第2章 第18話 生前贈与すると、その家は誰のものになる?

第2章 第18話 生前贈与すると、その家は誰のものになる?

記事
法律・税務・士業全般
第2章 ~家のこれからを考える~

前回は「成年後見制度」について考えました。

判断能力が不十分になった本人を、どのように支えていくのか?

そして、成年後見制度を利用していても、家族や後見人が自由に不動産を売却できるわけではない。

そんなお話でした。

では、本人が元気なうちに、家そのものを子どもに渡してしまう方法はどうでしょうか?

そこで出てくるのが、

生前贈与です。

生前贈与は、何のために行う?

例えば、高齢の父親が自宅を所有しているとします。

父親は、

「自分が亡くなった後は、この家を長男に引き継いでもらいたい」

と、考えています。

通常、亡くなった後に財産を引き継ぐことを考えるなら、相続や遺言が関係してきます。

一方、生きているうちに財産を渡すこともできます。

これが生前贈与です。

贈与は、財産を渡す側と、受け取る側の合意によって成立します。

つまり、

「将来、引き継いでもらう」のではなく、「今、渡す」

ここに大きな特徴があります。

家を贈与したら、誰のものになる?

ここが今回、最もお伝えしたいところです。

父親が自宅を長男に贈与し、所有権が移ったとします。

その家は、長男のものになります。

父親が元気であっても、その家の所有権は長男です。

ですから、

基本的には長男が所有者として、その家を貸したり、売却したりする判断を行うことになります。

もちろん、契約や権利関係によって制約が生じる場合もあります。

しかし、

「管理を任せる」のではなく、「所有権そのものを渡す」

これは、家族信託との大きな違いです。

渡した後も、親は住み続けられる?

ここで、一つ考えてみたいことがあります。

父親は自宅を長男に贈与しました。

でも、父親自身は、これからもその家で暮らしたいと考えています。

この場合、どうなるでしょうか?

贈与したからといって、必ず家を出なければならないわけではありません。

ただし、所有権は長男に変わっています。

そのため、

父親はいつまで住み続けるのか?

家の修繕費は誰が負担するのか?

固定資産税は誰が支払うのか?

将来、長男が売却を希望した場合はどうするのか?

こうしたことを、事前に考えておく必要があります。

親子だから大丈夫。

お互いに分かっているから問題ない。

そう思っていても、将来の事情が変わる可能性はあります。

家を渡すことと、その後も安心して暮らせることは、必ずしも同じではありません。

生前贈与にも費用がかかる

もう一つ、忘れてはいけないのが税金です。

生前贈与では、贈与を受けた人に贈与税がかかる場合があります。

一般的な「暦年課税」では、1年間に贈与を受けた財産の合計額について、110万円の基礎控除があります。

ただし、不動産は高額になることも多く、この範囲に収まるとは限りません。

また、一定の要件で利用できる「相続時精算課税」という制度もあります。

こちらは、将来の相続税との関係も含めて考える必要があります。

さらに、不動産を贈与する場合は、

所有権移転登記に伴う登録免許税。

不動産取得税。
(原則として、相続による取得には不動産取得税が課税されません。)

司法書士などに依頼する場合の費用。

といった負担も考えられます。

「今、渡した方が得なのか?」

これは、家族関係や財産の状況によって答えが変わります。

税金の具体的な試算が必要な場合には、税理士などの専門家への相談が大切になります。

家族信託や成年後見制度とは、何が違う?

ここで、これまで取り上げてきた3つの制度を整理してみます。

家族信託

財産の管理を、あらかじめ決めた目的に沿って受託者へ託す仕組みです。

信託の内容によっては、受託者が不動産を貸したり、売却したりすることもできます。

ただし、受託者が財産を自分のものとして、自由に使ってよいわけではありません。

成年後見制度

判断能力が不十分になった本人を法的に支援する制度です。

不動産を貸したり売却したりすることもありますが、本人の利益を考える必要があります。

特に、成年後見人が本人の居住用不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。

生前贈与

財産そのものを、生きているうちに別の人へ渡す方法です。

所有権が移れば、基本的には新しい所有者が貸すことや売ることを判断します。

つまり、

管理を託すのか?

本人を支えるのか?

所有権を渡すのか?

似ているようで、目的が違うんですね。

制度を選ぶ前に、考えておきたいこと

ここまで3つの制度を紹介してきました。

でも、どれが一番良い制度なのか、という話ではありません。

例えば、父親は今の家に住み続けたいのか?

将来、施設に入ったら家を売却したいのか?

家の管理だけを子どもに任せたいのか?

それとも、今のうちに所有権を移したいのか?

まずは、こうしたことを整理する必要があります。

生前贈与は、財産を渡すことができる方法です。

しかし、一度所有権を渡したら、父親の気持ちだけで元に戻せるわけではありません。

だからこそ、慎重に考える必要があると思います。

大切なのは、家族に合った方法を考えること

第16話から、

家族信託。

成年後見制度。

生前贈与。

この3つを紹介してきました。

それぞれに役割があり、メリットもあれば注意点もあります。

どれか一つを勧めたいわけではありません。

私が不動産に関わる仕事の中で大切にしたいのは、

「この家を、これからどうしたいのか?」

ということです。

住み続ける。

貸す。

売る。

今は残しておく。

その選択肢を考えたうえで、必要なら制度を活用する。

制度を選ぶことが目的ではなく、これからの暮らしや財産をどう守っていくのか?

そこが出発点だと思います。

ここまで、家のこれからを考えるための制度や方法を紹介してきました。

では、実際に家を引き継いだ後は、どうでしょうか?

家を残すということは、その家を維持していく責任も引き継ぐということです。

次回は、家を引き継いだ後の現実について考えてみたいと思います。





了
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