のような笑み。「見ろ。お前は遅れている」「他の者たちは祝福され、称賛されている。だが、お前は?」槌を振り下ろす音が響く。「有罪──。お前は他より劣っている」その言葉は鋭い刃のように胸に突き刺さった。まるで世界中の目がこちらに注がれ、「お前は価値がない」と告げられたように。空気は重たく沈み、人々の顔がみな伏し目がちに曇っていく。比べることの連鎖は止まらない。──そのとき、不意に小さな声が混じった。「……嬉しい」かすかな声だった。誰のものかも分からない。けれど、その一言は不思議なほどはっきりと響いた。重苦しい空気に、ひとすじの揺らぎが走る。曇天を切り裂くように、細い光が差し込んでくる。比べれば不安は強くなる。でも「嬉しい」と口にする誰かの心が、その判決を揺らす火種になるのかもしれない。裁判官はわずかに眉をひそめ、番人たちはざわめいた。声の主はまだ現れない。だが確かに、未来へ続く光の気配がそこに息づいていた。
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