第2章 ~家のこれからを考える~
前回は「家族信託」について考えました。
本人が元気なうちに、
誰に、何を、何のために託すのかを決めておく。
そして、その内容によっては、将来、受託者が不動産を管理したり、
貸したり、売却したりすることも考えられる。
そんな仕組みでした。
では、
本人の判断能力が既に低下してしまった場合は、どうでしょうか?
そこで出てくるのが、
成年後見制度です。
成年後見制度は、何のための制度?
認知症などによって判断能力が十分ではなくなると、
預貯金を管理する。
介護サービスや施設への入所契約をする。
不動産について契約する。
こうしたことを、本人だけで行うことが難しくなる
場合があります。
成年後見制度は、
判断能力が十分ではない本人の権利や財産を守り、生活を法的に支援するための制度です。
現在の成年後見制度には、大きく分けて二つ、
1.判断能力が不十分になった後に家庭裁判所に申し立てる「法定後見制度」
2.判断能力が十分なうちに、将来支援してもらう人や内容を本人が決めておく「任意後見制度」
があります。
今回は、不動産との関係が分かりやすいように、主に法定後見制度について考えてみます。
家族信託とは、何が違う?
前回の家族信託と比べてみましょう。
家族信託は、
「財産の管理を、誰に、どのように託しておくか?」
を考える仕組みです。
一方、成年後見制度は、
「判断能力が不十分になった本人を、どう支援するか?」
という制度です。
似ているようですが、目的が違います。
また、法定後見制度の場合、
家族が、
「長男を後見人にしたい」
と希望しても、必ず長男が選ばれるわけではありません。
誰を後見人等にするかは、本人の状況などを考慮して家庭裁判所が決めます。
では、家を貸したり売ったりできる?
ここが、不動産を考えるうえで重要なところです。
結論から言えば、
法定後見制度を利用していても、不動産を貸したり、売却したりすることはあります。
ただし、
「後見人が付いたから、自由に売ったり貸したりできる。」
という意味ではありません。
成年後見制度の中心にいるのは、あくまで本人です。
そのため、
「それが本人のために必要なのか?」
という視点が重要になります。
さらに、本人の「居住用不動産」を処分する場合には、特別なルールがあります。
例えば、
本人が現在住んでいる家。
施設へ入る前まで住んでいた家。
現在は空き家でも、過去に本人が住んでいた家や将来戻る可能性がある家。
こうした不動産を、
売る。
貸す。
賃貸借契約を解除する。
取り壊す。
といった場合には、家庭裁判所の許可が必要になります。
つまり、
施設に入って空き家になったから、家族と後見人で相談して売却する。
というように、簡単に決められる話ではありません。
なぜ、そこまで慎重なのか?
例えば、
高齢の父親が施設へ入り、自宅が空き家になったとします。
施設費用も必要になってきた。
固定資産税もかかる。
庭や建物の管理も必要になる。
子どもたちは、
「誰も住まないのなら、売却して施設費用に充てた方がいいのでは?」
と考えた。
これは、家族として自然な考えだと思います。
ただ、成年後見制度では、
家族にとって管理が大変だから売る、
というだけではなく、
その売却が本人にとって必要なのか?
売却価格は適切なのか?
本人がその家へ戻る可能性はないのか?
売却したお金を、本人の生活のためにどう使うのか?
そんな視点から考えていくことになります。
家族にとってどうか、ではなく、本人にとってどうか。
ここが成年後見制度を理解するうえで、大切なところだと思います。
元気なうちに準備する「任意後見」もある
ここまで読むと、
「成年後見制度は、判断能力が低下してから利用するもの」
と思うかもしれません。
しかし、先ほど触れた「任意後見制度」は少し違います。
本人に十分な判断能力があるうちに、
将来、誰に支援してもらうのか?
それを公正証書による契約で、あらかじめ決めておきます。
そして本人の判断能力が不十分になった後、
家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、
契約の効力が生じます。
つまり、
元気なうちに将来へ備える方法は、家族信託だけではない。
ということです。
ただし、家族信託と任意後見でも役割は同じではありません。
ここでも、
「どの制度が一番いいのか?」
ではなく、
「何のために備えるのか?」
から考える必要があります。
成年後見制度はこれから変わる
そして、今この制度を紹介するうえで、もう一つ触れておきたいことがあります。
2026年6月、成年後見制度を見直す法律が成立しました。
現在の法定後見制度は、判断能力の程度に応じて「後見・保佐・補助」に分かれています。
改正後は後見と保佐を廃止し、補助制度に一元化したうえで、本人に必要な範囲で支援する方向へ見直されます。
ただし、2026年10月現在、この改正部分はまだ施行されていません。
ですから今は、
現在の制度を知りながら、これから制度そのものが変わっていくことも知っておく。
そんな時期なのだと思います。
3つの制度は、目的が違う
前回の「家族信託」
今回の「成年後見制度」
そして次回取り上げる「生前贈与」
この3つは、
「将来の財産について考える」
という点では似ているように見えます。
でも、目的は違います。
家族信託は、
財産の管理を託す。
成年後見制度は、
判断能力が不十分になった本人を支援する。
そして生前贈与は、
財産そのものを、生きているうちに次の人へ渡す。
どれが優れているという話ではありません。
何をしたいのか?
何に備えたいのか?
家を将来どうしたいのか?
それによって、考える方法は変わります。
だからこそ、
制度から選ぶのではなく、目的から考える。
第15話から繰り返してきたこの順番が、
やはり大切なのだと思います。
次回は「生前贈与」
親から子へ家を贈与したら、
その家を貸すのは誰なのか?
売ることを決めるのは誰なのか?
そして、家族信託や成年後見制度とは、何が違うのか?
それを整理してみたいと思います。
了