「とりあえずやってみたら?」
これは、ある方が「5年後の、うまくいった自分」から受け取ったメッセージです。
迷っているとき、ひとりでいくら考えても、堂々巡りになってしまうことがあります。でも、もう結果を知っている「未来の自分」に聞いてみたら、案外シンプルな答えが返ってくることがあります。
今日のテーマは「Future Self」。未来の自分に聞いてみる、という技法です。
Future Selfとは、セルフコーチングでなぜ効くのか
簡単に言うと、「すでにその課題を乗り越えた未来の自分」を思い描いて、その未来の自分から、今の自分へメッセージをもらう、というやり方です。
これがセルフコーチングで特に効くのには、理由があります。
コーチとやりとりをしている時には、自分とは違う見方、つまり外側の視点からのヒントを、コーチからもらえることがあります。ところが一人で取り組むときは、その外側の視点を自分でつくらなければなりません。
違う視点を取り入れる方法は、ほかにもいくつかあります。たとえば「これが友達の話だったら、どう言ってあげる?」と考えてみるのは、「人」を入れ替えるバージョンです。Future Selfは、それを「時間」でずらすバージョンだと言えます。「今の自分」ではなく、「もう課題を乗り越えた未来の自分」に聞く。こうして、コーチがいないときにも、外側の視点を自分でつくることができます。
こんな方、いませんか?:転職か、現状維持か
たとえば、こんな方がいたとします。今の会社に残るか、転職するか。何ヶ月も、同じところをぐるぐる行ったり来たりしながら考えている。
「今の会社は安定しているけれど、正直この先が見えない」「転職したら年収は上がるかもしれないけれど、また慣れない仕事を一から覚えるのも、正直言って怖い」。メリットとデメリットを紙に書き出してみても、結局「うーん……」で終わってしまう。今の自分に聞いても、今の自分がまさに迷っている本人ですから、なかなか答えは出てきません。
こういうときこそ、Future Selfが効きます。「数年後、うまくいっている自分」を思い描いて、こう聞いてみるのです。「あの時、何が決め手になった?」「最初の一歩は何だった?」。今の自分には見えない答えを、未来の自分はもう知っているかもしれません。
私自身の経験:コーチングを始めた頃に描いた図
私自身にも、Future Self的な経験があります。
コーチングを始めたばかりの頃、「うまく行動できている」とは、そもそもどういう状態なのだろう、と考えたことがありました。そのときに思い描いたのが、こんな図です。コーチングを通して、人が行動できるようになる。結果が出る。その結果を見て、また次の一手を考える。また行動する。このループが、スムーズに、ずっと回り続けている状態です。
この図は、実はYouTubeチャンネルのバナーにも、説明なしでずっと使ってきたものです。
当時はまだ、そのループはイメージだけで、実際に動く仕組みにはなっていませんでした。そこで、「うまくいっている行動の流れ」を先に思い描いて、それを図にしてみたのです。
そして今、まさにその仕組みが現実に回っています。過去のセッションのテキスト起こしの記録を復習すると、そこからいろいろなヒントが見えてきて、コーチングを続けるモチベーションになります。そして、この動画のネタもそうしたたくさんのセッションの記録から探してきて、またこうして発信しています。当時イメージした未来の自分を、今、実際に体験している、というわけです。
実例:新規事業と、今の仕事の間で
別の方の例もご紹介します。新規事業と、今現在の仕事。その間のバランスを取ろうとして、悩んでいる方でした。こういうパターンは、「あちら立てればこちら立たず」のような関係になりがちです。そういうときは、まず、相撲の取組の勝敗を判定する「行司の視点」で見てみましょう、とご提案しました。どちらの肩も持たない立場で、それぞれのメリットを公平に見てみる、ということです。
さらにそこで、第三者から見た視点を取り入れる技を、いくつかご紹介しました。
一つは、「その課題に直面しているのが、ちょっとした知り合いだったら、どうアドバイスしますか?」という視点です。あまり親しくない知り合いを思い描くのがポイントです。近すぎる友達だと、共感が強くなって、自分ごとと変わらなくなってしまうからです。
そしてもう一つが、今日の本題、Future Selfです。「新規事業が軌道に乗って、収益も自動的に入ってくるようになった未来の自分」は、今の自分に、どんなメッセージを送ってくれているでしょうか。
そこで出てきた言葉が、冒頭にご紹介した「とりあえずやってみたら?」でした。続けて、こう聞いてみました。「何が成功の鍵だったの?」。答えはこうでした。「新規領域では、トライアンドエラーを高速で回すのが鍵だった」。
今の自分が悩んでいる、「うまくいかないんじゃないか」とか「決断する勇気が出ない」という壁を、未来の自分は、もうずっと前に乗り越えているのです。
Future Selfを使うときのコツ
Future Selfを使うときのコツを、いくつかご紹介します。
一つ目。「どれくらい先の未来にするか」は、自分で決めて構いません。半年後でも、5年後でもよいので、今の自分が想像しやすい距離感を選んでください。
二つ目。聞くときは、「どうすればいい?」ではなく、「もう乗り越えたあなたは、何をしたの?」と、過去形で聞いてみます。そうすると、「もうできている」という実感が強くなります。
三つ目。迷っているときだけでなく、大きな目標がまさに達成できる、というときにも使えます。目標が達成できたときには、つい「ふぅっ……」と行動が停滞してしまいがちです。そこで「次は、どんな景色が見える?」と先に聞いておくと、次の新しい目標に向けて、素早くスタートしやすくなります。
おわりに
「Future Self」——未来の自分に聞く、という技法をご紹介しました。今の自分には、なかなか答えが見つけられないと思えるとき、それは「今」にこだわりすぎているのかもしれません。今の自分がまだはっきりとは気づいていないだけで、それを乗り越えた未来の自分は、たぶんもう知っています。
※文中の事例は、プライバシーに配慮し、典型的なケースをもとに設定を変えて再構成した架空のペルソナです。特定の個人・会社を指すものではありません。